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所有と分配 – 市役所に火をつけた男をモチーフに

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男が市役所に火を放った。市税が払えなかったからだという。払えなければ、すべての貯金を放出して生活保護に頼ればよかったのにと思った。所有欲さえ手放してしまえば、刑務所に入る事はなかった。だから、この人は間抜けだ。
所有欲は資本主義の大前提になっていて成長の源泉だ。しかし、ぎりぎりの賃金しか得られない層(例えば、非正規雇用のシングルマザーなど)は所有欲を手放した方が自由になれる。ついで生産性も手放すことになる。
政府は低所得層に重い税金や保険料を課している。つまり、こうした層から生産に参加する動機を奪っている。
一方、企業は税金を払わなくて済むように政府に働きかける。こう考えるのは税金よりも自分で投資をした方が有効に使えるという判断があるからだろう。しかし実際には預金として貯め込まれ、国債に変わる。結局、国よりもうまく投資することはできないと認めていることになる。国債は所有権移転のない税金のようなものだろう。
企業が市場に投資できないのは、税金や給与として直接分配していないからだ。だから市場は縮小する。所有権を手放すことが怖いという気持ちが負のループを作っている。
一方。政府自民党は大盤振る舞いだ。年金受給者の1/3に3万円配るのだと言う。彼らは確実に選挙に来てくれるから、票をお金で買う事ができる。これは有効な投資だが、税金の所有権は自民党にはない。国債の所有権も自民党にはない。もっとも、自分で稼いだものではないから、自由に使う事ができるのだとも言える。
所有は資本主義の安定と成長の源泉になっている。しかし、ピケティによると資本の収益率の方が生産の収益率よりも高いので、格差が拡大するのだという。格差が拡大した状態が「均衡」で、成長とは均衡までの過渡的な状態に過ぎない。
日本の状態を見ると、生産の成長が止まると資本のみで収益を得る事ができなくなっていることが分かる。投資機会は失われ、結局政府を経由して分配に回る。ピケティが間違っているのか、日本が特殊なのかは分からない。
ピケティの観察によると、この格差の拡大を縮小する「有効な」手段は、今のところ戦争だけだ。戦争は生産設備を破壊するので、格差が縮小するのだという。現在では戦争が起こらないのでテロが横行する。テロは生産設備を破壊しないが、市民生活に脅威を与える事で、社会から生産性を奪う。テロの主な担い手は、一生余剰を手にする事ができない貧困層だ。
すると、新幹線で焼身自殺を起したり、市役所に火を放つという行為は、テロの一種だと言うことになる。テロの原因が格差だと規定し、それを揺り戻す最後の手段だったとすると、市役所に火を放つという行為には「意味がある」ことになる。
この結論は「破壊を悪」とする人たちから非難されることは請け合いだ。しかしながら、シュンペンターは「破壊」を肯定的に捉えており「創造的破壊」と呼んでいる。彼らの時代は戦争に覆われていた。戦争による破壊を回避しつつも、成長に必要な破壊行為を肯定するための解だったのではないかと思える。