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最低賃金を上げると幸せになれるのか

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最低賃金引き上げを求めるデモが起きているらしい。これは喜ばしい動きだ。安保闘争のデモは将来不安のすり替えのような意味合いを含んでいるが、最低賃金デモは正面から将来不安の問題に対峙しているからだ。
経済学者は最低賃金の引き上げには否定的な見方をする人が多い。貧困対策にならず、格差を助長するというのだ。
確かに最低賃金を上げても貧困対策にはならない。最低賃金を引き上げると企業が労働者を減らし、ITや生産設備への投資を行うインセンティブになる。最低限のスキルしかない人(多くの若年層が含まれるだろう)は雇われなくなる可能性がある。このようにして単純労働者は仕事を失うかもしれない。
また、最低賃金が上昇すると最低賃金クラスの労働力に頼っていた小規模企業は消えてしまうだろう。これは生産性の低い企業が淘汰され資本が解放されるという意味ではよいことだが、小規模企業への死刑宣告でもある。結局は貧しい企業の経営者が犠牲になるということでもある。
大企業は労働者一人当たりの生産性を上げるかもしれないが、全体のパイが広がらなければ企業が必要とする労働力は減少してしまうだろう。また、生産性を上げる知恵のない企業が「精神論」に走る可能性もある。労働者の数が減ってしまうので、残った兵隊でどうにかしろというわけだ。そのような企業ばかり残れば、全体としての環境は悪化する。
最低賃金が労働市場にどのような影響するかについては、経済学者の間にコンセンサスがないようだ。労働者が自己啓発に努めるのでスキルが上がるだろうとか、やる気のある労働者が増えるという人もいる。また、日本のように慢性的に労働力が不足している市場では失業率は上がらないかもしれないと予想することもできるだろう。だが、急激に最低賃金が上がったケースは多くないので、実証研究がないのだという。
理論的な是非はともかく「今生活が成り立たないから、最低賃金を上げてもらわなければ困る」という人もいるだろう。
では、どうやったら最低賃金が上げられるだろうか。アメリカでは地方議会が中心になって最低賃金を上げている。最低賃金近辺で働く労働者は福祉に頼らざるを得ないので、地方財政が悪化する。こうした負担に絶えかねたところから制度が変わって行くようだ。
逆説的に言えば、低所得者が我慢しているうちは、こうした問題は顕在化しないことになる。生活保護レベルにも関わらず「恥ずかしいから」といって福祉の対象になることを選ばなければ、政府はその対策に本腰を入れないだろう。
福祉給付手続きは大変煩雑で分かりにくい。対象者になっていても制度を知らないせいで申請をしない人もいるだろう。気が弱い人は市役所の窓口で丸め込まれてしまうかもしれない。デモは大切かもしれないが、正しい情報が伝わるような窓口を作り、啓蒙活動や申請の援助を行う必要がある。政府はやってくれないだろうから、政党やNGOがそうした役割を担う必要があるだろう。
このように考えてくると、最低賃金の問題というのは、最低賃金で働く人、比較的低所得の人、低賃金労働に依存する中小零細企業、福祉の担い手(政府)の間の「負担の押しつけ合い」なのだということが分かる。
日本経済は貿易レベルでは赤字、投資レベルでは黒字という状態が続いている。政府の「トリクルダウン」という説明を聞いた国民が円安を是認したためにこの傾向は拡大した。また、政府は海外投資を通じて海外の日系企業の仕事を増やそうとしている。つまり、安倍政権の政策とは国民の税金(及び政府の借金)を企業に移転する行為だといえる。
儲けている企業は国内の生産活動に頼らずに収益を上げているものと思われるので、給与を通じて資金を再還流させることは難しそうだ。資本による儲けは、消費税を使っても捕捉できない。こうした儲けを国内に再還流させない限り、パイの奪い合いは続くだろう。


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