もともとは2015年に書いたのですが、自民党が大勝すれば安倍首相は経済運営に対する意欲を失うのではないかという予測の元に書いたのだが、野党がなくなることはなく、さらに内部にも対抗勢力が出てきたので、大幅に外してしまった予測です。2017年10月の第48回衆議院議員選挙で自民党が再信任されたので不安に思っている人のアクセスが増えているようです。(2017/10/23)
来年の参議院選挙を睨んで「このままでは自民党が勝ってしまう」というツイートを目にするようになった。非改選議席では自民党が優勢なので、野党がまとまらないままだと自民党が勝ってしまう可能性が高いのだそうだ。衆院選も合わせて行うと衆参議院ともに自民党と改憲勢力が2/3の多数勢力になってしまう可能性が高いという。これは大変だ
個人的に自民党の改憲案に忌避感情を持っているので「このまま自民党が勝ったらどうしよう」などと思っていたのだが、最近考えが変わってきた。「このまま勝ってくれないかなあ」と思うのだ。ここで野党が中途半端に勝ってしまうと「時計が進まない」からである。
自民党が勝つと自動的にいくつかの政策を承認したことになる。例えば、移民の解禁などがそれに当たる。結果が出ると時計の針が進むのだ。
自民党が参議院選挙で勝つと、安倍首相の悲願である憲法を改正の発議が可能になる。もともと、安倍首相は経済政策や弱者救済などにはあまり興味がなさそうなのだが、目的が達成されたことで安倍首相は経済などの諸問題を解決する意欲を失うのではないだろうか。ロイターによると金融市場にはそういう観測があるそうなのだが、これが顕在化すると日本売りが始まる可能性もありそうだ。
この予想は外れた。周りが経済政策を優先するようにと働きかけたことと、この当時にはなかった特区に関する疑惑で政治的リソースが消費されたからだ。ただし、2017年の衆議院議員選挙で自民党が黙認されたので、憲法問題が再燃するかもしれない。(2017/10/23)
不思議な事に首相の発言を聞いてもなぜ憲法を改正したいのかはよく分からない。「アメリカに押しつけられたから嫌だ」とは言っているのだが、どんな問題を解決するために憲法を改正したいのかがよく分からないのだ。つまり、自民党の中では改正自体が自己目的化している可能性が高い。
憲法改正ができる環境が整った時点で首相の願望は達成されてしまう。これは首相が政治的目標を失うということを意味する。参議院選挙後、安倍首相は諸問題に対する解決策を示さなくなるだろう。
逆に野党が「中途半端に」勝ってしまうと首相の動機は温存されてしまう。やる気もないのに場当たり的な経済対策を採用する可能性が残ることを意味する。経営ビジョンもないのに経営企画室に行っては「ねえ、なんか儲かるビジネスないかなあ」などという社長に似ている。これは迷惑だ。
この予想は半ば当たった。東京都議会選挙で負けた結果希望の党が台頭したために、消費税の使い道を変えるとして衆議院議員選挙を行ったからだ。立憲民主党も出てきたので、今後も野党が台頭することになり、それに伴って無意味な経済的スローガンが続くことになるのだろう。(2017/10/23)
一方で、国体原理主義者(日本国民は生意気なので天賦人権など与えていると何をしでかすのか分からないと考えている人たち)への抑えも利かなくなる。現在「同性愛者は異常」などという失言がネットで炎上しているようだが、もっと過激な主張が飛び交うだろう。「選挙があるから黙っていろ」という言い訳はできなくなる。議会で多数派を占めているうちにできることは全部やってしまおうという人たちも増えるだろう。
国民は賛同するにせよ反発するにせよ、自ら選んだ政権が何をしでかすのかを直視する必要がある。
国民はこうした過激な言動を聞きつつ、しばらくは安倍政権を支持するはずだ。消費税増税目前なので駆け込みで経済がよくなるはずだからだ。これを「安倍政権の経済政策の効果が出ている」と感じるのではないだろうか。国民は理性的な判断はできない。リーマンショックの後の経済不調で麻生政権に不満を抱き、東日本大震災の後の不安を民主党政権にぶつけた。疫病が流行るたびに首都を替えた昔の日本人を笑えない。今でも同じようなことが起こっている。ここ数年も、消費税増税前の駆け込み需要を見て「経済が好転した」と錯誤してきたし。次回の駆け込み需要も「安倍政権のおかげ」だと感じるだろう。
参議院選挙前に消費税の増税は延期されたので線で消した。(2016/7/10)
こうした「好調」を目にして野党は存在感を失う。代替の経済政策も出なくなる。すると野党内部での主導権争いが激化することになる。野党は有効な政策を打ち出せないのなら、この際消えていただいても構わないのではないかと思う。もし仮にこの状態で政権を取ると(それはほとんどあり得ないことだが……)政権を取った状態で主導権争いが激化するという状況が起こる。それは避けたほうが良い。
この予想は半ばあたり半ば外れた。民主党は維新の党とくっつき民進党を作った。しかし支持が集まらなかったので蓮舫代表を引き摺り下ろした。そのあとで代表選に勝った前原誠司代表が希望の党に移り、負けた枝野さんが立憲民主党を立ち上げる。また、参議院に残った民進党議員が立憲民主党にくっつくなどと言ってみたり、希望の党の内部でも「小池さんのいうことは聞かない」などと言い出す議員が現れた。不幸中の幸いはこの状態で政権に関与しなかったことだけである。(2017/10/23)
時期がいつになるかは分からないが、国民はやがてアベノミクスの効果がなかったという事実を直視せざるを得なくなるはずだ。安倍政権は逃げ場を失い、それに代わる政策もないということが露呈するわけである。日銀に何かを叫ぶかもしれないが、日銀は何もしてくれないのではないだろう。野党のせいにしたくても競合するような野党は存在しない。
こうして政治を冷静に眺めると、手段が自己目的化しているように思える。自民党の人たちは憲法改正をすれば問題が自然に解決すると思っているようだし、民主党の人たちは政権交代さえ成し遂げれば世の中はよくなると考えている。状況が膠着しているうちは、政治家はいつまでもこの幻想にしがみつくことになるだろう。で、あれば時計の針を一歩進めるべきなのだろう。