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日本人はアメリカ人に比べて働き過ぎなのか

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厚切りジェイソン氏に「アメリカには残業が多いのか」と質問している人がいた。厚切り氏は「そもそもアメリカには残業の概念がない」と答えている。残業するかどうかは個人の裁量に任されているのだそうだ。こうした質問が飛ぶのは「日本人は長時間労働だ」という思い込みがあるからだろう。なんとなく、日本人はワーカホリックで、アメリカ人は家庭を大切にするという印象がある。
OECDの統計によるとアメリカ人と日本人の平均労働時間にはほとんど差がない。つまり、日本人はアメリカ人に比べて働き過ぎだとは言えない。

労働時間の国際比較
黒い太線がアメリカ合衆国。赤い太線が日本。2000年から比較しているが、ほとんど違いはない。

この答えは多くの人の実感に合致しないのでないだろうか。日本の労働力は非正規に置き換わりつつある。パートが増えるはずなので労働時間は短くなるはずである。にも関わらず、平均労働時間がそれほど変わっていないということは、非パートでない人(多分、非正規を含むのだろうが)の総労働時間が増えているのかもしれない。
アメリカ人の労働時間は日本と変わらない。ということはアメリカにも「働き過ぎ」の人はいるはずだ。厚切り氏もITの経営者とタレントという2つの顔を持ち、空いた時間でTwitter人生相談などをやっている。だから「働き過ぎ」に属するはずである。厚切り氏が文句を言わないのは、自由意志で時間配分をしているからかもしれない。
workinghours002労働時間はあまり変わらないのだが、日本とアメリカには違いもある。アメリカは労働生産性が高いのだ。サービス産業に限ると日本の生産性はアメリカの半分程度だという。日本人は長い時間働くがそれほど成果を上げていない。OECDの統計を見てみると、日本の労働生産性は西洋先進国のやや下あたりにあり、先進国グループから脱落しつつある。アメリカの生産性は飛び抜けて高い。
日本の生産性が低いといっても、中進国に比べればまだましだ。日本より長く働く国はいくつもあるが、生産性はそれほど変わらない国が多い。今回の統計ではイスラエル、ハンガリー、トルコ、ギリシャ、韓国、メキシコなどが該当する。この中ではメキシコが飛び抜けて劣等生だ。
workinghours003生産性のあまり変わらない西ヨーロッパだが、労働時間と失業率で見ると2つのグループがあることがわかる。
1つはスペインやイタリアなどの集団だ。労働時間が長い代わりに若年(15歳から24歳)失業率が高い。こうした国々は非熟練労働者を吸収する職場がないのかもしれない。
一方、デンマーク、オランダ、ドイツは一人あたりの労働時間を短くしている。いわゆる「ワークシェアリング型」だ。中東からの移民がヨーロッパの北を目指すのは、非熟練者でも仕事が得やすいからだろう。短時間労働力国の例外にフランスがある。労働時間は短いが若年失業率が24%もある。高校や大学を卒業しても4人に1人は仕事がないという状況は想像するのが難しい。
日本は「消極的ワークシェアリング」を行っていると言える。生産性が低い労働者に仕事を与えずに「社内失業」させる。また、時給を低く抑えて生産性の低い職場に労働者を貼り付けている。生産性という意味では最悪の選択だが、失業対策にはなっている。最低賃金だけを上げて、非正規格差を温存すれば、日本にも失業者があふれるのかもしれない。生活保護レベルより下で家族を持つ事もできずに働き続けるのがいいのか、そのまま失業してしまうのがいいのか。究極の選択だろう。
労働環境を改善するためには、生産性を上げるか、ワークシェアリングを実施するのがよいことが分かる。生産性を上げるためには、古い経営者を交代させたりIT投資を行うべきだとされる。ワークシェアリングを実施するためには、正社員制度を解体する必要がある。
安倍政権の政策は「何もしない」というものである。何もしないわけにはいかないので、円安に誘導して実質給与を下げている。生産性を上げずに労働市場を改革しなくても、給与を下げれば当座の競争力を維持する事はできる。つまり、先進国を脱落して中進国化する政策だ。正社員は脱落を怖れて嫌々仕事を続け、非正規労働者がメキシコ、トルコ、東欧などの中進国と労働単価で競争するという社会だ。
いっけん「最悪」に思えるが、最悪なのは、生産性を上げないままアメリカ型の自由競争社会に突入するというものだろう。ここ20年程を見ると「リストラ」は首切りを意味し、成果主義の導入は「賃下げ」と同義だった。
さて、最初の質問に戻ろう。日本人はそれほど長い時間働いているわけではない。にも関わらず「過労死」という言葉があり、学校にも行けない「ブラックバイト」で働いている人もいる。平均がアメリカと変わらないということは、働いている人と働いていない人の格差が大きいということを意味する。ということは、死にそうなほど働かされている人がいる一方で、あまり働かない人も大勢いるということになる。どのような理屈でそうなっているのかは、平均を見るだけでは分からない。

  • 労働時間:OECD
  • 若年失業率:世界銀行(http://data.worldbank.org/indicator/SL.UEM.1524.ZS)
  • 労働生産性:OECDのデータをもとに日本生産性本部が作成したもの。