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なぜ映画「バービー」のプロモーションは日本で大炎上したのか?

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「ワーナーがバービーで炎上」というニュースを見てびっくりした。映画「バービー」のプロモーションにおいて原爆投下を想起させるSNSの画像が作られて拡散した。ワーナー宣伝部がこれに対して「忘れられない夏になりそうですね(Summer to Remenber)」とTweetし問題になったのだ。

背景情報は意外と複雑だ。アメリカの映画産業は俳優のストなどのくらいニュースが多かった。バービーは久々のヒット作だった上にSNSでの反応が良かったためにワーナーの宣伝部が飛びついたのだ。だがアメリカ人は本来的に世界情勢に無知だ。結果的に日本で炎上することになった。

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報道を総合すると次のようになる。日本ではバービーのみが公開されているのだが、アメリカではオッペンハイマーと同時公開だった。このためSNS上ではこの2つを結びつけるミームが拡散した。実際に旧Twitter(X)でのミームを見たが楽観的なピンクと悲観的な黒という組み合わせが単に面白かったという程度の理由のようだ。

VOXが「Barbieheimer: Destroyer of worlds, savior of cinema」という記事を書いている。「バービーハイマーは世界の破壊者か映画の救世主か」というタイトルだ。バービーという子供のおもちゃと禍々しいオッペンハイマーという名前の取り合わせが面白かったのだろう。

このところハリウッドの映画界には暗い話題が多かった。AIとネット配信サービスの台頭で俳優と脚本家がストに突入してしまい俳優を使ったプロモーションはできない。振って沸いた「面白い」取り合わせは格好のプロモーション材料だとみなされたようだ。

VOXは民主党寄りの(つまり左に偏った)メディアなので人権問題にはとても神経質である。ただ原爆に関してはそのセンサーが全く働かなかった。アメリカ人の核兵器に対する姿勢はこんなものなのか?という気がする。#NoBarbenheimerの反応の中に「アジア人や日本人を蔑視しているのでは?」と書く人がいる。これはある程度当たっている。蔑視感情を持っているかどうかは別にして少なくとも優先順位は低い。日本人はこれまで複雑な感情をアメリカに伝えてこなかったことに原因がある。

ここまでなら単に無知だったで済ませることができる。アメリカ人の国際感覚のなさと無知は嘆くべきことではあるが特にニュースとしての物珍しさはない。

だがこれがワーナーによってエンドースされたことで炎上した。「忘れられない夏」という言い方も悪かった。英語ではSummer to Remenberというそうだ。広島と長崎の原爆が8月に投下されたこともあり夏と原爆は日本では強く結びついている。だがアメリカはもうそれを忘れている。

ではなぜアメリカでは原爆に対する問題が軽視されているのか。実は見て見ぬふりをしているという側面がある。

実は広島サミットでの原爆資料館の話はアメリカではあまり語られていないそうだ。バイデン大統領としては広島で岸田総理に共感するよりも「共和党に利用されたらどうしよう」という恐怖心の方が強かったようだ。自国の強さにこだわるアメリカ人の中には原爆をアメリカの強さの象徴だと考える人たちがいる。またキリスト教的な罪悪感を持つ人もいるだろう。さらにウクライナの大統領を招いてロシアに対する姿勢を強くアピールしたいという気持ちも強かった。だから報道をそのものを抑制してしまったのだろう。

次に原爆をもっと肯定的に捉える人たちがいる。

日本では公開が決まっていない「オッペンハイマー」は原爆開発の歴史とその後オッペンハイマー氏が辿った運命について書いている。当然原爆について描くことになる。ユダヤ系は、オッペンハイマー氏らが原爆の開発に協力したのはナチスからユダヤ人を解放したいという気持ちの表れだと考える。

1つは、原爆開発の倫理的責任の描き方です。作品の中では「ナチスが原爆で先行することを防ぐ」というのが主要な動機だとされています。

クリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』を日本で今すぐ公開するべき理由(Newsweek)

アメリカのエンターティンメント業界にはユダヤ系が多い。映画には多額の資金が必要なのだがユダヤ系は投資に熱心である。このためお金を集める必要があるプロデューサ階層にユダヤ系が多いのだ。このため産業にユダヤ人が多くなる。だからユダヤ系に配慮した内容の方が企画が通りやすいという側面がある。

つまりこの問題には実は三つのレイヤーがある。

  • 核兵器保有は戦略的に重要と考える政治的な動機を持った人たち
  • 原爆を「解放者の武器」と考えるユダヤ系の人たち
  • 単に黒とピンクの取り合わせが面白いと考える無知なアメリカ人

さらにここに「ネット配信に押されて明るい話題がなかったアメリカ映画界」という事情が重なり今回のような問題が起きてしまったことになる。

日本人はアメリカの核に依存している以上「これは仕方がないことだ」と思うかもしれない。だが今回の#NoBarbenheimerがトレンド入りしたことはエンターティンメント業界紙Varietyでも取り上げられている。仕方ないと思わず「ダメなものはダメ」「イヤなことはイヤ」とはっきり言わなければならないということもわかる。

日本人はこれまでアメリカに遠慮して言いたいことを言ってこなかった。これでは何も伝わらない。日米同盟は大切だが自分達の気持ちを素直に伝えることも大切である。単に腹を立てるだけではなく、原爆について学び、自分達の気持ちを相手に伝えるためにはどうすべきか、改めて考えるきっかけとしたい。

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