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「陰謀論?」アルゼンチン版トランプのハビエル・ミレイ氏 の中央銀行破壊提案に支持が集まる理由

先日のエントリーでは中央銀行がアルゼンチンペソのレートを固定したと書いたがほとんど読まれなかった。だがその後、いくつかの記事を読んでこの人は世界経済に大きな影響を与えるかもしれないと考えた。既存のメディアでは単なる破壊者扱いだが暗号資産界隈には期待する人たちがいるようだ。中央銀行破壊など単なる「陰謀論」とも思えるのだが、その期待には何か納得させられるところがある。資本家への不信が共産革命につながったことを考えると「中央銀行破壊論」も単なるフェイクとして笑っていてはいけないのかもしれない。

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Bloombergが「「アルゼンチン版トランプ」はなぜ市場を揺さぶるのか-QuickTake」という記事を書いている。

  • ハビエル・ミレイ氏の大統領選挙予備選の勝利は予想外だった。
  • ミレイ氏はテレビのパーソナリティ出身でリバタリアニズムを信奉している。「みんな消えろ」という過激なスローガンで有名だ。
  • 極端なリバタリアニズムの主張には政府支出の削減、通貨のドル化、中央銀行の廃止、貿易の解放などが含まれる。

アルゼンチンの経済は小さいとは言え、農作物、牛肉、リチウム、銅、原油市場に影響を及ぼす可能性が高い。特に脱炭素化にリチウムの生産は欠かせない。現在リチウム生産は中国に依存しているが代替生産地として期待されているそうだ。また経済的な影響が出ればIMFを含む債権者が影響を受ける可能性があるという。

つまりBloombergはミハイ氏を単なる破壊者と見ている。

ところが、Quoraで実はこの人は「ビットコイン支持派」として期待されているようだと教えてもらった。既存秩序を否定するミレイ氏は「誰にも支配されていないビットコイン」を信奉している。だから中央銀行を「破壊」しようとしているのだ。Bloombergやロイターには書かれていない情報である。

教えてもらった記事では「中央銀行はインフレ税で善良な市民を騙す」という主張が書かれている。ただしこれらの主張には引用がない上にミレイ氏がなぜそう思うかという根拠は全く示されていない。普段は既存経済誌の記事しか読まないので「単なる陰謀論なのでは?」とも思える。

ただ、どうやら暗号資産界隈の人たちにとっては「現在の経済の仕組みは特定の勢力が庶民を騙しすための道具である」という考えかたが浸透しているらしい。

ビッドコイン普及の実験場と言えばエルサルバドルが思い浮かぶ。既存メディアは軒並み「エルサルバドルは酷い目に遭うだろう」と予想する。ブケレ大統領はビットコインシティの建設を約束したがいまだに建設予定地はジャングルに覆われているなどと書き「詐欺扱い」になっている。

ただし、暗号資産界隈では評価が異なる。コインデスクの記事も「現在の経済システムはせっかく稼いだ金が減価するような「仕様」になっている」と指摘する。これが彼らが中央銀行が「庶民を騙している」という根拠になっているようだ。

確かに現在の中央銀行制度の元では通貨は金などの具体的な裏打ちがない。さらに時間が経つに従って価値が減じてゆくようになてっている。

だから人々は「鼠車」に乗っているように金を稼ぎ続けるしかない。穏やかなインフレはイノベーションを引き起こすが、トルコやアルゼンチンなどインフレの激しい国はトレッドミルが暴走しているような状態である。給料をもらったらすぐにモノに変えないとすぐに価値が半分になったりするという世界を生きている人たちがいることもまた確かなのだ。

そんな暗号資産界隈の人たちは「フィッチがエルサルバドルの格付けを引き下げて債務不履行を疑ったが、同国の「ジャンク債」は急騰しているではないか」と言っている。付け加えて言えばジャンク債はトルコ、アルゼンチン、ナイジェリアで「投資適格」とされている債権よりも良い成績をおさめているのだそうだ。

ただ日本のように「インフレ」が起こらない国も存在する。こうした国の経済は確かに安定するがイノベーションが停滞し稼ぐ力を失ってゆく。企業は新規事業に投資せず「内部留保」を溜め込む。設備にも人にも投資しないのだから当然能力が陳腐化し稼げなくなってしまうのだ。

ただし、こうした環境でも一度インフレが起きると問題が起きる。企業やお金を持っている人は儲けることができる。だが一般大衆はその恩恵に期待することはできない。GDPの伸びが好調なのに個人消費が縮小するのはその表れである。ここからも「インフレは本当に人々をを幸せにするのだろうか」という疑問は生じる。

世界には安定した既存経済の恩恵を受けられない国が多くある。ジムに置かれているランニングマシン(トレッドミル)が停滞すれば人々は運動しなくなり能力が衰える。一方でトレッドミルが高速回転すると人々は振り落とされる。現在の経済の仕組みは「壊れたトレッドミル」のようなものだ。適度に人々を健康にするような速度が保たれている国もあるがそうでない国もある。さらにトレッドミルはお互いに連動していて、ある国で速度を上げると別の国では高速回転が始まってしまう。

こうした壊れたトレッドミルの元では「中央銀行の打ちこわし」のような極端な主張が浸透してゆくのかもしれない。資本家への疑念が共産革命を起こしたのと同じ理屈である。

本当に世界経済は何が起こるかわからないものだと感じる。ある地域では噴飯物のフェイクとしか見做されないようなような話が別の地域では「真実」として語られ実際に政治を動かしてしまうのである。エルサルバドルでは既にそれが起きているが経済規模が小さかったためにさほど世界経済に与える影響は大きくなかったが、アルゼンチンはそうではない。このニュースは日本ではあまり取り上げられないのかもしれないのだが、個人的には注目している。

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