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岸田総理の令和臨調での噛み合わない会話 ボケているのかとぼけているのか?

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時事通信のランキングで「岸田首相「国会も変わらねば」 令和臨調で異例の言及」という記事が一位になっている。時事通信の趣旨は「岸田総理は憲法をよく理解していないようだ」というものだろう。だが、この発言にはもう一つおかしなところがある。実は会話として噛み合っていない。令和臨調は国会議員に増税圧力をかけるための会議体である。だが岸田総理はこれが理解できていないようだ。よく岸田総理は「財務省と組んで増税を仕掛けている」とされるのだが単に「神輿の上で踊っているだけ」という可能性がある。このチグハグさが支持率の低下につながっているのだが、国民が代わりに期待できる政治勢力はない。

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時事通信によると岸田総理のコメントは「国会の議論も批判だけではなく、国民に分かりやすい形で選択肢を示していくことが大事だ」である。二つツッコミどころがある。第一に国会には内閣を監視する役割がある。つまり批判は本来業務である。岸田総理は憲法の要請がよくわかっていない。さらにマイナ保険証の問題を見てもわかるように、岸田総理は選択肢を示してもいない。

だが今回のポイントはそこではない。この会話は令和臨調と呼ばれる会議体の佐々木共同代表のコメントに答えたものだ。佐々木さんは「国会は仕事をしていない」と言っている。では佐々木さんのいう「仕事」とは何なのか。

佐々木氏は令和臨調の共同代表就任時にも「財政危機に対応できない国会は役割を果たしているとは言えない」と指摘している。財政危機に対応できないのは国会議員がポピュリズムに冒されているからであるという内容だ。つまり選挙によって民意を反映することをポピュリズムと決めつけている。

またNHKは4月にこのような記事を書いている。

「令和臨調」少子化対策 税を軸に安定的な財源確保 検討を提言

この会議体は増税路線を定着させるための異常な装置なのだ。

国会は国民の代表に選挙で選ばれている。ところが誰か(政権なのか財務省なのかはわからないが)はこれが気に入らない。自分達が権力を維持するためにはもっともっとお金が必要だ。そこで選挙で選ばれた人たちと別の人たちを集めて「国民代表だ」と言っている。そして彼らに「国民の言うことなんか無視して増税しないさい」と言わせている。マスコミもまたこれを「国民代表の有識者の声である」と解説する。

日経新聞の記事である。

令和臨調とは 経済界・学識者ら有志100人超で政策提言

つまり佐々木さんは公衆の面前で総理に「選挙なんか気にしないで早く増税しろよ」と迫っていることになる。こうなると岸田総理の答弁がますますチグハグなものに見える。

可能性は二つある。

  • 佐々木共同座長の要求があまりにもあからさまなのでとっさに誤魔化した。
  • 岸田さんは本来の自分の役割を理解しておらず、単に神輿の上で踊っている。

官僚と族議員たちは自分達の権力を維持するために税収を求めている。だが岸田総理の支持率は落ち続けており彼らの要請に応えられない。そこで岸田総理が始めたのが全国行脚だ。これは二つの理由で失敗するだろう。

まず全国行脚はプーチン大統領の「劇団プーチン」に似ている。

プーチン大統領は民衆革命を「訳がわからないもの」と考える。とにかく怒った民衆が権力を破壊しようと企てていると捉えているのだろう。このため全てのシナリオを整えた「お芝居」をやりたがる。国民の代表者に「大統領は素晴らしい」と言わせたり、国民の代表者とハグをしたりする。こうした一連の「お芝居」を民主主義報道になれた我々が見ると「劇団プーチン」のように感じられる。

日本のメディアでは「プーチンの愛されアピール」と揶揄されていた。岸田総理にもそのようなところがある。マスコミに「国民の意見を傾聴している岸田総理」という動画を撮らせさえすれば支持率が向上すると本気で思っているのであろう。

次に改革をやりたがる。安倍総理にあやかっているのだろうがこれも逆効果だ。

安倍総理の改革は「変化を拒絶する国民」対策だった。安倍総理は一貫して「我々日本人は素晴らしいから変わる必要は一切ない」と言っていた。メッセージを注意深く聞いていると「変わるのは常に他人」だ。国民は何もしなくていい。我々の提案さえ認めてくれれば悪いようにならないというのが安倍政権だった。

