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バス事故が増えたのは小泉構造改革のせいなのか

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Twitterで「バスの事故が増えたのは小泉構造改革のせいだ」という指摘が流れてきた。グラフが添えられており、それを見ると確かにそのような印象を受ける。「日本では自由化は無理」くらいの文章を書こうと思って調べてみたのだが、どうもそんなに単純な話でもないらしい。構造改革のせいというより、高齢化が招いた事態なのではないかと思う。
元ネタになっているのは国土交通省のデータらしい。原典を当たりたい方はコチラから。
bus001添付されている図を見ると免許制が許可制に変わった平成16年頃から事故が急激に増えている。ところが下に小さなキャプションがある。事故報告の規則が変わったからなのだそうだ。
確かに貸し切りバス(車両事故除く)のところを見ると変化があるので、構造改革による影響もありそうだ。しかし、それほど劇的に多いというわけではない。改革されてからは横ばいなので、構造改革の時に騒ぎになっていてもよさそうだ。
また、レポートを読んでも「死傷者が急激に増えた」という事実はない。
 
bus002一方で、心配なデータもある。運転者の健康状態に起因する事故は増えているのである。規制緩和が起こった平成16年頃からのグラフでも一貫して増え続けている。
レポートも原因に心当たりがあるようだ。わざわざ年齢別のグラフが添えてある。高齢者の事故が多い。特にハイヤーやタクシーが目立つ。65歳以上という人もいる。タクシー業界がどのような構造になっているのかは分からないが、長年働いても食べて行けるほどの年金が貰えない可能性がある。また、年金が十分に貰えない人がドライバーに転職しているのかもしれない。
bus003このグラフを見ると「高齢ドライバーを制限するべき」という結論を出したくなるが、規制すると食べて行けなくなる高齢者の数は格段に増えるだろう。
中高年の男性が就ける職業は意外と少ない。ファーストフード店・コンビニ・スーパーなどでパートで人気を集めるのは使いやすい女性労働者だ。日本の職業環境にはテンプレートのようなものがあって、そこからはみ出してしまうと生活の保証がないのだ。しかし、これは政府の政策や規制がいけないというわけではない。
かといって年金の支給額を2倍にするなどということはできそうにない。残る手段は生活保護である。労働市場の失敗や外部化(従業員を生涯面倒を見るのをやめて負担を国に委託する)の面倒をすべて政府が見るのがよいのかというのは議論の別れるところだろう。
そのうち「健康で文化的な最低限度の生活」という規定を憲法から外すようにという誓願が国民からでる日がくるのかもしれない。
この問題の背景には高齢化がありそうだが、解決策を考えるのはなかなか大変だ。そこで「小泉構造改革が悪い」と言いたくなるのだろう。しかし、免許制に戻したとしても事故は減らないのではないかと思う。