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加藤厚生労働大臣にも「お使い」を追い払われ 岸田総理は仕方なく「保険証廃止スケジュール維持」を表明へ

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先日「岸田政権が保険証廃止を延期するようだ」という記事を書いたが結果的に誤報になりそうだ。総理大臣は廃止スケジュールの維持を決めた。

「混乱を止められるのは岸田総理だけである」とも書いたがこれも誤報になる。岸田総理はスケジュールを巻き戻そうとしたが河野太郎デジタル大臣と加藤厚生労働大臣の抵抗にあい説得できなかった。さらに法律の修正が野党に攻撃されることをそれた自民党の重鎮たちもこぞってスケジュール変更に難色を示した。岸田総理は「玉音放送」を出せなかったことになる。

国民はしばらくマイナ健康保険証の狂想曲に付き合うことになりそうだ。混乱がこれ以上広がらないことを願うばかりだ。

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これまでの報道を再整理する。

26日に参議院で閉会中審査が行われた。もはやマイナンバーの問題なのかマイナンバーカードの問題なのかはどうでもよくなりつつあり「とにかく河野大臣はやめろ」とか「いやいやスケジュールは変えない」などという不毛な応酬が繰り広げられていた。

これを受けて7月28日に「保険証の廃止スケジュールの変更があるかもしれない」という報道が出てきた。

同時に「資格確認証の期限1年を見直す」という話も出てきた。これは「政府関係者」となっており情報の出どころは不明だ。

最初のニュースは視察先で記者団に語ったものなのでニュースの出どころは総理大臣である。安倍政権・菅政権の常識ならばこれは最終決定だ。だがそうならなかった。

まず週明けの会見はなかった。急遽延期されたため最終調整ができなかったのだ。ただ「延期」伝えているのはTBSのみである。情報ソースが示されておらず、誰が何に反対しているのかもよくわからない。

一体何があったのか。毎日新聞が顛末を書いている。

岸田総理は木原官房副長官を加藤厚生労働大臣のところに「お使い」に出したのだが断られたようだ。木原官房副長官については「文春の報道で政権運営に影響が出ているのではないか」と書いた。もちろんこれは疑惑にすぎないが、松野官房長官が木原さんをフォローするでもなく放置していることで木原官房副長官が機能不全を起こし全体の調整能力が損なわれていることがわかる。実は岸田さんが本当に頼れる人はそれほど多くないのかもしれない。

協議後の加藤氏は重く沈んだ面持ちだったという。厚労省幹部は「木原氏を加藤氏が追い返した形になった」と補足する。

岸田総理が政府という巨大な装置を止められなくなっていることがわかる。

時事通信でもこの報道は裏打ちされている。

官邸サイドは今週中に新しい方針を説明しようとしたが、厚生労働省が反対したと書かれている。また法律の再改正が必要なため悪影響を心配した公明党も反対したようだ。方針を変更すれば野党に「失敗した」と責められるので、失点を避けるために当初のスケジュールにこだわったと説明する媒体が多い。岸田総理は国民でなく周囲の反対に対して「聞く力」を発揮してしまったことになる。

結果「保険証の廃止時期を延期しない方向で調整」ということになった。

岸田総理が突破力を期待した河野太郎大臣も完全にバックファイヤー(逆噴射)している。梯子を外されることを恐れたのか「特に変更はない」「もともと総理の指示だった」と独自に情報発信を繰り返し抵抗した。岸田総理が河野氏と直接話をして説得したという話は入ってきてきない。

仮に岸田総理が信念を持って「これは一度仕切り直す」と決めたのなら、加藤厚生労働大臣と河野太郎大臣を呼びつけてもよかった。実際には木原さんをお使いに出し、木原さんは「追い返されました」とスゴスゴと帰ってきた。

官邸はどうやら相当混乱しているようだ。

ただし厚生労働省やデジタル庁にも言い分はあるだろう。7月初旬の時点では「岸田総理が前面に出ず総点検は丸投げされた」と不満が蓄積していた。この結果を聞く前に梯子を外されたのでは加藤・河野両大臣のメンツは丸潰れになる。

