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世耕参院幹事長が緊縮財政を警戒し、植田日銀総裁に「目を光らせる」と宣言

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タイトルに【悲報】とつけても良かったのではないか。時事通信が世耕氏、日銀総裁に「目光らせる」 「緩和離脱メッセージ」警戒という記事を書いている。ただでさえ優柔不断な岸田総理の元で増税をめぐる議論はさらに混乱しそうである。問題解決は遠ざけられ弱いものいじめだけが横行するからだ。

なぜこれが【悲報】なのか。順を追って説明したい。冷静に考えてみてほしい。植田総裁には緊縮財政を決定する法的権限はない。それはどこか別のところで決まっているのだし世耕さんはそれを知っている。

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6月末に政府の税制調査会が「緊縮財政か増税か」というレポートを岸田総理に提出した。その一ヶ月後植田日銀総裁が金利政策の変更を容認した。市場にショックを与えないように最新の注意を払ったが将来的に日本の金利が上がるのは間違いがない。つまり日本政府は国債に頼れなくなる。現在長期金利は0.605%まで上昇している。市場は「今の日銀はどこまで許容するのか」を試し始めている。時間はまだある。だが無限ではない。

主語を何にするのかは難しいところだが、財務省・日銀は協調して政策を変更した。そして市場にパニックが起こらないように植田総裁は「最初の宿題」をクリアした。静かに砂時計をひっくり返したことになる。

問題は岸田総理がこれをどう捉えているかだ。岸田総理は答申を受け取った。だがサラリーマンいじめの増税は考えていないという。可能性はいくつかある。

  • 受け取った答申の内容を理解していない。
  • 理解はしているが自民党と国民を説得するつもりはない
  • 理解はしているし自民党も国民も説得したいが説得する能力がない

いずれかである。

マイナンバーカード健康保険証での手法を見ると「よくわかっていない上に意思決定もできない」可能性がある。週明けに行われるとされていた記者会見は開かれなかった。代わりに「これから現場と関係閣僚に話を聞きます」と言っている。まだ話を聞いていないのに説明しますと宣言してしまったことになる。

誰に話を聞こうが最終的に決めるのは岸田総理だ。岸田総理の「聞く力」は自分が決められないから相手の話を聞きながら誰かに決めてもらうという意味だったのだろう。

岸田総理に問題があることはわかった。では世耕さんの問題はどこにあるのか。二つ問題がある。

第一に世耕さんは安倍総理の人気の秘密がわかっていない。基本的に安倍総理が相手にしていたのは保守ではなく変化についてゆけない人たちである。彼らに対して「日本人は変わらなくても大丈夫ですよ」というメッセージだけを送り続けていたのが安倍総理だった。世耕さんのメッセージにはそれがない。安倍総理の後継者候補の5人は安倍総理の秘蹟を受け継がなかったといえるだろう。むしろ安倍政権で実現した日銀との協定(アコード)を変更させないと言っている。これでは単なる守旧派である。日本人は抵抗勢力になることは嫌う。むしろ「そんなことをしなくても大丈夫だ」と上から言ってほしいと思っている。守旧派なのに表向き改革思考が強いのは彼らもまた「変われない自分」に劣等感を持っているからなのである。

第二に「自民党」にいる以上、世耕さんは現在の執行部には逆らえない。だからメッセージがどこか物足りないものになる。

上司である岸田さんは叩けないので「代替」として日銀総裁を敵視している。だがこれは単なる八つ当たりの類だろう。植田総裁は財務省と平仄を合わせている。おそらく財務大臣も自民党の税制調査会もそれは知っている。この体制を作ったのは岸田総理であり、岸田総裁を選んだのは自民党の全員だ。おそらく世耕さんはこうした事情がよくわかっているはずである。

世耕さんは秘蹟を受け取っておらず清和会には支持が集まらない。このため自民党で多数派になれない。安倍派を応援する人たちはあくまでも多数派として変化を拒絶したいのだから世耕さんを支持しない。これが悪循環を成している。

植田総裁が砂時計をひっくり返したのだからあとは議論をするしかない。だが何らかの理由で岸田総理は決めきれない。岸田総理は決められなくなるとやたらに周囲に相談を始めることだ。相談をすれば周囲からはさまざまな意見が出てくるが問題は解決しない。

すると国民はどう感じるか。問題を言語化することはなく単にイライラし出すのだ。

だが国民も権威である政権は叩きたくない。つまり政権政党としての自民党には攻撃は向かない。代わりに標的になった人たちがいる。

自民党の女性議員たちが夏休みの思い出作りにパリに出かけた。かなりはしゃいだのだろう。SNSに夏休みの思い出作りの写真が掲載されて炎上したそうだ。仮に自民党に人気があればこのような行為が殊更問題視されることはなかったのだろうが、今は「自民党はなんか違うが代替政党もない」という状態である。すると最も弱い人たちが叩かれ始めるのだ。それが女性議員だったことになる。

血税批判に対して今井絵理子議員が「政党助成金で行っているから血税批判は当たらない」と釈明し火に油を注いだ。

今井絵理子議員は政党助成金がどこから出ているのかを知らなかったようだが、安倍政権時代であればこの程度の失言がこれほど問題になることはなかっただろう。端的に言ってしまうと彼女の無知は安倍政権では「かわいいもの」と受け止められていたが岸田政権になって「許し難いもの」に変わった。今井議員に政治的な知識を期待した人など誰もいないだろう。

今回の状況を見ていると、日本人は問題が自動的に解決しないとイライラし始める。だが問題を解決しようと話し合いを始めることはない。最も弱い部分を見つけてそれを叩き始める。世耕さんが岸田さんの代わりに日銀総裁を「監視」するのも、国民が自民党女性議員の夏休みの思い出作りを攻撃するのも実はその表れなのである。

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