一世代前の機材とPCを使ってデジタルビデオの取り込みをした。同じ画面サイズでキャプチャしているはずなのに使用する圧縮方式(コーデック)によって取り込みされるピクセルサイズと表示されるピクセルサイズが違ってしまった。「なぜ、このようなことが起こるのか」と調べてみると、理解するのはかなり複雑な基礎知識が必要だということが分かり、それをまとるとかなりの長文になってしまった。分かり易く解説するとなるとこれ以上の図式が必要になるものと思われる。
混乱の原因は歴史的な経緯による。もともとビデオはアナログで、画面サイズは4:3と決まっていた。パソコンもアナログ変換したテレビに映していたので画面比率は4:3だった。ところがテレビ電話が4:3ではない画面構成を持っていた為に最初の互換性の問題が起きた。次にアナログビデオをデジタル化して編集する事が一般化したために混乱が起き(映像圧縮技術のために切り捨てが必要だった)た。2003年頃からPCのワイドスクリーン化が起き、「最も美しい」とされる黄金比に合わせて16:10というモニターに移行した。ところが映像が16:9を採用したので、パソコンの画面もそれに合わせ16:9に落ち着いた。16は4の2乗であり、9は3の2乗だ。算術的に計算がしやすかったものと思われる。16:9の画面比率は2008年頃からPCでも一般化した。
このため携帯電話ではCIF体系が残り、初期のデジタルビデオは2:3の比率を4:3や16:9にして表示する方法が取られた。さらに現在のデジタルビデオは16:9を利用している。携帯電話の中にはデジタルビデオのソフトウェアがCIF系に対応しているのに、ワンセグを放送する都合上16:9の画面を持っているものがある。
ハイビジョン・フルハイビジョン
フルハイビジョンの規格は1920 x 1080ピクセル。日欧米で放送規格が異なり、日本ではISDBという方式を採用されている。DVDは1280 x 720ピクセルを採用。この大きさをwxgaと呼ぶ。数字が小さいので解像度が低いように思われるが、放送はインターレースであり、DVDはプログレッシブ方式を採用している。放送の形式を1080iと呼び、DVDは720pと呼ばれる。この2つが「ハイビジョン(HD)」だ。
地デジの転送速度は17Mbps程度。
H.264/MPEG-4 AVC
デジタルビデオの圧縮方法をコーデックと呼ぶ。標準化団体が2つありそれぞれMPEGとH26xと呼ぶ別々の規格を作っていた。もともとMPEG-4は携帯端末向けの規格であり10kから100k台の転送レートに対応していた。この2つの団体が共同で開発した規格がH.264/MPEG-4 AVCである。H.264/MPEG-4 AVCは携帯端末から放送までの幅広く対応しており、単にH.264と呼ばれることがある。これまで使われてきたH.262と比べるとデータ量が半分で済むというメリットがあるが、計算に負荷がかかるのでスペックの低いパソコンなどでは取り込みや再生がうまくゆかないことがある。
一方、H.264ではないmpeg4コーデックもある。一世代前のコーデックだとされているのだが、古い世代のパソコンだとこちらの方が使い勝手がよいかもしれない。H.264/MPEG-4 AVCもMPEG4も同じ.mp4という拡張子が使われることがあるので、ファイル名から判断することはできない。MPEG4で.movという拡張子の付いたものもある。
VP9
H.264の次世代コーデックをH.265/HEVCと呼ぶ。この系統のコーデックは主要な映像メーカーが支持しているのだが、特許料が必要だ。そのため、Googleでは特許料のかからないVP9というコーデックを推進している。YouTubeを対応ブラウザーで閲覧するとVP9で再生されるのだという。このファイル形式の拡張子は.webmだ。YouTubeビデオは、mp4(H.264/MPEG-4 AVC)と.webmのファイルがダウンロードできる。
モバイル機器向けのビデオ形式
ビデオ機器のハイレゾ(高解像度化)が進むとよよりよい画質で再生したくなるのが人情だ。しかし、様々な事情によりハイレゾ画像が使えないことがある。PCの処理が追いつかない、インターネット回線の転送レートが低い、画面が小さいという理由が考えられる。
例えば、ネット回線の細い環境でYouTubeを見ると、144p、240p、360p(数字は高さ)程度の解像度が使われることが多い。144pの転送レートは240kbps程度で画像サイズは256 x 144ピクセルだ。240pの転送レートは400kbps程度で画像サイズは426 x 240ピクセル。さらに360pの転送レートは500kbps程度で解像度は640 x 360ピクセルである。480pになるとアナログテレビやビデオと同程度の画質となる。
