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岸田内閣の問題放置のツケ。為替は再び145円の「防衛ライン」に到達し介入への警戒が高まる。

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アクセス履歴が何かおかしかった。普段は最新のニュースが読まれるのだがなぜか植田総裁がYCCを修正したというニュースが読まれている。ニュースをあたってみて「ああこれだ」と思った。再びドル円が145円の防衛ラインに到達し「財務省が介入するのではないか」との警戒感が強まっているようだ。すぐに記事を発出したほうがいいのかなとも思ったのだがとりあえずじっくりと記事を読んでみることにした。

いろいろな記事を読み終わって唖然としたことがある。為替は2023年1月を谷にして上がり続けているが政府は有効な対策を打ち出していなかった。特に顕著なのが実質賃金の低下と個人消費の縮小である。GDPを見ると企業業績は好調にもかかわらず個人消費は縮小を始めるという歪さが岸田政権の無策を物語っている。特にこの数ヶ月は「いつ解散したら自民党にとって有利か」というくだらない議論とマイナ健康保険証というどうでもいい話題に政治的リソースを焼尽した。

「細かい話はどうでもいいし政権批判にも興味がない。とにかく明日介入があるかどうか知りたい」という人は当局者の発言と会合のニュースに注目した方がいいかもしれない。Xで情報発信する経済情報の専門家もいる。記事の後段で具体的な情報をご紹介する。現在は鈴木財務大臣と神田財務官が「牽制」するところまで来ているが当局会合などのニュースは聞かれない。

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なぜ円安に向かっているのか

今回の話を新しいニュースだとみなすと何か新しい原因があるはずだ。だがこれが何だかあやふやである。そもそものきっかけはアメリカの卸売物価の上昇だ。インフレが収まらないならば次の利上げが予想される。このため債権の利回りが上昇した。債権を買うためにはドルが必要なのだから当然ドル高に動く。そういう理屈なのだろう。

時事通信も「日米の金利差が意識された」と書いている。一方、ロイターは中国を中心とした世界経済の健全性に懸念が高まった結果として安定資産としてのドルの需要が高まるという別の認識を示している。

加えて「悪い円安」の解消も全く手付かずだ。さまざまな記事を読むと2023年初頭から再び円安が進んでいたという。つまり日本経済の状況はなんら変わっていないということになる。ただこの手のニュースはもう聞かれない。慣れてしまったのである。

日銀も積極的な対応を行なっていない。植田総裁はYCCの修正に向けてまずは市場との対話に成功した。まずは日経新聞に記事を書かせて市場を驚かせた上で「すぐに政策の変更があるわけではない」と柔軟化してみせた。前回記事を書いた時「このコミュニケーションは成功したのではないか」と書いた。ただ市場は、その先がないことで「なんだ何もしないのか」となってしまったようだ。

ただし、24年前の介入が145円で行われたことから「介入ラインまでは円安が進んでも大丈夫だ」という認識が生まれてしまっている。今回そのラインに到達したことで「警戒」がニュースになった。

仮に今回のイベントがPPIによるものであればしばらくすれば状況は落ち着くだろう。利上げはあと1回程度だとされている。一方でそれ以外の状況(例えば日銀が何もしないことや中国の景気動向)がファクターになれば状況が落ち着く保証はないということになる。

さらに追い打ちをかけた実質賃金の低下

実質賃金が低下している。実質賃金が低下すると日銀は金融引き締めをやりにくくなる。賃金上昇が「フォワードガイダンス」に目標として明記されているという。つまり日銀は賃金上昇を金融政策で起こそうとしている。ただしそもそも日銀が賃金上昇を引き起こせるかについては議論があるそうだ。もう少し細かく見てゆきたい。

実質賃金の内容が悪いと日銀の引き締め期待が萎むという効果もあるそうだ。金融引き締めをすると企業経営には悪い影響があるため賃金が上昇しなくなる。これを恐れて日銀は金融引き締めに消極的になる。こうなると日米金利差が温存されるのだから円を売っても大丈夫なのだという了解が広がる。そういう理屈なのだそうだ。

企業業績が振るわないなら実質賃金が下がっても仕方ないと思えるのだが、実は企業業績は好調だった。

好調な企業業績や所得の伸びを背景に所得、法人、消費の基幹3税がそろって上振れし、税収は3年連続で過去最高を更新した。

どうせ所得は上がらないだろうという了解が広がりGDPの中で個人消費だけが縮小している。金融政策は引き締めに転じないために個人消費の落ち込みも円安の要因になりそうだ。

日本は市場経済の国なので政府が強制的に好調な企業収益を賃金に転嫁させるようなことをやるべきではない。だが、どうやら今はそんなことを言っていられる状況でもないようだ。確かに政府は賃金をあげてほしいと企業にお願いをしているがもはやそんなことを言っている状況でもなさそうである。個人消費が萎めば企業業績にも悪い影響が出る。

さらに円安が進めば実質賃金はさらに下がることになる。野口悠紀雄氏の記事だが2023年初頭から6月までで円の価値は1割減価しているという。これが実質賃金を低下させている。賃金が少しばかり上がっても全て円安により帳消しになってしまう。円安と実質賃金の低下という「悪い円安」という状況はなんら変わっていない。後藤大臣は悠長に「個人消費が落ちたのは円安の影響もあるのではないか」とどこか他人事だ。円安は財務省の管轄という縦割り意識があるのかもしれない。

7年前に既にあった議論「金融政策で賃金は上がらない」のではないかという議論

さらにこの話はややこしい方向に展開してゆく。仮に日銀の政策で賃金が上がるなら良いのだが、そうでないとすると、政府が何もしてくれないと日銀の政策は政府の無策に縛られることになる。

