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ビッグモーター問題が損保会社に飛び火 鈴木財務大臣は「我が目を疑う」と説明

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ネットでニュースを見ている人は「今更何を言っているんだ」と思うかもしれないのだが、ビッグモーター問題が損保会社に飛び火しそうだ。

これまでも不正が囁かれていたのだから「知らなかった」では済まされないとは思うのだが鈴木財務大臣は「本当にこんなことがあるのかと我が目を疑う状況だ」と驚いている。仮に処理を間違えれば政権の支持率にも影響が出るのだろうがトップの危機感は軒並み薄い。これくらいの偉い人になると自分で車を運転したり維持したりはしないのだから庶民感情にはあまり共感できないのかもしれない。ビッグモーターの単期経常利益は最盛期の5~6分の1となる7億7000万円台にまで落ちているという報道もある。不適切な営業実態がよくわかる数字だ。

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ワイドショーを見ていると不安になってくる。ネットでは特定損保会社の名前が飛び交っており「実は共犯関係の会社もあるのでは?」と指摘されている。ダガテレビでは損保各社は完全な被害者扱いになっていた。二つの別の世界線を見ているようだ。テレビ報道の主眼はビッグモーターの社長の悪人化におかれている。これを見ていると「ネット報道は全て幻で自分は嘘を書いているのではないか」と不安になる。

だが1日経ってあっさりと状況が覆った。金融庁が調査をしていることが分かったためである。当初東洋経済などで指摘されていた一部の会社だけでなく大手3社から出向者が出ていたそうだ。共同通信が書いている。

出向者を出していたのは損害保険ジャパンと東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険。3社は事故車両をビッグモーターに回すほど保険の契約件数が増える構図だった。ビッグモーターは車両を故意に傷つけて修理代を水増しし、保険金を過大請求していた。

ただし、この事件はそもそも損保会社がビッグモーターに対して調査を申し入れたことが発端になっている。つまり損保各社にも「不正を調査しなければならない」という人たちと「営業件数を増やしたい」という人たちが両方いたのだろう。そもそも調査は経済誌の取材がきっかけになっている。おそらく内部ではさまざまな思惑や立場の違いが錯綜しているのだろう。損保各社の「共犯」はあくまでも疑いであり、今後当局が調査するまで断定的なことは言えない。

保険は性善説で成り立っている。契約者には保険事業の全容は見えないので「うまくやってくれているだろう」と信頼するしかない。ビッグモーターが水増し請求をしても修理をした人の懐は痛まない。だが保険等級が変われば個人の保険料が上がる可能性がある。また事故に関係がない契約者の保険料が下がらないという問題も起こる。結局自動車オーナーが損をする仕組みだ。

テレビを見ていると責任者たちは軒並み「今知った」「想像を超えている」「驚いた」と言っている。だが東洋経済によると3月には不正車検による民間車検場の取り消し騒ぎがあり、5月には既に不正の報道も出ていたそうだ。ビッグモーター、保険金不正の真相究明に新展開の記事の日付は2022年12月になっている。これがきっかけで保険会社が調査が始まったと東洋経済の記者は主張している。

なんらかの事情がありテレビや大手新聞はこの話題を取り上げなかった。理由はわからないしおそらくそれが語られることは今後もないだろう。

報道は出ていた。ただ偉い人たちに伝わっていなかっただけだ。

鈴木財務大臣は今回の件で「こんなことがあるのかと我が目を疑う状況」と驚いている。この言葉自体に嘘はないと思いたいのだが、規制当局の担当職員が調査を知らなかったはずはない。現場は報告は上げておらずここまで大きく取り上げられるとも思っていなかったのかもしれない。

問題が以前から指摘されていたことを考え合わせると「報道を待って調査をする」という対応はあまりにも消極的だ。国民を保護するという行政の責任を放棄しているともいえるだろう。「国民は不愉快に思っているだろう」と配慮したようなことを言っているが国民の不安に寄り添っているとは言い難い。

ただ財務大臣を糾弾しても問題が解決するわけではない。

冷静になって、そもそもなぜ鈴木財務大臣が「我が目を疑う」ような常識はずれのことが起きたのだろうか。理由はビッグモーターの構造にある。販売、修理、車検、保険代理店を一手に引き受けている。ユーザーにとっては極めて便利な仕組みだがワンストップで不正ができてしまう。

