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戦争を終わらせる「ほどよい」妥協点を探し始めたNATOと猛反発するウクライナ

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ウクライナを後方支援しているはずのNATO事務総長の側近が「ウクライナが占領地を諦めればNATO加盟への道が開かれる」と発言しウクライナの反発を呼んでいる。ただし今回の発言はこの側近の暴走とは思えない。NATOが支援疲れを起こし「程よい」落とし所を探しているということを意味するのだろう。支援の成果がでない苛立ちはアメリカ合衆国でも募っており今後政治問題化しそうだ。ウクライナは少ないながらも成果を上げ「自分達は支援するのに足りる存在である」と示そうとしている。今後もウクライナが支援を得続けるためにはいくつかの領土を奪還して結果を示してゆくしかない。

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CNNが次のように書いている。

北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長の側近が、ウクライナがロシアに占領された領土を諦めれば和平達成やNATO加盟への道が開かれる可能性があると発言し、ウクライナの反発を買う事態となっている。

この側近はスティアン・イェンセンという人で2017年から現在の仕事をしている。発言はノルウェーの新聞に対してなされたものである。「領土を諦めろ」というのはかなり大胆な発言だ。当然、ウクライナは「領土についてはいっさい妥協しない」と反発した。これを受けてNATO側は「条件を決められるのはウクライナだけだ」として発言を打ち消した。

発言の真意はわからないがウクライナはNATOの支援が無条件かつ無期限でないということは悟っただろう。つまりウクライナに対して一定のプレッシャーを与えるのには役立ったはずだ。

一方でNATO側からこの戦争を止めるのが難しいという現実も露呈した。

背景にあるのはこの戦争をめぐる本音と建前だ。建前ではNATOはウクライナを支援していることになっている。だから決められるのはウクライナだけということになる。だがロシアとの対立の最前線にウクライナを立たせているという側面がある。このためロシアを封じ込めるというメリットと支援というコストを天秤にかけて微妙な発言を繰り返しているのだろう。

ただしこのような発言をしているのはNATO幹部だけではない。サルコジ元大統領も「和平のためには係争地の住民投票をやるしかないのではないか」と発言し内外で反発されているという。

どうやら思う通りに反転が進んでいないという焦りが背景にあるようだ。

メリトポリ奪還などの具体的成果が上がっていないことが問題視されている。ワシントンポストの報道を共同が伝聞している。このような情報を意図的にリークすることでアメリカの情報機関は有権者たちに対して戦況を伝えている。更なる予算獲得を目指すバイデン政権から戦況に対するネガティブな情報が提示されることはない。

アメリカの世論も割れている。民主党のリベラルはウクライナへの支援を続けるべきだと主張するが、共和党と民主党穏健派は「もう十分にやったのではないか」と考え始めている。民主主義を「悪の専制主義から守る」とのわかりやすい主張が一部の層に受け入れられ引っ込みがつかなくなっている様子が窺える。民主党リベラルの支持を受けたいバイデン大統領は支援に前のめりである。売電大統領に対しる懐疑心がワシントンポストやウォール・ストリートジャーナルの「リーク」によって示されるという構図は対日外交・安全保障でも見られる構図である。

アメリカのメディアの中にはかなり「ウクライナの戦争」に対するアメリカの支援の在り方を疑うメディアが出てきた。Newsweekはバイデン大統領の「のめりこみ」はアメリカに分断をうむだろうといい、バイデン政権の支援は「間違い」であり成果が出ていないと糾弾している。

Newsweekの最新の報道は「実はウクライナは崩壊寸前だった」というものだ。表向きはウクライナ軍の前進を伝える記事で「実はウクライナは崩壊寸前だった」などと書く必要はない。記事をよく読むと今回の件も「ウクライナのプロパガンダに利用されるだろう」と指摘されている。さらに全徴兵事務所のトップの解任も国民の不満を逸らすために行われているのだろうと辛辣な分析になっている。専門家のチョイスにNewsweekのポジションが滲む。

アメリカに安全保障の全てを依存する日本人はできるだけアメリカの選択は間違っていないと思いたい。だから、こうした不都合なニュースをあまり流さない。日本が有事に陥った際に同じようなためらいや政治的混乱が起きるだろうという現実を直視したくないからなのかもしれないし、税金による支援をあまりしていないためそれほど痛みを感じていないからなのかもしれない。

だがアメリカ合衆国は多額の税金を既につぎ込んでいる。さらにバイデン大統領は追加支援を議会に要請する意向だ。納税意識が高いアメリカで「どれくらいつぎ込めばどれくらいの成果があがるのだろうか」と考えるのはむしろ当然のことなのだろう。

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