共同通信が「ビッグモーターに37人出向 損保ジャパン、担当部長も」という記事を出している。今37人いるわけではなく2011年から人を出していたという話である。一時は資本関係もあったそうだが現在は解消していると読売新聞も書いている。
損保会社への類焼を防ぎたいテレビ朝日のモーニングショーは徹底防衛網を作り損保会社を擁護していた。
損保会社が修理会社と不適切な関係を続けていると保険制度そのものの信頼が失われかねない。金融庁はなんらかの処分を前提に調査を始めた。
共同通信は2011年から37名の出向が出ていたとしている。また金融庁は保険業法に基づく報告徴求命令を損保ジャパンに出すことも視野に実態を調べ始めたという。読売新聞は「ビッグモーターに損保ジャパンから37人出向…三井住友海上・東京海上からも各3人」という記事を出している。一時は他の損保会社も人を送り込んだようだが損保ジャパンの出向者は突出している。一時は資本提携もしており第二位の株主だった時代があるそうだ。
すでにネット出回っていた話が「金融庁の知るところとなった」ということだけが新しい進展だ。
テレビ朝日のモーニングショーは保険のお仕事「も」やっているという専門家(弁護士)を招き入れ「前代未聞の出来事なので誰も想像していなかったのだろう」と語らせていた。さらに「数が膨大なので調べ切れるかどうか」と言っている。「刑事告訴も難しいのでは」という見解だ。できるだけ穏便に済ませたいのだろう。
かなり露骨に弁護をするんだなと思っていたのだが、さすがにネットに出ている話にも触れざるを得なかったようだ。
一通りビッグモーターが叩かれた後で山口真由氏が損保会社の問題に触れた。専門家として呼ばれた弁護士は「噂は聞いている」とコメントしていた。つまり一部例外的な話はあるかもしれないと言っている。出向者も出し資本提携までしていたのだから「組織的に知らなかった」ことは考えにくいのだが、あくまでも関与していたとしても組織ではなく個人ということにしたいのかもしれない。そこで玉川透氏が「警察が入れないのかな」と指摘し周囲が曖昧に反応した上で次に移っていた。
きれいなフォーメーションが出ており感動した。誰かがシナリオを書いたわけではないとすれば阿吽の呼吸で流れを作ることができるのだろう。
ただしワイドショーを非難する気にもなれなかった。情報とも報道ともつかない綱渡のショーなので多少の演出は致し方ない。これを「ジャーナリズム」だと思ってまじめに見ている人もほとんどいないはずだ。モーニングショーは過去にも政権批判で炎上騒ぎを起こしている。ただでさえ可燃性の強いショーだ。自分達きっかけで大口スポンサーである保険会社に延焼するのは是が非でも避けたかったのだろう。叩くことを問題解決だと思っている人は大勢いる。
さらにいえば最近のテレビ報道はネットから監視されている。山口氏が「損保会社の問題」について触れたことからテレビがネットをかなり意識していることもわかる。叩いている側が叩かれる側になりかねない。
くるまのニュースが「「ビッグモーター」保険金不正請求は我々の自動車保険にも影響する!? 車所有者全てに波及する「深刻な事態」はあるのか」でテレビ局の報道姿勢に疑問を呈している。保険制度への影響はないというのだ。
気持ちとしては解りますが、任意保険のシステムはもう50年以上に渡って運用されていますし、データだって揃っています。ビッグモーターで修理した事故だけ金額が高ければ、いずれすぐに解ります。だからこそ、1年くらい前から怪しいと感じた3社で調査を始めています。
確かにその通りだろう。過去の統計があるのだから突出した逸脱行為はいずれバレる。ただこの主張は裏返すと次のようになる。
3社が調査せず見過ごしていれば統計が変わっていた。
新規顧客を獲得したい損保各社は営業活動ができる修理工場を探している。ワンストップのビッグモーターは打ってつけの企業だったのだろう。だが非公開企業なので資本参加してもガバナンスを変えることはできない。そのうちに逸脱が目立つようになり徐々に手を引いてゆくことになる。
かつて出向者が出ていて資本参加していたということは何らかの事情で近づき、何らかの事情で徐々に手を引いたことになる。
ここから先は東洋経済が記事を書いている。損保会社は逸脱を見過ごせなくなり従業員などの証言を集め調査をさせたと言っている。
ただし損保ジャパンだけはなぜか「損保ジャパンは当初、ビッグモーターの自主調査をそのまま鵜呑みにし、被害顧客への対応すら始まっていない段階で、損保各社が停止していた取引を7月下旬から早々に再開した」という。金融庁もすでにこの件について把握しており「金融庁は12月に入って損保ジャパンに対して、ビッグモーターが取り扱った事故車の損害査定や保険金の支払い態勢に問題がなかったか検証するよう指示を出した」という。
みんな知っていたのだ。
東洋経済によれば問題が拡大したのは2019年4月に「査定レス」という仕組みが導入されてからなのだそうだ。査定レスの仕組みを上げることで「ビッグモーター内でのプレゼンスを向上させる」としていた。つまり相手の査定を丸呑みすることで大口代理店であるビッグモーター内部でのシェアを拡大を狙っていたことになる。
損保2社はビッグモーターという大口顧客でのシェアを維持するために損保ジャパンに追従することもできただろう。だが「さすがにそれはどうか」ということになり「統計データー」は守らられたことになる。
ここまで詳細に問題はわかっている。だが、ワイドショーでこれが触れられることはなさそうである。「私は知らなかった。前代未聞だ。ビッグモーターに騙された。」として関係者たちはそれぞれの方向に走り出している。第二次世界大戦が終わってから「日本は陸軍に騙されていた」と言っているのと同じ構図が見える。あとは全力で駆け出すだけだ。ためらえば巻き込まれる。
ただそうはいってもワイドショーは単なる「ショー」だ。つまり真剣格闘技ではなくプロレスのようなものである。だからコメンテータもその範囲の中で技を磨けばいいと思う。
ただしこうなった以上は徹底的に叩かれる悪役が必要になる。ビッグモーターは会見を予定しているそうだ。マスコミの報道に苦言を呈する内容になりそうだが内容のいかんにかかわらず徹底的に糾弾されることになるのかもしれない。
このようにしてビッグモーター問題は落ち着くところに落ち着いてゆくのだろう。
今回の件では「誰が悪者か」という点に注目が集まりがちだ。だがおそらく本当に大切なのは、なぜ、損保会社が長年培った統計的信頼を崩してまでシェアの拡大に邁進しようとした裏にある背景と最終的に上位3社が踏みとどまった理由だ。
できればワイドショーもプロレスのようなことはやめてもらってこの辺りを冷静に分析していただきたい。