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共同通信の予算要求の記事はちょっとわかりにくい

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共同通信が「予算要求110兆円超 24年度、防衛・国債費膨張」という記事を出している。共同通信はリベラル色の強い媒体だ。短い記事の中で「防衛費が膨らんでいる」点を強調し平和主義からの逸脱が起きている上に財政悪化が懸念されると主張したかったのだろうと思う。

だが記事を読んで実際のポイントは財源が不明瞭な中「これからさらに予算がさらに積み増しされる可能性が高い」という点にあるのだろうと感じた。

護憲リベラル色を強めるとこの辺りが伝わらなくなるが、国民の知る権利にとっては重要なポイントだ。あとはこの事実を踏まえた上で各個人が投票判断すればいい。最終的に増税を受け入れるならばそれはそれで国民の選択だ。

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記事のポイントは中段にある。最終的には財政悪化が進みそうと着地させている。日銀が金融政策を徐々に軌道修正しているのだからこれまでのような国債依存は継続できず従って増税ということになるが、共同通信はそこまでは踏み込まず「財政悪化が懸念される」と書いている。

  1. 財務省が31日に締め切る概算要求の総額は、23年度の110兆484億円や、過去最大だった22年度の111兆6559億円を上回る可能性がある。
  2. 例外的に金額を示さなくてよい「事項要求」とした物価高や少子化の対策費が後から上積みされるため、年末に決まる予算案の総額は過去最大だった23年度の114兆3812億円を超える可能性もある。
  3. 税収不足を国債発行で穴埋めする構図は変わらず、財政悪化が進みそうだ。

問題は2番目である。これがわからない。共同通信の記事には予算要求総額と当初予算という2つのグラフが出てくる。普通は財務省が予算を審査しここから予算を減らしてゆくのだが、去年の岸田政権でまとまった23年度予算はここから増えている。そもそも当初予算という言葉が解説されておらず(当然知っているものとして扱われている)意味がよくわからない。

予算が決まる仕組みは次のようになっている。

まずお盆前後に各省庁から予算要求を募る。これを締め切ってから財務省が審査する。普通は「これはいらないですよね」といって減らしてゆく。しかし岸田政権では、これに政権の重点政策が乗る仕組みになっている。東京新聞が去年の事例を書いている。去年は「新しい資本主義」が重点目標だった。各省庁は「官僚の東大力」を駆使して作文をして「なぜこれが新しい資本主義関連予算であるか」を説明すれば予算が復活できる仕組みになっている。

新しい資本主義なのに…新しくない事業の予算増額要求が止まらない 「関連する」と主張する省庁は何と説明?(東京新聞)

東京新聞は「内容があいまいだ」と批判しているがおそらくこれこそが岸田総理の狙いだったのだろう。内容が曖昧な看板を掲げると官僚の「作文」はやりやすくなる。どうとでも取れるからである。新しい資本主義は「重点政策なのに曖昧」なことが批判されていたが、おそらく「曖昧であること」それ自体が存在意義だったのだろう。

そう考えるとこれまで少子化対策で具体的な項目が出てこず「どこか曖昧だった」理由がわかる。これも官僚の宿題を簡単にする工夫なのだろう。今回はこれに「物価高対策」が加わる。効果が出る必要はない。官僚と族議員が満足できれば政府の統治にとっては有効だ。あとは選挙対策だけをすればいい。

岸田総理が政調会長時代に学んでしまったのはこれだったんだなと感じた。岸田総理は清和会系の官邸主導を改めて各省庁が主体的な予算を編成する体制に戻したい。何でも聴き放題に聞いてしまうと自分の色が薄まるので看板政策を掲げコンテストをやらせようとしているのだろう。国民のためになるとはとても思えないが政府統治という意味ではうまいやり方だ。

このやり方だと当然効果が曖昧で効果が薄い予算が膨張することになる。すでに財務省は「国債依存はできない」という既成事実を積み上げている。日銀にYCCを軌道修正させ、政府税調や令和臨調などを通じて「増税の必要性」を説いている。あとは岸田総理が叩かれ役になって「色々検討してみたが増税しかなかった」と言ってくれればいい。

この戦略で失敗したのが野田政権だった。「消費税増税」に追い込まれた。野田政権の失敗は党首討論で安倍総裁(当時)に解散しますと言わされたことだった。ただこの時は安倍総裁の方が驚いていた。実は自爆だったのかもしれない。

2012年11月14日の党首討論。野田首相は突如、次期通常国会での衆院議員定数削減などを条件に衆院解散を宣言した。自民党の安倍総裁は上ずる声で「約束ですね」と繰り返した。虚を突かれたのは、明らかだった。

[決戦の記憶]「サプライズ」不発、惨敗…2012年・野田内閣「近いうち解散」(読売新聞)

衆議院の任期はまだ2年残っている。参議院選挙もつい最近のことだった。岸田総理は解散総選挙さえ諦めれば増税を推進することができる。「後のことはおそらく後の総理・総裁が何とかするだろう」と考えればおそらく増税などの国民負担増をやりやすいポジションにいる。

総理大臣が国民と官僚のどちらを向いているのかは別にして「実は色々と考えているのだなあ」と関心させられた。国民は感情的には反発するだろうが最終的には現状を温存し権威には逆らいたくないと考えている。「意外と御し易い」と岸田政権は考えているのかもしれない。

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