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「日米共同ミサイルの共同開発計画」への期待と不安

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日米両政府は超音速兵器を迎撃するために新しいミサイルを共同開発することで合意した。18日にキャンブデービッドで行われる日米首脳会議で合意する見通しだ。日米が協力し敵基地に対する反撃能力の保有を両輪とした「総合防空ミサイル防衛」の早期実現を目指す。さらに多数の小型衛星を連携させて情報収集能力を向上させる「衛星コンステレーション」の構築に向けても協力を強化する。「これで日本も安心だ」と思えるのだが背景事情を調べると意外に脆いバランスの上に成り立っていることがわかる。ミサイル防衛網に対する期待と不安について考える。

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現在のミサイル体制はSM3と呼ばれるそうだ。SM3が失敗するとPAC3が撃ち落とす。新しい仕組みは「旋回能力」を持たせるとしている。つまり今のミサイルには旋回能力がないことになる。

まず期待を書く。

まず、アメリカは日本が突出した防衛能力を持つことを好ましいと考えていないはずだ。アメリカと日本の期待が合致すれば世界一強い軍事大国の傘の下で日本の防衛能力は飛躍的に向上することになる。

次に、イージスアショアは「カタログ買い」で失敗している。他国のシステムをそのまま移入したが日本には合わなかった。改修には多額の費用が必要で長い年月もかかることが予想されていた。共同開発であれば日本のニーズが取り入れられることになる。

さらにそれなりに綿密な事前調整が行われている。この記事だけを読むと唐突にミサイル計画が降って沸いたように思える。ロイターの英語版は、両国の外務・防衛大臣級の協議で1月から計画が進んでいたと付け加えている。日本が防衛能力の向上を望んでおりそれにアメリカが応えたように受け取れる。

つまり、これまでの失敗に学び将来に備えるという意味ではそれなりに期待をしてもいいように思える。

だがもちろん不安もある。岸田政権はおそらく十分な国民への説明をしないのではないかと思うのだ。

不安要因は3つある。2つは日本の国内事情だが、1つはアメリカの事情である。アメリカが国益にならないアイディアをピッチするとは考えにくい、防衛予算は共和党の強い制約を受けているため中国包囲網を形成するために日本の納税者に期待している可能性は極めて高いのではないかと思う。つまり日本には納税者の過剰負担と中国の攻撃対象として巻き込まれるというリスクを抱えることになる。日本の要件だけを聞いてもらえるということにはなりそうにない。

国内障壁は2つある。予算と憲法制約だ。予算に関しては「ひとまず増税議論は行わない」ことになったが支出だけは既成事実が積み重なってゆく。強く国民に支持される野党がないという現実を考えると「白紙の小切手」を岸田総理に渡しているようなものである。憲法制約の中には「国民の巻き込まれ不安」がある。

今回の計画では防衛増税とミサイル開発に関する細かな話は入ってきていないため、是非が議論ができない。だが、防衛費の増額がそのままミサイルにつぎ込まれ肝心の自衛隊の処遇が改善されない可能性がある。防衛費と一括りにしてしまうのだが実は現在の防衛予算では「自衛隊の予算」と「スタンドオフ」という2つの話がパラレルで走っている。政府は自衛隊の処遇には無関心だがスタンドオフ能力の向上には前のめりだ。まるでミサイルで武装さえすれば全ての問題は解決すると言わんばかりである。

だが本当にそれでいいのか?という気がする。

参考になるのがウクライナの事例だ。欧米はウクライナはNATO流の戦略に切り替えるべきだと考えていた。だが、このやり方が間違っていたことがわかってきている。ロシアを刺激したくないという思惑があり制空権が得られないにも関わらず訓練だけを続けた。この戦略は間違いであったことがわかりつつある。

日本ではウクライナがミサイル防衛網を持たなかったためにロシアに攻め込まれたのだから、日本はミサイル防衛網を充実させるべきだという論が語られることが多い。一方でアメリカがウクライナに強いミサイル防衛能力を与えたがらないという点についてはあまり語られない。現在アメリカのミサイル防衛網に日本を巻き込む「セールスピッチ」が行われているのだから、不利になるようなセールストークは抑制される傾向にある。いざという時に国を守るのはミサイルではなく実際に動く人たちなのだ。

自衛隊はもともと米軍が来るまでの時間稼ぎの部隊としての訓練を行なっているはずだ。つまり陸上戦中心の部隊だ。現在これとは別枠でスタンドオフ能力の保有に向けた議論が進んでいる。自衛隊には麻生副総裁の言うところの「戦う覚悟」だけが求められ予算はもらえないという状態である。精神論だけで軍隊は維持できない。

