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東海道山陽新幹線のお盆の大混乱を心配しても仕方ない理由

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東海道・山陽新幹線が混乱したとして連日ニュースになっていた。まず15日の台風の影響で計画運休が行われた。このため各車両基地の新幹線の滞留状態が変わってしまった。さらに16日に雨で一部区間に影響が出た。例外的に新大阪で分離運転を行ったためこれが全線に波及し終夜運転を行った。最終電車が到着したのは朝の6時半だったそうだ。結果的に17日に発車の準備が整わなくなり17日にも影響が出た。テレビは盛んに「定時運行が当たり前の東海道・山陽新幹線でなぜ?」という特集を組んでいた。ただ、この問題はそれほど心配しなくても大丈夫だと思う。単に現実を認め「新幹線が遅れたら仕事を休めばいい」と考え方を変えるべきなのだろう。

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普段と違うことが起こると人々は「なぜ?」を知りたがる。このなぜ?を各社は詳細に追っている。

ただしこの「なぜ」が原因究明につながることはない。ワイドショーはさかんに「とはいってもJR職員の人たちも大変だったようだし」などと言っていた。つまり「これは仕方ないね」と納得するためにわざわざ仕組みを説明しているのだ。

一体何が起きたのか。

今回の件では鉄道ジャーナリストの梅原淳氏が活躍していた。氏の説明をまとめると次のようになる。

まずお盆で100本以上が増便されていた。平日は320本だがお盆時期は420本の運行だった。つまり既に普通ではない状況になっていた。この本数だと4分間隔で運転しなければならない。「行き」であれば人々は帰省を諦めたのだろう。だが、コロナ明け(正確には5類移行後)初めての本格的な帰省シーズンだったため「長い間帰省できていない」という事情があり、休みを数日余計に取ると職場の人に迷惑をかけるからどうしても帰りたいという人も多かった。このため、どうしても帰りたいという人の数を減らすことができなかった。

しかし、それでも「もう少し仕組みを改善すればなんとかなるのではないか」と考える人は多いかもしれない。

ダイヤ補正はある程度コンピューター化されているそうだがイレギュラーな状態だったために「一旦止めて手計算でやり直す」ということも行われたようだ。さらに人間が意思決定をするとその決定をプログラムに直してフィードバックする必要がある。このため「運行をいったん全部止める」とか「全てを手計算にする」というようなことが行われていたようだ。

梅原淳さんの「人間とコンピューターのあわせ技」で仕上げる新幹線の細かなダイヤ設定という記事を見つけた。2021年に書かれている。そもそも新幹線のダイヤはコンピュータで大枠を仕上げて人間が修正するというやり方をとっているそうだ。

梅原さんによれば、新幹線の運行システムは「コムトラック」と言われる。1990年代に導入されたコムトラックの導入によりより複雑なニーズに対応できるようになった。ダイヤが乱れてもコムトラックを使ってタイミングが判断できる。ダイヤの策定だけでなく信号装置も連動して動く仕組みになっている。さらにコンピュータシステムは二重になっており、信号保安装置は三重になっている。さらに予約情報とも連動していて混み具合によって臨時列車を走らせることも可能になる。

とにかくものすごく複雑なのだ。

ただし、最終判断は人間が下す仕組みになっている。コンピュータは可能性を抽出することは得意だ。いくらでも可能性を思いつくがそのどれが最適なのかは決められない。最後の判断は人間がやっている。イレギュラー状態になると人間が意思決定してその情報をコンピュータにフィードバックする必要がある。これが間に合わなくなると「全部止めて手計算をやった方が早い」ということになるのだろう。

つまり、今回の話は次のように整理することができる。東海道新幹線のニーズはどんどん複雑化している。これに対応しようとしてダイヤ調整の仕組みを精密化していった。一方で「どんな時も新幹線は動く」となると人々は余裕のないきっちりとしたスケジュールを立てて新幹線に依存するようになった。

こうしてどんどんと状況が精密化・複雑化してったらどうなるか。ある時点でそのシステムは複雑さゆえに崩壊する。今回は「お盆休み」に「災害級の気象条件」がたまたま重なったことでシステムが崩壊したことになる。

ただこれは「日本特有」の話ではない。アメリカの事情に詳しい人は「サウスウェストの事例と同じだな」と気がついたに違いない。効率的な運航で知られるサウスウェスト航空の運航が2022年のクリスマスシーズンにメルトダウンした。災害級の冬の嵐に見舞われたことが原因とされている。

サウスウェストの事例は研究が進んでいて原因も特定されている。時代遅れのコンピュータシステムと機体の準備が最小限になっていたことが原因だ。ただし、このように極端にスリム化された状態でも「例外的なイベント」を除いてなんとか平常運航を維持することができるという状態になっているのだそうだ。

こうした「例外的なイベント」はブラックスワンイベントと呼ばれる。黒い白鳥という意味で「滅多に起こらない」ことを意味する。サウスウェストの場合はハブ・アンド・スポークという代替手段がある。だが東海道・山陽新幹線にはそのような代替手段がない。つまりブラックスワンに対処するために東海道・山陽新幹線に対して、過剰なシステム投資をする、もう一つ同じようなものを作る、あるいは諦めて受け入れるという選択肢が生まれる。

もちろん中央リニア新幹線のように代替手段を作ったりコムトラックにAIを導入し精緻化を図るなどの工夫はしたほうがいいだろう。だが例えば中央リニア新幹線は静岡県の協力が得られない。今後中央リニア新幹線ができれば静岡県の東海道は「脇道化」してしまう。関西のルートもまだ決まっていない。京都を通すか奈良を通すかなどさまざまな駆け引きがあるようだ。中央に集中し地方が過疎化するという状態なのでどこも「中央軸」を譲れないのだろう。

こうなると「これまで機能しているものを騙し騙し利用しながら」「この状況を受け入れる」しかないということになる。

今後もお盆や年末年始の繁忙期に気象災害が起こるということは起こるかもしれない。こうなると「たとえ新幹線が動かなくても2〜3日休める職場作り」をやった方がいいということになる。複雑さを諦めて余裕のあるスケジューリングができるように気持ちを切り替えたほうがラクになれるという結論が得られる。

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