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マイナンバーと紐付けが終わっていない健康保険アカウントの総数は36万人分

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立憲民主党が協会けんぽに対するヒアリングを行い、結びつけが終わっていないアカウントの総数が36万件程度あると確認した。厚生労働省は「ひも付けを急ぐ」としているが具体的な手段やタイムラインは提示しなかったようだ。

この件に関しては40万人分のアカウントは全て不正利用であるという誤解が広まっている。ニュースを読めないかあるいは読んでいないのに政治議論に参加したがる人が増えていることも浮き彫りになった。いわゆる「情弱」と言われる人たちだがSNSで可視化され無視できない存在になっている。

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まず最初にはっきりさせておきたい。今回の件はマイナンバーと健康保険情報の紐付けの話だ。マイナンバーカードと健康保険情報の紐付けではない。2016年からスタートしているにもかかわらずまだ「未了」という点に問題の根幹がある。厚生労働省が努力すれば減らせるのかあるいは完全になくすことができないのかについて厚生労働省からの見解はないのだが、実際には完全になくすことができていない。

立憲民主党が協会けんぽにヒアリングを行いマイナンバーを持ってない健康保険のアカウントの総数が36万件であることが明らかになった。数字は協会けんぽではなく厚生労働省の調べによるもので7月末の数字だ。異動があるために総数は固定されない。原因はおそらく「うっかり健康保険組合にマイナンバーを渡していない」といったものであると思われる。ただし数が多いので1%弱でも膨大な数になる。なお今回の話は協会けんぽの話であって国民健康保険とは別枠の話になる。

党内にも結束がなく野党再編もままならないため立憲民主党は現在の政府を批判し一つでも多くの政策を潰すことだけを目標にした政党になっている。国民の反発の大きいマイナンバー健康保険証は彼らの格好のターゲットだ。日本が難しい局面にあることを考えるとこの態度は野党としてはかなり心もとない。

ただ40万人という数字が一人歩きするより厚生労働省を入れたヒアリングが実施できたのはよかった。これで厚生労働省の官僚たちはこの状況をオフィシャルに「上」に伝達しやすくなるだろう。資格確認証と呼ぶか紙の健康保険証と呼ぶかは別にしてこれでマイナ健康保険証への完全移行はなくなったと言って良い。岸田政権が5年10年のスパンで続かない限り後のことは後の内閣が決めるはずだ。

一方でSNS上では新聞の内容を読んでいない人たちによる間違った情報も出始めている。それが「外国人陰謀論」だ。中には40万人はほとんどが不正受給者であるなどと根拠のない指摘をする人たちがいる。

彼らの「ロジック」は次のようなものだ。

マイナンバーがない健康保険証のデータが40万人分あるということはマイナンバーが不詳なのに健康保険証が作れたということだ。彼らはきっとなりすましに違いない。つまり、マイナンバー健康保険証に反対する人は外国人にくみする不正利用推進派なのだから早いところ紙の健康保険証を廃止したほうがいい。

おそらく、この情報に引っかかった人たちは元のニュースを読めていないかあるいは興味のない人たちだろう。政治的な影響力はないと思うがこれをSNSなどで披瀝すると失笑を買う可能性がある。

落ち着いて原典を見てみよう。それほど難しいことは書かれていない。

健保組合の回答:「Aさんの情報とマイナンバーが一致せず、ひも付けできなかった可能性が高い。一度も登録された形跡はない」

つまり、Aさんは健康保険証は持っている。仮に不正利用だとすればその人は「保険料を支払って不正利用している」ことになり辻褄が合わない。

そもそもこのニュースは「協会けんぽ」の発表だ。では協会けんぽとは何か。

マイナンバーカードと一体化した保険証をめぐり、中小企業の従業員などが加入する「協会けんぽ」で、およそ40万人分の情報が、マイナンバーとひも付いていない状態になっていることが分かりました。

中小企業の従業員なので給料をもらっていて保険料天引きになっているのだから健康保険の不正利用をする必要はない。

不正利用だ!と大騒ぎした人たちはこれが理解できていなかったか、あるいは最初から読んでいなかったことになる。議論についてくることができていないのである。

ただし、この話は火のないところに煙を立てているわけでもない。つまりこれはこれで議論する必要がある。

安倍政権が外国人労働者を増やしたことで健康保険証などのなりすまし問題が起きている。これは現在でも紙の健康保険証の大きな欠陥の一つとされているが2018年ごろには既にそれなりに大きな問題になっていた。

最も簡単な解決方法は外国人に在留カードの提示を求めることだが外国人差別になる。だから、「全員に身分証明書」を求めることにした。だがこの時には「日本人の中に写真付きの身分証明書を持っていない人がいる」ということが問題になっていたのである。

厚生労働省にとって、確かにマイナ健康保険証は「渡りに船」だっただろう。ちゃんとしたPMを置ききちんと検証をした上でエラー処理の窓口を準備していればこれほど大きな問題になることはなく普及も進んでいたかもしれない。

もともと「外国人は何か悪いことをやっているに違いない」という差別感情がある上に、政府・与党を妨害する野党は外国人に乗っ取られているに違いないぞというあまり根拠のない憶測がある。そこで、政府が推進しているマイナ健康保険証を邪魔する勢力は外国の影響を受けた人たちなのだという憶測が生まれる。

いずれにせよ、全員に写真つきIDを持たせるという政策には無理がある。理由は二つある。そもそもマイナンバーカードの取得は義務ではない。外国人に対する在留資格者カードのような住民登録カードを国民に持たせようとすればおそらく「何を管理したいのだ?」と大騒ぎになるだろう。

このため、マイナンバーカードは国民必携の写真IDとしては設計されておらず「持ちたい人が持てばいい電子認証システム」として着想されている。ここに「渡りに船」と言わんばかりに後付けで身分証明書機能を入れてしまったために「大切に保管しておくべき電子認証システム」といつも持ち歩く身分証明書の役割が混在した。これが国民を当惑させている。

もはや新聞記事が読めない人たちが大勢いてスマホで政治議論に参加しているということがわかったのは面白かった。あるいは忙しすぎて新聞を読む気になれないという人も含まれているのかもしれない。

ITプロジェクトが全くわからない政府、提案能力がなくひたすら与党の間違い探しに明け暮れる野党、国語ができない国民を抱えつつも、なんとなく社会が回っているのだから「日本はすごい国」と言えるのかもしれない。

昭和の時代にはだいたい社会に決められたレールの上に乗っていれば難しいことがわからなくてもなんとなく家が持てて子供を産み育てることができていた。国民に過剰な期待をせずそれなりの工業国・貿易立国として機能するようにうまく仕組みが構築されていたのだ。

ただ、平成・令和になりそれらの仕組みは経年劣化を起こしあまり頼りにならなくなっている。この先超人のような政治的リーダーが出て来来ない限り、今後は自分できちんと情報を評価して取捨選択できるようになるべきだろう。あるいは国民の能力に合わせてスピードを落とし「それなりに稼げる国」に変わってゆくのかもしれない。

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