もう一つの問題が憲法制約である。憲法制約というと「一部のリベラルが騒いでいる」という印象を持つ人が多いだろう。だが、実際には国民の巻き込まれ不安に立脚している。現在、台湾有事に日本が巻き込まれるのではと懸念する人は多い。

敵基地攻撃能力を保持する時、それがアメリカの政策と一体になっていれば、結果的に日本は台湾有事でアメリカに巻き込まれる。

この記事には射程距離が1000キロのミサイルが想定されていると書かれている。1000キロと言えば台湾・中国沿岸部・朝鮮半島などが含まれる距離である。これは明らかに「日本が中国を狙っている」という意思表示になる。当然日本は報復的に狙われることになる。

現在の憲法解釈は「他に手段がない場合」にのみ敵基地攻撃能力が持てるとしてきた。政府見解が造られた1956年は朝鮮戦争の余波から巻き込まれ不安があった時代である。ちなみに他の手段とは国連の援助や日米同盟などを指す。つまり事実上的基地攻撃能力は持たなくても良いと解釈されてきた。実際にこれがどう変化したのか、変化したとしたらそれはどんな変化なのか。岸田政権からの説明はない。

そもそも「共同ミサイル」のボタンを日本が持たせてもらえるのだろうか。これもウクライナの事例が参考になる。ウクライナが単独で使える「飛び道具」は支給されない。アメリカには巻き込まれ不安があるためミサイル発射ボタンを持ったままウクライナの戦争に参戦することはない。おそらく同じことが日本でも起こるだろう。つまりアメリカは日本にミサイルの発射ボタンを渡さない可能性が高い。

アメリカと日本の間には日米安全保障条約がある。つまり日本からのミサイルが中国に打ち込まれた瞬間にアメリカは中国との戦争に巻き込まれることになる。このため敵基地攻撃能力の行使要件が極めて曖昧になっている。おそらくこの間に「アメリカの意向」が含まれるのだろうがそれは説明できないのだろう。

このようにさまざまな状況が複雑に積み重なり、政府の説明はますますガラス細工のように繊細なものになっている。東京新聞は根拠を二つにわけている。

  • 1つは「ミサイル防衛で飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からのさらなる武力攻撃を防ぐために、わが国から有効な反撃を加える能力」と説明。
  • 2つ目で、相手の武力攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限の措置として「相手の領域において反撃を加える能力」と位置づけた。

東京新聞は国際法における先制攻撃にあたるとの疑念を払拭しようとして1を強調しすぎたと書いている。この前提によればとにかく中国が日本を攻撃する野望を持っていて闇雲に攻撃してくるという「中国はならず者」という前提を置かなければならない。

2に関しても懸念がある。沖縄の基地は日本の防衛のみに使われるわけではない。アメリカの台湾防衛のためにも使われる。仮に中国が台湾を攻撃しアメリカが応戦した場合、中国は沖縄にある基地を叩こうとするかもしれない。中国にとって日本は独立国ではなくアメリカに基地を提供している附属物だ。

さらにアメリカがどの程度日本の防衛能力と意志を信頼しているのかという点にも疑念がある。

この件に関してはウォール・ストリートジャーナルが日本の態度を疑問視する記事を書いている。日本は台湾有事において自衛隊をどう位置づけるのかについて態度を明確にしていないという。アメリカに防衛力を頼る日本が中国や北朝鮮に対する打撃力を持つためにはアメリカを頼るしかない。アメリカはこれを対中国包囲網に利用しようとしている。そこで日本は台湾有事に対する態度を曖昧にしてアメリカとの間でバランスを取ろうとしているように思える。

今後日本が「ボタンを持たせてもらう」あるいは「少なくとも事前に相談してもらう」ためには事前の情報共有が欠かせない。しかしアメリカは日本のサイバーセキュリティを信頼していない。これも日本人はアメリカの新聞のリークによって情報が知られるようになった。

そもそも政府は面倒な予算と憲法の話題を避けたがる。このため重要な情報は全てアメリカの新聞から「リーク」のような形でやってくる。このため日本の要件が入りカスタムメイドのミサイル開発ができると言うことが頭でわかってはいても不安の方が大きくなる。

非常に残念なのは日本の政治体制は日米同盟に前のめりな自民党とセンソウハンタイの共産・立憲民主という二項対立しかない点である。プロジェクトが細かい点まで練られているかを検証する政党がないためにどうしても現場の意見を無視した無理な計画がそのまま通ってしまう可能性が高いように思える。

キャンプデービット会談後岸田総理がどのような説明をするのかに注目したい。

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