植田・日銀はフォワードガイダンスに「金融政策を通じて賃金上昇を目指す」という一文を入れたそうだ。だがこれが正しい政策なのかについては議論があり反対意見も多い。実はこれは七年前に既に出ていた議論なのだそうだ。

日銀には「日本の問題は供給サイド(企業)にある」という現状認識がある。企業が再び成長するためには賃金が上昇しなければならない。賃金の上昇がなければ経営者は「現状維持でいい」と考えるだろう。これでは日本の交易条件は改善しない。

ただしその因果関係には対立する意見が2つある。稼ぐ力がなくなったから賃金が上げられないという人と、賃金が上がらないから稼ぐ力がないという人がいるのである。

仮に賃金が上がらないので稼ぐ気持ちが生まれないとすればデフレ期待を打ち消せばいい。賃金上昇率ターゲットを設定し金融緩和を行うと景気は良くなるはずだ。すると労働需要が増えて人手不足が起こり賃金の上昇が起こる。この場合日銀は金融政策を通じて賃金上昇を引き起こすことができる。

しかしながら稼ぐ力が生まれないので賃金が上がらないとすれば今ある企業を潰す必要がある。金融政策では実現できないのだから政府がなんとかする必要がある。政府が賃上げを働きかけたり、働き方改革などで労働需要を逼迫させるなどの政策も考えられるがそれはあくまでも補助的な政策であり、本当にやるべきなのは構造改革だ。

結局、この議論を振り返ると、金融政策で大幅な賃金上昇を引き起こすことはできなかった。さらに言えば構造改革に踏み込まない限り賃金上昇は起こらない。既に無能化している企業に対してお願いだけをしても賃金が劇的に上がることはない。

とはいえ「悪い円安」が進むと為替介入の圧力が強まる

さてここまで縷々構造改革が進まなかったせいで基本的な条件が変わらない。だから円安基調が止まることはないということを書いてきた。おそらく「主犯」は岸田内閣だ。だがそんなことを言っていても仕方がないという人も多いのではないか。給料が上がらないのだから投資をしてそれを補うしかない。そのためには明日介入があるかどうかが知りたいということになる。結論からいうとそれは誰にもわからない。前回水準で介入が行われれば「その水準までは円安を許容しますよ」という明確なサインになってしまうからだ。

ただ「全くわからない」ではお話にならないので、前回の為替介入はどのような経緯で行われたのかをみてみよう。為替介入前夜には円安が物価を押し上げており生活が苦しくなっているという報道が多くみられた。これを悪い円安論という。これは今でも変わっていない。

物価高の『主犯』になりつつある円安、防衛ラインは145円?【播摩卓士の経済コラム】(TBS)

145円が防衛ラインになっているのは24年ぶりの円買い介入が9月22日に行われたからである。この時はまず145円から142円前半まで急激に動いた。最終的には140円まで落ちたようだが「効果は三週間で剥落」し10月には148円まで上昇したそうだ。つまり介入には効果がなかった。

ただしこの時は148円がピークになっておりその後は1月の谷である127円まで戻している。喉元過ぎれば熱さを忘れるの例え通りだった。なぜ円安が起きているかという議論は忘れ去られ人々は悪い円安という現実から目を背けることになった。

実際に介入が起きるのはいつか?

つまり今回の為替介入もさほど効果はない可能性が高いのだが、それでもいつ介入が起きるのかは気になるところだろう。元日経の後藤達也さんは牽制と「財務省、金融庁、日銀の三者会談などがあれば実施は近いのでは」ないかとみている。後藤さんにはあまり政治的ポジションがなく「コミュニティ経営」に関心があるようなので内容に偏りが少ないように思える。円が紙屑化する!という識者よりは安心して見ていられる。

現在は鈴木財務大臣と神田財務官が「牽制」するところまで来ている。「145円が防衛ラインということはないが投機的な動きがあれば毅然として対応するぞ」と言っている。

ただし前回の介入が145円で行われたことで、今回も「145円が介入ラインなのだろう」という印象が生まれている。仮にここで何もなければ「政府が何もしない」というメッセージが市場に勝手に読み込まれることになる。今回仮に145円で介入すればさらにその印象は強まるだろう。記者たちがいろめき立ったことで鈴木財務大臣と神田財務官がそれに応えたということなのだろうが、直ちにこれを「牽制発言」とみなすのは避けたほうがいいのかもしれない。「このところ投機的な動きが見られ憂慮している」という発言が出てくればおそらくエコノミストたちが情報発信を始めるはずだ。

さらに純粋投機という観点からは「みんなと逆を行った方が儲けは大きい」ことになる。この辺りが悩ましいところだ。

後藤達也さんのフォロワーは60万人を超えたそうだ。このような識者の発信に注目し動向を探っている人が多いのだろう。

気になるアメリカの姿勢

アメリカの対応も気になる。今回は既にイエレン財務長官が「日本の当局者と連絡を取り合っている」と表明している。

これを受けた神田財務官もアメリカと話をしていることを否定はしなかった。

「有事」に備えたコミュニケーションは行われているようだ。

構造改革に取り組まない限り、何度でも同じようなことが起きる

繰り返しになるが為替介入は付け焼き刃的な効果しかない。結局のところ日本が本気で構造改革を行い賃金を上げるための「異次元の対策」を打たない限り、同じような議論が再び繰り返されることになるだろう。

24年ぶりの為替介入から1年近く経ったわけだが結局何もしないままにジリジリと状況が悪化していることがわかる。特に企業業績が伸びているのに個人消費が落ち込み始めた点は気がかりだ。

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