ざっくり解説 時々深掘り

アメリカ合衆国は中国に再接近を試みている

現在、米中デカップリング状態にあると言われている。中国の潜在的脅威にさらされる日本にとっては好ましい動きと言えるだろう。だが安心ばかりはしていられない。このところアメリカの高官の北京入りの動きが目立つ。アメリカの民主党政権は元々「どちらかといえば中国より」とされているのだからむしろ当然の動きである。アメリカは自国の国益を第一優先に動く国なので、意外と「日本が梯子を外される」というようなことも起こり得るのかもしれない。2024年には政権交代の可能性もあるのだが民主党が中から変質する恐れもある。

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このところアメリカの高官や要人の訪中が相次いでいる。

ブリンケン国務長官には習近平国家主席が対応したがこの会合は非常に複雑なものだった。

まず王毅政治局員が対応しアメリカの政権の対中政策について厳しく批判した。この対応は「外務大臣より激しかった」とされているのだがのちに外務大臣は失踪しておりいまだに消息がわかっていない。

中国国民の間にも秦剛外務大臣の消息を気にする人が多いそうである。戦狼外交の政治家として瞬く間に出世したが「アメリカに対する強硬さが足りない」として王毅政治局員が出てきたという経緯がある。ただしネット検閲が行われていないことから「わざと噂を流させているのではないか」と疑う中国人も多いようだ。さまざまな醜聞を流しておいて後になって「更迭しました」というのも中国流なのだそうだ。

習近平国家首席がバイデン政権に反発していることは間違いない。一方で民間企業の呼び込みには熱心である。経済に翳りが見える中国は急いで外国投資を呼び込もうとしている。金融市場への外資参入を容認し、スパイ法についても各国の商工会議所に説明を始めている。

アメリカ側にも事情がある。共和党の強硬派は「バイデン大統領と中国の不適切な関係」を疑っており中国がアメリカ人から仕事を盗んだと主張している。このため中国に対して厳しい対応をしてきた。しかしこれは中国を刺激し却って台湾有事を誘発しかねないような情勢になっている。さらに経済にも悪影響が出てきた。そこでブリンケン国務長官やイエレン財務長官を使って関係修復を試みている。

BBCは良い警察官・悪い警察官というたとえでこれを説明する。イエレン財務長官はグローバリストを代表しているという書き方になっている。バイデン大統領と違った考え方の人が民主党にもいるということだ。

「ちょっと『良い警官、悪い警官』のようなアプローチだと思う。ブリンケン氏は悪い警官として動いた」と、国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミスト、ケン・ロゴフ氏はBBCに語った。

そんななかキッシンジャー元国務長官が習近平国家主席と対談した。アメリカの高官でも会えない人がいるのだから異例の厚遇と言える。キッシンジャー元国務長官はニクソン政権時代の国務長官で中国とアメリカの国交正常化に尽力されたと言われている。ニクソン大統領は共和党系の大統領である。

このキッシンジャー氏の会談もバイデン政権にとっては非常に複雑なものだった。バイデン政権はキッシンジャー氏が習近平国家主席と会うことを知らなかったようだ。バイデン政権の高官は習近平国家主席とは会談できず、コミュニケーションの再開も見通せない。ビル・ゲイツ氏も習近平国家主席に会えているので形式的には「バイデン政権外し」が起きていることになる。アメリカには中国との関係修復に期待する人もいますよというメッセージを盛んに流しているのだ。

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は20日、今週のキッシンジャー元米国務長官の訪中について、政府の代表ではないキッシンジャー氏が中国国防相らと会談する一方、「米政府がコミュニケーションを取れていないのは残念」という認識を示した。

トランプ政権は新型コロナウィルスを「チャイナウィルス」などと呼び「中国がアメリカ人の仕事を奪っている」と主張していた。さらにバイデン大統領とその家族は中国と深い関係があるという根拠不明の主張もよく聞かれた。バイデン大統領はこの疑惑を払拭するために、中国を仮想敵に設定し必要以上に叩いてきた。最近も習近平国家主席を「独裁者と言って何が悪い」などと言って憚らない。高齢のせいで抑えが効かなくなっているのか共和党の批判を払拭しようとしているのかがよくわからない。だがそれに対抗する動きがアメリカ国内からで初めており中国もそれを積極的に利用しようとしている。

米中のデカップリングはトランプ政権で作り出されバイデン政権にも引き継がれたわけだが、米中双方に「経済的にはマイナスなのではないか?」と考える人たちも増えているようだ。そこで中国は100歳の老人を引っ張り出して「かつて中国とアメリカの関係はよかった」と宣伝を始めた。おそらくこの機運に期待するアメリカの財界人は多いはずだ。

つまり「米中はそのまま対立するだろう」という見込みはある日突然覆る可能性がある。

多様な意見のあるアメリカ合衆国は政権交代によって大胆な軌道修正を行うことがある。方針が変わった後で「想定外だった」と慌てても遅い。すぐさまこの動きが米中関係に大きな影響を与えることはないのかもしれないのだが、注視はしておくべきだろう。

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