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アルバイトという名前の戦争

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NHKでブラックバイトの特集をやっていた。最低賃金に近い給料で働かされるのに、正社員並の責任を負わされる。サービス残業はあるが、残業代は出ない。売れ残りの買い取りノルマがあり、売上げが落ちれば「連帯責任だ」ということで給料を引かれる。にも関わらず時間的制約がきつく、次第に大学の授業にも出られなくなるのだという。学生たちは「社会とはそういうものか」と諦めてしまい、新しく入ってきた学生にも同じような働き方を強要するのだという。
もちろん辞めてしまうことはできるのだが、辞められない。一つには経済的に困窮しており「新しいバイトがないと生活してゆけない」という事情がある。それに加えて、心情的にアルバイトに縛り付けられてしまう。自分が抜けてしまうとバイト仲間や店長たちに迷惑がかかるのが予測からだ。「仲間を捨てて逃げ出せない」というのだ。
この話を聞いて「戦中の日本のようだな」と思った。もともと上層部が状況を見誤ったまま始まった第二次世界大戦は、当初の予測通り負け続きになった。しかし撤退することはできないので、各地の部隊にしわ寄せが行った。十分な補給を受けられなかったので、戦死者の多数を占めるのが餓死者だったそうだ。戦況がさらに悪化すると「他人を犠牲にする」作戦が始まった。犠牲の代表例が沖縄(本土を守る為の捨て石にされた)と特攻隊だった。
日本のサービス業も同じような状況にあるようだ。つまり、負けかけているのだ。で、あれば何と戦争をしているのかが気になるところだ。大日本帝国軍の場合は、戦力に勝るアメリカ軍という存在があったのだが、現代日本の場合、戦う相手は同じように困窮した軍隊なのだ。複数の負けかけている軍隊が膠着戦を行っているのが日本の特徴だと言えるだろう。つまり「内戦状態」にあるわけである。
こうした状態から逃れる為には、生産性を上げなければならない。生産性を上げる為には高度に教育された学生が必要である。しかし「優秀」(だがお金がない)学生たちが単純労働に従事せざるをえないために、こうした高度な人材を育てる事ができない。故に企業にはノウハウが溜まらず、内戦状態が温存される。
「内戦とは大げさな」という方もいるかもしれない。しかし、これはやはり戦争だろう。敗戦直前の日本にも学徒動員があり、優秀な科学者になるはずだった学生たちを爆弾代わりにして敵艦に突撃させたりしていた。戦況が逼迫していた当時に「学生を無駄にしないでしっかり勉強させろ」などと言えただろうか。
なぜ「勉強させろ」と言えなかったのかといえば「負けたら大変な事になる」という意識があったからだろう。一種のパニック状態だが、パニックの最中にある人たちは、自分たちの状況がよく分からないものなのだ。同じように、現代の戦争の指揮官たちは「事業から撤退しては大変なことになる」と考えているはずだ。
なぜ、こうした状態に陥ったのだろうか。実は、これはとても簡単な問いだ。「戦争に勝つ為の技術」が10年単位で移り変わるのに、本社にいる人たちの世代交代に30年から40年かかるからだ。これは、本社側に終身雇用的な体制が残っているためだろう。こうした人たちが「撤退」し、技能を更新することができれば、技術の世代交代は進みやすくなるはずである。構造はとても簡単だが、実行は難しい。現代の日本でいったn正社員層から脱落した人は、非正規雇用の安い労働力になるしかないからだ。で、あれば他人を犠牲にしてでも生き残るしかないのである。
日本政府は「一億総活躍」を目指しているが、サービス業界で内戦が続いている状態では、これが「一億層玉砕」に変わるのは時間の問題だ。しかし、こうした状態を放置している。国から成長機会を奪うという意味では「国家的犯罪に加担している」のだといえる。