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アメリカ合衆国の国債の格付けが引き下げられるが影響は短期的かつ限定的との観測

アメリカ合衆国の国債の格付けがAAAからAA+に引き下げられた。影響は短期的かつ限定的なものと見られる。こう書くと日本の投資家は反発するかもしれない。株価が800円近く下げているからである。落ち着いてメディアの情報を見てゆこう。

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フィッチがレーティングをAAAからAA+に下げた。

結果として東京の株価が大きく下げた。原因はこのところ上がっていた株価の調整と米国債の格付けの変更にあると説明されている。何かとてつもなく大きな動きが起きているのではないかと思い不安になった人もいるかもしれない。

ただしロイターは影響は短期的であろうと見ている。足元のアメリカ経済は引き続き堅調である。堅調過ぎて景気を冷やす必要があるくらいだ。これが前回と違っているというのが市場関係者の見立てである。

理由はいくつかある。第一にフィッチはかねてより米国債を「引き下げに向けて監視対象にします」と宣言していた。第二にデータそのものはトランプ政権時代の物を用いているようだ。つまり直近の事情で成績をつけてるという話ではない。

第三の理由はフィッチが説明している。

格付け会社フィッチ・レーティングスのシニアディレクター、リチャード・フランシス氏は2日、2021年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃が米国のガバナンス悪化と二極化を反映しているとし、財政面に対する懸念とともに米債格下げの決定要因になったと述べた。

つまりバイデン政権の失策が原因ではなく議会襲撃をきっかけにした与野党対立が解消されなかったのが原因だはっきり説明している。議会対立は今に始まった事ではない。降って湧いたような話ではないのだから「国債レーティング引き下げショック」のようなことは起こりようがない。

もちろん、ホワイトハウスの閣僚達はこの引き下げに難色を示している。共和党からの攻撃材料にされかねないからだ。米大統領経済諮問委員会(CEA)のバーンスタイン委員長は「トランプ大統領の後始末をなぜ我々がしなければならないのか」と怒っている。アメリカの政治状況が大統領選挙に向けて加熱化していることがわかる。全てのニュースは相手方に「武器」として利用される可能性がある。経済がわからない人たちは「格付け低下=バイデン政権の経済政策がうまくいっていない証拠だ」とみなすだろう。イエレン財務長官は声を張り上げてアメリカの強い経済について訴えているがこの声は共和党からの批判にかき消されることになる。アメリカの経済が全体としてうまくいっていても「私の経済がよくなっていない」と考える人には届かない。

金融市場への影響は軽微であると書いた。だがこれは短期的な話である。確かに直近の債務上限問題は解決したが予算をめぐる駆け引きは続いている。大統領選挙に近づけば近づくほど激化するだろう。つまり長期的なアメリカ国債の信用は低下しておりそれが修復される見込みは立っていない。

フィッチは格付けを通じてアメリカの議会と大統領に「議会と大統領が仲良くしないと大変なことになりますよ」とのメッセージを送った。だが政治の側がこれを聞き入れる兆候はなく単に「筋違いだ」と憤りお互いに罵り合っているというのが現状のようだ。

ただ、仮に現状が今以上に混乱してもこれ以上の引き下げはない。フィッチは次にレーティングを変えるのはおそらく2年後だろうと言っている。つまり今後アメリカの財政や政治が混乱してもそれが直ちに格付けに影響を与えることはないとの見通しである。

債務上限に関する議論は2年に1度程度起こり、25年に再び議論されるかも知れないとした上で、政府機関が閉鎖される可能性はさらなる格下げや見通しの変更にはつながらないとした。

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