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【簡単なまとめ】 日本と欧米のメディアは日米韓首脳会談報道をどのように総括したか

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日米韓首脳会談が終わった。マスコミではそれなりの大きさで扱われている。一方でヤフコメなどではあまりランキング上位には上がってこなかった。その評価や注目度は年代によってかなり差があるのかもしれない。

日本の新聞はアメリカのコミットメントについて称賛しているところもあれば「前例のないレベル」の内容について懸念を表明するものもある。日米同盟にメリットとリスクがあることがわかる。

一方でCNNとBBCは全く異なる視点から評価している。「世界」が日韓関係をどう見ているかがよくわかり興味深い。

韓国の報道は概ね冷静だが、ハンギョレ新聞のように「東洋版のNATOを思わせる共同対処を思わせるところがある」などと書いているところもある。すこし「飛ばし気味だなあ」と感じる。

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イアン・ブレマーのYouTubeフッテージQuickTakeがキャンプ・デービッド会談を歴史的に重要だったと評価している。これを聞いた時にはよく理由がわからなかった。

今回最も印象的だったのが「日本の大人たち」がこの会談を重要視する一方でネットではあまり評判にならなかったという点だ。日米同盟が持つ意味合いが世代によって異なることがわかる。少なくとも積極的にコメントをするような対象ではなかったようだ。

高齢者がターゲットになっているテレビや新聞などの国内メディアはこれまで通りの安全保障環境が維持されたことに安堵しているようだ。しかしSNSでは日米同盟に対する扱いはそれほど大きくない。主語を中国にすると読まれる傾向があるのでSNSでは中国に関する蔑視感情のほうが注目のドライバーになっているのかもしれない。

アメリカのコミットメントに注目する日本のメディア

もっとも手堅く決定事項をまとめたのがNHKである。大体これだけを読めば何が決まったかということはわかる。要するにこれまで対北朝鮮のミサイル対策だった関係が「開かれたインド太平洋の共同対処」の枠組みに格上げされたと評価している。シーレーン防衛は日本にとって重要だが単独対処は難しい。だから開かれたインド太平洋戦略でアメリカを味方につけておきたいと考えるのだ。

新聞の対応は2つに分かれる。読売と産経は「アメリカのコミットメントが引き続き保証された」と最大限肯定的に扱っている。読売新聞は日米同盟推進派なので当然といえば当然だが、裏返せば日本の保守に「アメリカに対する見捨てられ不安」があることがわかる。キャンプデービッドに首脳が招かれるのは異例の厚遇であり、アメリカが日韓との関係を重要視していると強調している。

一方の朝日新聞は記事で前例ないを鉤括弧付きで表現し「あまり内容がないのでは」と示唆している。朝日新聞は米韓同盟に日本が「引き摺り込まれた」というような分析をしている。つまり今後応分の負担を求められるだろうと予想しているわけだ。今後の防衛予算拡大とそれに伴った増税などは確かに気になるところである。

とにかく心理的に安心を得たい「保守」と言われる人たちと先回りして負担の増加と巻き込まれリスクの増大を心配するリベラルの違いということになる。

あの仲が悪かった日韓が……という表現のCNNとBBC

CNNとBBCの書き方は全く異なっていた。CNNは極めて険悪だった日韓関係をバイデン大統領が修復したと書いている。一方でBBCはこれまでも仲が悪かった日韓関係はいつまでこの状態を保つことができるのだろうかというヘッドラインになっている。大統領選挙に備えてバイデン大統領の外交的成果を強調したいCNNと全く関係がないBBCの違いだ。だが、日韓関係は険悪だという認識は共通しており、台頭する中国の脅威が日韓を近づけたという認識も共通している。

イアン・ブレマーのYouTubeフッテージQuickTakeに至っては「バイデン大統領の歴史的成果」であると最大限に評価している。トランプ政権の「アブラハム合意」と同等だとまでいうのだ。アブラハム合意はイスラエルと中東各国の合意なので「日韓関係は水と油」と評価されていることになる。つまりいつもいがみ合っている仲が悪い国がアメリカの主導で和解したという評価なのである。