ワンセグ放送の解像度は320 x 180ピクセルであり、フレームレートは15である。必要な回線は映像が128kbps、音声が64kbps、データが60kbpsとのことである。なおコーデックはH.264/MPEG-4 AVC。
DV
SDデジタルビデオの規格であり、コーデックの名前としても使われる。テープを使ったビデオカメラなどで使われた。解像度は720 x 480ピクセル。2000年代の前半に使われた。圧縮率はMPEG系と比べると高くないが、ファイヤワイヤケーブルを使ってそのままPCにデータが転送されるので人気があった。色滲みがあり放送業界では敬遠されることがあったという。
転送速度は25Mbps程度。iMovie5から16:9のビデオが取り込めるようになったがそれまでは4:3にしか対応していなかった。
DV形式でキャプチャした画像の解像度は3:2だが、パソコン上では16:9で表示される。画像加工ソフトウェアでは3:2(720×480)で認識される場合がある。このため、キャプチャした映像をソフトウェアで加工すると、表示解像度が変わってしまうことがあり、取り扱いが難しい。
パソコンで使われるピクセルは正方形だ。しかし、アナログ動画(走査線486)をサンプリングするために720 x 486ピクセルでサンプリングするという方法が考案された。縦横比が4:3にならないので、無理矢理合わせる為に正方形でないピクセル方式が開発された。
DVやMPEGは圧縮の関係上ピクセル数が16の倍数でなければならなかった。このためアナログのサンプリングを基礎に720 x 480ピクセルという概念が生まれた。上2ピクセル、下4ピクセルは切り捨てられた。これをDV解像度と呼んだ。(以上参考はこちら)
SDの時代はこの2:3の画像を4:3で表示していた。テープで撮影したデータをサンプリングして取り込み、PC上で編集する「ノンリニア」という編集方式が使われていた。AdobeのPremierやFinal Cut Proなどが有名だ。
その後16:9の画面比が登場し、2:3で記録して4:3ないしは16:9で表示するということになった。このような経緯で様々な比率が混在したため、混乱が生じて映像制作者たちを悩ませる事となった。
AVCHD
AVCHDはHDデジタルビデオの規格として開発された。8センチDVDで記録できるようにH.264/MPEG-4 AVC方式で圧縮している。ミニDVDではなくSDHCカードに録画する機器もある。ビットレートは最大28Mbps。1080pや720pに対応した製品が作られている。解像度が最初から16:9に設定されているのでパソコン表示との間に差異はなく、取り扱いが楽になった。
iMovie8からAVCHDに対応するようになった。IMovie8はPowerPC G4には対応していない。iPad2で撮影した動画は最初からH.264/MPEG-4 AVCで圧縮されており、16:9で撮影されるのでパソコンの取り扱いが楽である。
モバイル機器におけるデジタルビデオ
iPhone3Gsで撮影できるムービーサイズは640 x 480だ。これはVGAと呼ばれる4:3の比率を持ったムービーだ。これを480 x 320(3:2)の画面で表示する。iPad2はHDムービー(1280 x 720)を撮影できる。これは16:9である。このように、同じメーカーでも撮影機器によって対応する比率は異なっている。
AppleのビデオにはiTunes経由で取り込むビデオとユーザーが撮影したビデオの2つの体系がある。ユーザーが撮影したビデオはDCIM(Digital Camera Image)というフォルダで管理され、英文字と数字8文字のファイル名でなければならないなど様々な規制がある。
一方、パナソニックの携帯電話P-04Cは854 x 480ピクセル(16:9)が表示できる。これをiPhone3Gsより一回り小さい画面に表示する。これはこの携帯電話がワンセグを表示できるようになっているからだと思われる。ところがワンセグの解像度は320 x 180ピクセルに過ぎない。またユーザーが編集できるビデオもQCIF(176×144)というもともとはテレビ電話の為に作られたCIF体系か4:3のVGA体系が基準になっている。携帯電話のファイルは3GPPという規格の元で作られる。このようにPCで取り扱いが難しいという問題がああり、また本来の高い解像度を活かしきれているとは言えない。
携帯電話のムービーはDCIMフォルダ直下のSD_VIDEOというフォルダで管理される。ワンセグのデータもムービーも同じだ。DCIMフォルダなのでファイル名に規約があり、自由にファイル名を付ける事はできない。