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妻が働けば暮らしは楽になるのか

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安倍首相が「パートでも25万円くらい稼げるだろう」と言って反感を買ったらしい。いろいろ意見や感想はあるだろうが、この人はあまり経済運営には興味ないんだろうなあとは思った。
安倍首相は、民主党議員の質問に「50万円稼いでいた世帯で妻が25万円稼げるようになれば世帯収入は75万円に増えるじゃん」と言った。安倍首相は嘘をついている風ではなかった。そもそも考えるつもりがなさそうだ。驚いたことに民主党議員も「そんなことはない」と反論しなかったようだ。多分、どちらも聞きかじりの情報でテレビカメラ向けの議論しているのだろう。
wage安倍首相の言う通りであれば、給与所得者の収入総額は上昇すしているはずだ。ところが、給与所得総額は減少している。労働者全体の数はさほど変わっていないので、平均所得は下がっていることになる。日本人の給与所得者は貧しくなっているのだ。GDPが格段に下がったという話は聞かないので、給与所得者から企業への富の移転が起こっているのだろう。
国会がのんきにプロレスを繰り広げている足元の状況は深刻だ。女性の労働参加率が増えているのに、給与所得者の数は変わっていない。高齢化による労働人口の減少を女性が補う形になっている。労働時間は増えていないのだが「忙しくて余裕がない」と訴える人も増えている。この実感が確かなら、社会の効率化が失われている可能性がある。誰かが社会の再生産活動(つまり、子供を産んで育てるということだ)に従事しないと国が維持できないのだから、これはかなり「ヤバい」状況だ。やっかいなことに余裕のなさという主観的な情報は数字には表れない。
josei001女性の労働参加率をGoogleで検索すると国土建設省(なぜか厚生労働省ではない)の資料が見つかった。片働きの世帯は減っているが、共働き世代はそれほど増えていない。結婚している世帯が激減しているという印象も(今の所は)ない。ただ、専業主婦自体は減っているようである。2000年と比べると150万人以上は減っている。男性側に経済的余裕がなくなっているのは確かなようだ。
女性の社会進出自体は進んでいるようだ。生産年齢にある女性の労働参加率は上がっている。ところが、全年齢の社会参加率には大きな変化はない。高齢者(つまり生産年齢ではない)女性が増えているせいなのだろう。
josei002このグラフで気になるのが若年女性(20〜24歳)の労働参加率の減り具合である。高学歴の女性が増えたと解釈することもできるが、そもそも社会進出を諦めた女性が多くなっている可能性もある。失業率が高くなったという話も聞かないので、そもそも就職活動をしていない女性が増えているということになる。
企業は社会人経験のない女性を雇わないのだろう。教育するのにコストがかかるからだ。男性が働かないと「ニートだ」と言われ、問題が顕在化する。しかし、若い女性は働かなくても「花嫁修行だ」ということになり問題が表に出ない。だから、社会問題にはなりにくいだろう。これも統計には表れない変化だ。
日本は学校教育と職業訓練が一致しない。キャリア初期に職業訓練されないということは、その後一切のキャリア形成ができないということを意味する。企業は初期投資の必要な労働者を雇わずに、誰か他の人が教育した人たちを時給だけで雇っているのだ。
この話を総合すると、高齢化で人口が減りつつあるが、新しく労働市場に参入する人を「高付加価値化」できていない可能性が浮かび上がってくる。家庭も企業も再生産を諦めつつあるという現状が浮かび上がってくる。家計側は余裕がなく、企業側には意欲がない。
問題を解決する為には、当然のことながら問題意識を持たなければならない。しかし、安倍首相は「アベノミクスで快進撃が続いている」と世間に触れ回っているうちに、自ら信じこんでしまったようだ。有権者もあまり深刻なことは知りたくないのだろう。民主党も自民党の間違いを証明することにやっきになっていて、本当に解決すべき問題を見失っているように思える。
統計を見ると分かるのだが、給与所得が減る傾向はこの15年程のトレンドになっている。自民党の政策も効果がなく、民主党も反転に成功しなかったということだ。少なくとも民主党が「自らが失敗した」ということを受けとめない限り、国会の議論は不毛なまま進展しそうだ。