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恒大集団の事実上の破綻 中国の擬似資本主義には「肝心なアレ」がなかった

中国の恒大集団が事実上破綻した。なぜか申請が行われたのは中国ではなくアメリカだったが恒大集団は「破綻ではなく単に債務の再編成がしたいだけだ」と主張している。チャプター15によって破綻すると債務再編を前提に資産が保全されるためだ。

このニュースを見て「そもそもなぜ中国で破綻させなかったのか?」と思った。おそらく破綻という手続きがないのだろう。中国の資本主義は所詮「擬似」だったことがわかる。資本主義に欠かせない企業の死という概念がないのだ。いつまでも生きている企業はないのだから今後「ゾンビ企業」が増えることも予想される。

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中国の恒大集団がアメリカの連邦破産法のチャプター15適用の申請をした。事実上の破綻処理と見られるが恒大集団は「破産申し立てをしたわけではない」と言っている。「破産(企業の死)」という概念が受け入れられないのかもしれない。

中国の不動産会社は資金繰りのために新しいプロジェクトで金を集めその金で既存のプロジェクトを回すなどの自転車操業を繰り返している。止まると死んでしまうので動き続けているが一度破綻したスキームが改善することはなくどんどんと負債額を膨らませ続けている。実質的にはもう死んでいるのだがそれを認めない(あるいは認めさせない)かぎりいつまでも歩き続ける。

恒大集団は既に2021年にデフォルトを起こしており現在の負債総額は推定3000億ドルと見られている。CNNは「債務総額は昨年末2兆4370億元(約49兆円)に達した」とされる。すでに日本より大きくなった中国の国内総生産(GDP)の約2%に当たるそうだ。

金融市場はかなり動揺しているようだが、このニュースは従前言われていたような「リーマンショック」のような影響を与えるに至っていない。さらにこのニュースをきっかけにして中国の土地バブルが崩壊し中国の市民が騒乱を起こし共産党指導体制が崩れるというようなことも起きていない。

あまり派手なイベントがなかったために「なんだこんなものか」と感じる。だが見方を変えてみればこれこそが問題なのだろう。つまり中国の擬似資本主義には倒産・企業清算という資本主義社会であれば当たり前にある仕組みがないことがわかる。だから企業はいつまでも潰れず赤字を拡大させ続ける。さらに経営資源が解放されないため無能な経営者と更新されない企業文化やビジネルモデルがいつまでも生き続ける

そもそも「企業精算」の仕組みがないため、体制崩壊を恐れた中国政府が「なんとかしてくれる」という独特の期待が生じる。融資平台(LGFV)が発行する社債の利回りが低下しているそうだ。結局は中国政府が負債を引き受けるだろうから社債を買っても大丈夫だろうということになり投資家が殺到しているそうだ。おそらく壮大なモラルハザードが起こるだろう。政治と結びついた企業は経営努力をしなくなる。

中国、融資平台の社債利回り低下 暗黙の政府保証見込み買い殺到(ロイター)

資本主義が新しいため中国にはまだ企業を世代交代させる必要性を感じてこなかったのだろう。習近平国家主席は明らかにこのような経済を扱いかねている。

最近では反スパイ法を嫌う企業が中国から逃避している。消費先としては期待しているのだろうがビジネスを行う国ではないという認識が広がっている。つまり体制に対する安全保障に気を取られるあまり中国のビジネスを抑制する方向に進んでいる。さらに起業家の中から「ヒーロー」が現れればやがて彼らに国民の人気が集まりかねないというジレンマもあるようだ。

今後も中国企業を適切に破綻させる方法が見つからなければ問題は雪だるま式に膨らみやがてコントロールできなくなるまで膨らみ続けることになるだろう。

ABEMAニュースは中国の不動産市場は既に混乱していると解説する。2年間ダラダラと処理をやったことで負債は48兆円にまで膨らんだ。中国では鬼城(グェイチョン)と呼ばれる誰も住んでいないマンションが放置されている。お金を振り込んでも実際に建物が引き渡されるかどうかわからないのだから不動産に投資をする人は減るだろう。海外の投資家が中国を離れ国内投資家が不動産投資を控えるようになれば当然経済は減速する。

これまで中国は部分的に導入した資本主義によって大きな恩恵を得てきた。しかし今後は民間企業や地方政府が積もらせた負債の責任を取ることになりそうだ。原因は「企業を適当なところで潰すことができない」からだ。

資本主義において企業の死である倒産がいかに大切な機能を持っているのかということがよくわかる。古い企業経営者を放逐して資本というリソースを解放するためにも倒産はなくてはならない仕組みなのだということがわかる。

恒大集団はEV事業などで事業多角化で生き残りを図ろうとしてきたが結局成功しなかった。慣れない商売に手を出し足掻けば足掻くほど泥沼に引き摺り込まれるという構図である。

そもそもバブルがはじけた中国の不動産不況が回復する見込みはないのだが「企業を終わらせるノウハウが政府にも企業にもない」。今後の企業再建は極めて難しいものになることが予想される。

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