東京海上HDの会長も「ビジネスの常識を越えることが起きている」と驚いている。雲上人の会長の常識を超えているのは確かなのかもしれない。だがおそらく修理業者に代理店事業をやらせているという慣行が原因の一つだ。つまりこの状況を作り出したのはあなたたちの部下である可能性もあるのですよということになる。

「ワンストップ」の欠陥は今回の報道にも現れている。国土交通省と金融庁がバラバラに調査をやりバラバラに記者会見をしている。NHKも二本立てで書いている。つまり国土交通省が車検不正について把握していても金融庁に連絡が行かない仕組みだ。保険は保険屋、修理は修理屋、販売は販売屋といった細分化された業態が前提になってシステムが組み立てられている可能性があるのだが、もうこれは改める時期に来ているのではないだろうか。

これを解決するためにはビッグモーターのようなワンストップサービスを禁止するか逆に規制当局の仕組みを省庁横断的なものに変えて行かなければならない。「知らなかった、驚いた、見つけ次第適正に処理する」では済まされない。車検不良で車に事故が起これば運転している人だけでなく通行人も巻き込まれる可能性がある。業界内で不適切な契約が蔓延していたとすれば割高な保険料の請求にもつながる。かといって規制の都合で便利な業態を禁止するというのでは本末転倒だ。

政治はこの問題をどう処理するのか。力量が問われている。

いずれにせよ仮にビッグモーターのようなワンストップ型のサービス(特に修理と保険代理店業務)が組み合わさった会社が他にもあれば同じような不正が可能だということになる。つまり鈴木財務大臣が「もう全て処理しました」と言った後から問題が出てくるということになりかねない。マイナンバー問題が炎上したのと同じ図式である。これは支持率に大きな影響を与えるだろう。

関係省庁には消費者保護や国民保護を第一に考えてもらいたいところだ。だが関係省庁は「どうやったら延焼を防ぐことができるのか」で頭がいっぱいのようだ。乗り物ニュースは「「事実関係の確認を進めているところなので、損保会社の責任については確定したことはいえない」(鈴木金融担当相)」との発言を紹介している。注視します、問題があれば対応しますというのはいつもの財務大臣の姿勢だ。財務大臣が積極姿勢を見せるのは増税議論だけである。

さて今回の件でもう一つわかったことがある。

今回大手損保会社の名前は出てきている。だが、どういうわけかネット損保の名前が出てきていない。情報感度の高い人ほどネット損保に流れてしまい情報感度の低い人が大手損保に「取り残されている」可能性もあるのかもしれない。そもそもネットで悪評が立っていたにも関わらずビッグモーターがビジネスを続けることができたのはラジオCMで情報感度が高くない人を相手に商売をしていたからだった。ネットにアクセスできない人ほど割高なサービスを押し付けられる可能性があるということになる。

最後になるがビッグモーターの経常利益は全盛期の1/5程度に落ち込んでいるという。各種の不正ができなくなったことや報道が増えたことが落ち込みの原因なのではないかと関係者たちは考えているようだ。「利益」が減っているので、それだけ不適切な営業に依存するような状態になっていたことがわかる。

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Comments

“ビッグモーター問題が損保会社に飛び火 鈴木財務大臣は「我が目を疑う」と説明” への2件のフィードバック

  1. カーツ大佐のアバター
    カーツ大佐

    ビッグモーターの件、スピンコントロールな気がします。木原問題を隠すための煙幕では?
    それと、個人の被害には報道しないマスメディアが損保などのスポンサーの被害には敏感に報道する。スポンサーの顔色をうかがうが、個々人の被害には報道しないマスメディアという現実を社会は意識すべきなんじゃないかしら?

    1. うーむ。コメントを承認するかどうか迷ったんですが、一応掲載承認することにしました。確かに「煙幕」なのかもしれないですが、証拠もないんですよね。どちらかというと名誉毀損などの面倒ごとを恐れてマスコミがリスクを取らないだけという気もするんですよね。

      文春の報道を見る限り、木原さんの奥さんの元旦那さんの遺族(ややこしいですね)は「テレビで広く扱ってほしい」とおっしゃっているようですね。これも証拠が出揃うと、空気が変わってマスコミが一斉に報道し始める可能性はあるのかもしれません。

      コメントありがとうございました。