改革派は自分で前進できるので改革に憧れを持たない。改革に憧れ劣等感を抱くのは自分達が変われない人である。安倍総理はそれをよく理解していた。

岸田総理も安倍総理のような「改革」を謳う。その中身を聞いてみよう。

  • 日本はこれまでのように日米同盟を基軸にしなければならない。そのためには防衛費を増額する必要がある。納税者はもっと変わらなければならない。
  • 日本にはお金がいる。だから、日本は再び成長路線に乗らなければならない。そのためにはあなたたちが終身雇用から脱却しなければならない。
  • 効率的な国になって成長するためには日本はデジタル化を推進する必要がある。だがそのためには紙の健康保険証を廃止してデジタル化された健康保険証に慣れなればならない。国民は変わる必要がある。

このように岸田総理の政策には常に「国民は変わらなければならない」というメッセージが付随している。これが嫌われているのだ。

日本人が求めているのはSMAPの「世界に一つだけの花」である。SMAPは「われわれは元々一人ひとりが特別なんだから別にナンバーワンにならなくてもいい」と説く。2002年の曲だそうだ。バブル崩壊以降何をしてもうまくいかなくなった国民を慰め「もう変わらなくてもいい、成長しなくてもいい」と言っているのが「世界に一つだけの花」なのである。

岸田総理は令和臨調で「時代は大きく変化しているから国会の運び方やありようも変わらなければならない」と述べた。あくまでも「改革の大切さ」を訴えている。実はこれは問題発言だった。理由はいくつもある。

第一に岸田総理は現行憲法のチェックアンドバランスの重要性を理解していない。批判ではなく国民の代表が行政府をチェックするのが現在の憲法の仕組みである。政党が内閣を批判するのは当たり前であり期待された動きだ。

第二にそもそも現在の岸田政権は選択肢を提示していない。「デジタル化は大切です。だから健康保険証は廃止します」と言っている。決めたことを「丁寧に説明する」と言っているが単に押し付けているだけである。

第三に岸田総理は改革の意味合いを勘違いしている。国民は変わりたくない。誰かが変わることによって自分達が変わらなくて済むようになればいいと願っているだけだ。

第四におそらく佐々木氏が共同代表になっているのは誰かが「国民」の口から「国民は増税を希望している」と言わせたいからだ。つまり「野党は内閣を批判せず内閣の方針をそのまま受け入れろ」と返すのではそもそも佐々木さんとの間に会話が成立していない。

特に第三の項目は重要だ。「改革」の意味を正しく理解しているのは維新だけである。国家予算に対する責任を取らず「官僚と族議員の権限を縮小さえすれば今のままで大丈夫だ」と言っている。変わりたくない国民はおそらく維新を応援するだろう。改革欲求を満たしつつ自分達は変わらずに済むからである。どっちみち変化しなくてはならないにせよ、最初に犠牲になるの嫌だと考える人は「まず国会議員が血を流せ」と考える。だが自分達が叫んで悪者になる必要はない。維新が代わりにやってくれるからだ。

岸田総理が自分たちが仕掛けた装置の意味に気がついていないのか、あるいは財務省や既得権益を持った議員達に乗せられているだけでその意味がわかっていないのかを発言から知ることは難しい。仮に岸田総理と財務省が組んでいて増税を飲ませたいなら「変化は何も起こりませんよ、単にほんのちょっと負担が増えるだけです」と言っていたはずだ。だが岸田総理は国民に変化を突きつけている。これは自民党にとって大きなマイナスだ。既得権益にぶら下がっていたい自民党が国民に変化を押し付けていると捉えられかねないからである。

政府税調の答申を受けてワイドショーでは盛んに「通勤定期券にも課税するのか」と言うような報道が見られるようになった。だが、岸田総理と周辺の反応は薄い。実はこれまでも「人の話を聞かない」とか「共感力がない」などと批判されていたのだろう。その対策として「岸田ノートで聞くアピール」を続けてきたのかもしれない。これまではその程度のアピールで十分だったということになる。

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