日本の流通経路は西洋先進国と比べて複雑だと言われる。最もベースにあるのは村社会的な閉鎖性である。この上に身分制に基づく多重産業構造が乗っている。つまり極めて封建的な構造が残っている。いったんこうした産業構造が定着すると自力での改善が難しくなる。第一に適正価格が決められなくなり、つぎに適切な投資ができなくなる。具体的には人への投資(賃金)と設備投資(IT投資)が滞る。現在Amazonに代表される外資の侵略を受けている。長年IT投資をサボっていたせいでAmazonとまともに競争ができない。つまり市場原理による自然な改善も難しい状態になっている。
この項目は2016年に初稿を書いた。改めてみなおしてみたところかなり欠陥が多かったので2023年に大幅に書き直した。
はじめに
少子高齢化に伴ってドライバーの人手不足が顕在化している。政府は過労死を防ぐために超過労働時間を年間960時間に規制をしようとしているが、これによってドライバーが不足するのではないかと言われている。ドライバー不足は2024年には14%になると予想されており、2030年には34%にまで達すると言われているそうだ。
政府はさまざまな政策を提案しているがどれも決め手にかける。元を辿ると「日本の流通制度は複雑すぎる」という問題に行き当たる。
歴史的経緯
そもそもなぜ2024年問題が解決しないのかを調べていると興味深い話に突き当たる。そもそも村意識が強くお互いに協力できないのだそうだ。
物流業界は、大手/中小、系列企業/独立系企業、幹線道路/ラストワンマイル(最終拠点からエンドユーザーまで)、B2B/B2Cなどによって、状況がまったく異なります。なので、一緒に動くことができません。
2016年にこの話を初めて書いた時「一般的に日本の産業は多階層化することが多い」と書いていた。オーガニック食品が広まらない理由として「江戸時代より労働力が過剰な状態が常態化しどうにかして隙間に潜りこまなければならなかったからだ」という人がおり、この記事を受けて書いたものである。筆者は、これが品質の高さや徹底したアフターサービスなどのきめ細かさを生んだが、生産者に十分に恩恵が行き渡らない非効率的な市場をうんだのだと説明されていた。
ムラが作る弊害
この手の話をボトムアップで調べてゆくと「現場に恩恵が行き渡らない企業文化がDNAレベルで刷り込まれている」としか表現できないような話がいくつも出てくる。オーガニック食品の話を乳牛の問題に置き換えても「現場が恩恵を受けない」というような話になる。
サービス産業でも同じような問題は多く見られる。流通経路の複雑さはそのまま「中抜き構造」に置き換えれば公共事業やオリンピックで起きた「中抜き」の問題に当てはめることができるといった具合である。
建設・IT・エンターティンメント産業など二回層化している業界は多い。大手メーカーは大手卸としか仕事をしないが、大手卸はきめ細かいフォローができないのでフォローを下請け(二次業者)に委託する傾向がある。流通業は3階層程度になることが一般的だそうだ。
アニメ産業では末端作業員は個人事業主になっており、労働基準法すら適用されないという実態がある。
多階層化を給与配分の面から説明することもできる。大手企業は年功序列制の同一賃金制だが子会社や受注企業の給与は低く抑えられている。同一企業内で職能別の給与体系が導入されていればこのような細分化は起こらなかったかもしれない。だが、日本は「身分制」で給料が決まる。
日本のムラはお互いの干渉を嫌い、お互いに協力ができず、身分による上下関係がある。さらに「実際に仕事をやる人に恩恵を渡さず中抜き」で生計を立てている人もいるといった具合である。日本の身分制度の元では「実際に作業をする人」よりも中抜きをする人の方が偉いのである。
情報撹乱
合理的に考えれば、流通経路を合理化すれば価格の自動調整が行われて消費者の便益が増すはずだ。しかし実際には複雑なリベート制度により価格情報の透明化は妨げられている。これは情報撹乱と言って良い。
携帯電話会社は複雑なリベート制度で代理店を誘導している。同一企業体ではないので、その他の手段が取りにくいという事情もあるのだろう。代理店は消費者にもキャッシュバックによる価格政策を提供しているので消費者は単純な価格比較ができなくなる。頻繁に携帯電話を買い替えて安い価格を享受する人がでる一方で、長い間同じ携帯電話を使う人が高い携帯電話料金を負担させられている。情報撹乱によって品質・性能=価格という図式が崩れる。
ただしこの情報撹乱によって混乱するのは内部も同じである。
つまり市場原理で市場を整理することができなくなっているのだ。
既に手遅れの状態に
ムラの慣行が残り市場を整理できなかった。このため配送料は地方運輸局が決める運賃率表(タリフ)を元に決められている。これを単体で整理できる小売はおそらくAmazonくらいしかない。しかしながらAmazonは植民地主義的に業界を支配したがる傾向がある。流通情報を独占し「生かさず殺さず」で運送業界をコントロールしようとするのだ。
消費性向
きめ細かな小売り制度があるおかげで日本人は買いだめの習慣を身に付けなかった。細かい頻度で少量づつ多品目買う傾向がある。冷凍食品ですら製造年月日をチェックするほど新しいもの好きで、野菜のきれいさにもこだわりがある。日本人の消費傾向と流通経路の複雑さはスパイラルを形成しており外資スーパーの参入障壁にもなっている。
つまり複雑な流通経路は「きめ細かい流通経路」であるとも言える。だが、これが行き過ぎると単にコストがかかる面倒な顧客しか残らなくなる。特にこの傾向はサービス産業で顕著である。
複雑な流通経路の負の側面
複雑な流通経路には負の側面が多い。
卸の支配力が大きく、メーカーが小売りとの直接販売に踏み切れない。小売りの力が強くなれば、卸の営業力に頼っているメーカーはシェア維持戦略を取れなくなる可能性がある。このため、不効率な流通経路が温存される。
消費者が新鮮さにこだわるあまり、食品の廃棄ロスが多い。間に複数の中間業者が入り廃棄分が価格に乗るので、日本人は結果的に高いものを食べさせられている。
流通御者は規模が小さく、リベート制度も複雑なので業務の標準化が起こらず、IT化ができない。このため、日本の流通小売り業(またはサービス産業は一般的に)は生産性が上がらないままである。
また、小売りの現場からメーカーに情報が上がらない仕組みになっている。消費者が本当は何を欲しがっているのか、誰にも正確なことは分からないのだ。
Comments
“日本の流通経路が複雑な理由” への1件のコメント
[…] 問題の背景には消費者の嗜好と長年の商習慣を背景に成立した複雑な流通経路があるようだ。普通に考えると流通経路を合理化した方がよさそうに思えるが、単純化は未だに成功していない。 […]