なおイアン・ブレマーのYouTubeは概要欄にスクリプトが掲載されている。時事英語の聞き取りに挑戦したい人は一度概要欄に目を通して内容を大筋理解した上で何度か聞き取りをするとヒアリングの良い練習になるかもしれない。確かに練習は必要だが、要点さえわかれば英語の聞き取りはそれほど難しくないということが実感できるだろう。

韓国の扱いは比較的冷静だが

一方の当事国の韓国の報道も気になったので一通り調べてみた。日米韓の連携について型通りに書いたものが多く特に保守・革新で大きな違いはないように感じられた。

唯一突出していたのがハンギョレである。日米韓の共同対処について「東アジア版のNATOになるのでは?」と前のめりな報道だ。日本が朝鮮半島有事に「巻き込まれる」ことになるので、おそらく日本でこのようなことを書けば大騒ぎになるだろうがアメリカだけでなく韓国にも前のめりな人たちがいることがわかり興味深い。

3カ国が18日に出す合意文で最も議論を呼ぶものとみられる内容は、危機状況が発生した際、各国が相手国と「互いに対話し関与する」という部分だ。これはNATO憲章第4条の「(一国の)安全保障が脅かされた場合は、共に協議する」という文言を連想させる。NATOは同条項のすぐ後ろに、「一国に対する攻撃を全体に対する攻撃とみなし、共同対応する」という集団安全保障条項(第5章)を置いている。そのような意味で、今回の合意は今後の東アジア版NATO創設を念頭に置いた初の具体的な動きといえる。

影の懸案事項「福島の処理水問題」

今回日本側が注目したもう一つのポイントが福島の処理水問題だ。日本では中国や韓国野党の反発が主に注目されるのだが「言及がなかった」ことがニュースになった。2つの点で重要だ。まず日本は実は「国際的非難」を恐れていたことがわかる。日本にとって「国際的」とはアメリカと西ヨーロッパの非難を意味している。IAEAに合意を取り付けたがそれだけでは不十分だった。環境派から支持を受けているバイデン大統領と直接会い「批判されない」ことが大前提だったのだろう。岸田政権がとりわけアメリカの批判に敏感であることがわかる。

さらに、バイデン大統領もこの話題については取り上げなかった。韓国では野党が反発している。尹錫悦大統領が「間違った」対応をしてしまうと議会選挙を控えた尹錫悦政権にとって不利な材料になりかねない。そこでこの話題にあえて触れないことにしたのだろうと分析するメディアもあった。尹錫悦大統領自らも「議題にならなかったから何も言わなかった」と説明している。日韓関係が相違点にはあえて触れず中国を念頭にかろうじてまとまっているということがわかる。

整理すると次のようになる

SNSは日米同盟はあって当たり前と考えるためあまり関心が高くない。特に安倍政権以降は常に中国の脅威が喧伝されてきたため「日米同盟は自明である」と考える人が多いのだろう。

テレビや新聞などはアメリカが日米同盟から距離を置くのではないかという潜在的な恐れを持っており「岸田政権がアメリカに承認され」たうえに「引き続きアメリカの協力が得られた」ことに安堵している。特に保守系のメディアにはその傾向が強い。

一方で朝日新聞などの一部のメディアは「アメリカの前のめり姿勢」に対して慎重な態度だ。東京新聞にも地域の分断を気にする記事があった。ハンギョレ新聞も「NATOのような共同対処か?」などと書いているので、確かにアメリカや韓国の一部の人たちが持っている「前のめり」な姿勢に日本が抵抗しきれなくなる可能性も高まっていると感じる。

この二つの態度は日米同盟の2つの側面を端的に表している。吉田茂以降日本は安全保障をアメリカに依存することで経済成長に全ての資源を集中することができたという経緯がある。これが日米同盟のメリットだ。と同時に朝鮮戦争・ベトナム戦争以降常に巻き込まれ不安にさらされてきた。戦争に引き入れられて過剰な負担を迫られるのではないかというリスクを感じている。つまり、メリットの方に集中するかリスクに着目するかで日米同盟の「損得勘定」が変わってくるのだ。

一方で、アメリカは「あの仲が悪かった日韓が……」というような書き方をしている。日韓関係の実情が意外と世界に知られていることがわかる。確かに親日的だった政権が政権末期になると「反日」に転じる事例は過去にもあった。今後尹錫悦政権がどの程度米韓同盟重視の姿勢を貫き続けるのかにも注目が集まる。

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