河野大臣に丸投げ、混乱…首相の指導力見えぬマイナ問題(産経新聞)

できるだけ情報精査に努め「嘘がないように」書こうという気持ちはあるのだが、もはや「混乱している」ことしかわからない。特に「総理大臣の発言が最終決定になり得ない」という事態は安倍政権・菅政権ではみられなかった。

記者会見を待ってみないとわからないが、今のところ政府の新しい方針は次のようなものである。

マイナ保険証 資格確認書 有効期間上限を5年に 政府案まとまる(NHK)

  • 1年としている有効期間の上限を5年に延ばす
  • 原則、本人の申請に基づいて交付するとしているルールを改め、申請を待たずに対象者すべてに職権で交付する
  • マイナンバーカードと一体化した保険証を取得したあとも、希望すれば利用登録を解除して「資格確認書」を持つことを選べるようにする

最も懸念される点は2つある。1つは資格確認証の発行主体だ。各保険組合が出すのかそれとも国が取りまとめるのかが決まっていない。仮に保険組合が発行するならば全員に配ってしまえばいいのだが、仮に国が発行ということになれば3000以上ある保険組合から情報を間違いなく集約する必要が出てくる。

次の懸念事項は収入との連動だ。現行制度において後期高齢者の窓口負担には2割と3割の種別がある。この登録を間違えたというケースが千葉市で発生している。保団連は厚生労働省に対して調査を求めているが明確な回答は得られていないようである。仮に資格確認証が健康保険証と全く同じものであれば問題は起こらない。しかし仮に何らかのコピーが発生するならばこのコピーの段階で同じ間違いが起こる可能性がある。

この理由はどこにあるのだろうか。実は民間の保険組合は直接マイナンバーを聞いてはいけない仕組みになっているという古い記事が日経新聞に見つかった。

マイナンバーは「番号法」という法律にガチガチに縛られ運用される。企業や団体はむやみに個人に対して番号の提供を求めてはならず、その取得や保管・管理にも罰則規定のある厳しいルールが課されている。健保は個人から直接マイナンバーの提供を受けられる主体でないため、通常企業を経由して番号を入手する。そして企業の場合の入手方法は会社員個人からの自己申告だ。

健康保険証 「誤り3万件」が映すマイナンバーの不思議(2021年4月6日)

つまり途中でデータ連動ができず「転記」や「手入力」の多い仕組みになっている。健康保険の発行主体を1つにして資格確認証を発行するのでない限りこのようなミスはおそらくなくならないだろう。だが健康保険組合の事務を統合するなどということになればおそらく年金機構以上の大仕事になる。「資格確認証」は制度設計いかんではかなりの大プロジェクトになってしまうのだ。

厚生労働省はデジタル庁が完璧なシステムを作ってくれることを期待する。デジタル庁は厚生労働省が完璧にオペレーションしてくれることを期待している。だが、お互いに寄り合って話し合いをした形跡はない。その間を取り持つのが官邸なのだが松野官房長官が直接調整に乗り出した形跡はなく木原官房副長官も厚生労働大臣に追い返されている。

いずれにせよ今回の制度(マイナンバーカード健康保険証)は3000以上の保険システム機構を統合しないままにデータベースを1つに統合するというプロジェクトになりつつある。さらにここに資格確認証という新しいシステムが乗る。

官邸がこの問題を止められないということは日本でこの問題を止めることができる人は誰もいない。今度こそ心を入れ替えて厚生労働省とデジタル庁が真摯に話し合い間違いのないシステムを作って欲しいと願わずにいられない。

心配事は尽きないのだがそもそも総理の意思があやふやな上に新しい制度の具体的な詳細もわからない。もしかしたらまた変わるかもしれないのだからあまり先のことは心配しないようにしなければならないということなのかもしれない。

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