ネット上で「日本の一人あたりのGDPがOECD参加国の中で低い位置にある」とちょっとした話題になった。たぶん、すぐに忘れ去られるのだと思うのだが、よい機会なのでおさらいしてみたい。
この図は一人当たりのGDPを名目と購買力でプロットした図だ。分布をもとに固まりを作る(クラスター分析と呼ぶらしい)と、日本は緑色のグループに属している。緑は「先進国クラブ」の集まりである。「先進国クラブ」から脱却した国には特徴がある。金融拠点になる・都市国家として交易の中心になる・石油で儲けることだ。
ある程度人口が多くなると「働いて稼がないと」食べて行けない国になる。また、いずれも民主主義国だ。君主とその一族が富を独占するという政治形態が取りにくくなるからなのか、国民に政治を解放したから先進国化したのかは分からない。いずれにせよ、国民の労働力とやる気が成長の源泉になっているのではないかと(希望的観測も含めて)思う。
注目すべきなのは「先進国クラブ」ではなく、その隣にある黒い国のグループだ。ヨーロッパの中で先進国から脱落した国(スペイン・ポルトガル)、旧共産圏の国、そして韓国が入っている。これに隣接するのがイスラエル・日本・イタリアである。日本はマラソンでいうと、息切れして先頭集団から遅れつつある国だと言える。黒い国は、先進国でもなければ後進国(数の上では後進国グループが最も多い)とも言えない。いわば中進国だ。日本は中進国化しつつある。
なぜ、日本が成長を諦めて中進国化しつつあるのかについては様々な議論がある。企業は設備投資を更新のみに限定し、成長の源泉になりそうな労働力に分配することもやめてしまった。企業のポートフォリオでいうところの「キャッシュカウ」戦略だ。労働力自体は不足ぎみなので、成長が見込めそうな分野に人が流れず、生産性の低い分野に人が張り付く構造がある。
中には高齢化の影響を指摘する人もいる。つまり日本は老齢化という意味で「先進国」なのではないかというのだ。アメリカやヨーロッパは移民という形で高齢化を贈らせている。安倍政権は「移民ではなく女性を使う」と言っている。本来なら子供を作って高齢化を遅らせるべきだが、それを労働力として使うと言っているわけだ。
民主主義と先進国化がどのような関係にあるのかは分からないが、結果的には「民主主義が健全な国は、そこそこ豊かだ」ということが言える。一方、民主主義が不完全な国は中進国に留まるか、脱落して行く。
現在、安倍政権は「ファシズム化」しているとか「独裁化」しているなどと言われる。確かに、日々いろいろ考えていると、それは正しいように見える。しかし、立ち止まってみると、少し違った光景が見えてくる。
実は、国民の方が複雑な問題を解決することを諦めているのかもしれない。力強い指導者がいて、あれこれと指導されることを求めているのだ。時には文句をいいながら渋々働いて、そこそこがんばる(あるいは能力を出し惜しみする)という光景は、やる気のないサラリーマン社会でもよく見られる。
すると、政権政党は独裁的な力を手に入れても、国民を動かすことはできない。しかし、ナチスのように拳を振り上げて国民を煽動してみても誰も動かない。ただ、やる気なく冷淡に独裁者たちを見つめているだけだ。福祉にかける金は少なくなって行く。これを政権につく見込みがなくなった左派政党が奪い合うのだ。