安倍晋三氏の一周忌を終えた安倍派だがいまだに後継の会長が決まらない。20日に予定されていた会合がキャンセルになった。背景には長老たちの思惑があるものと考えられている。だが結局のところこのゴタゴタは岸田総理に良いように利用されることになりそうだ。
安倍晋三氏の死去があまりにも突然だったため安倍派は後継者を決めることができなかった。この状態は1年以上続いている。20日に派閥会合が行われる予定になっていたが結局キャンセルとなった。
今回の最大の特徴は支持者たちにたいして何が起きているのかが説明されていないという点にある。「会合がキャンセルされた」という表向きの情報しか伝わってこない。熱心な「保守」の支持者を抱える安倍派だが、派閥議員たちから支持者にTwitterなどで情報発信が行われたという話は聞かない。保守系識者たちを通じての情報発信もあまり見られない。田崎史郎さんも政府の動向は伝えてくれるが今回の件にはあまり触れたくないようだ。5人とそれぞれ関わりがあり「誰か一人を」というわけにはいかないのだという。
もちろん噂レベルでは色々な話が飛び交っている。たまたま見たワイドショーでは「森さんのお気に入り」の5人と「本音では会長になりたい塩谷・下村氏の間で綱引きが行われているのだ」などと説明されていた。「一周忌のウラで、安倍派は「分裂寸前」へ…関係者が明かした、キーマンになる「大物議員」の名前」という思わせぶりなデイリー新潮の記事では5人の集団指導体制が決まると塩谷・下村氏が半隠居状態になるので抵抗しているなどと書かれている。
不確かな情報が飛び交うが、かつて安倍晋三氏を熱心に支持していた支援者たちの声を聞きふさわしい人を会長に選ぶべきだという話はない。リベラル叩きなど問題の多い人たちだったが、それでも長期安定の自民党政権を支えてきたことは疑いのない事実だ。継続的な情報発信くらいしてやってもバチは当たらないのではないかという気になる。
カナロコこと神奈川新聞は「小泉元総理の裁定に期待」という記事を書いている。「安倍派の後継騒動 小泉純一郎元首相による裁定へ期待の声 森喜朗元首相が提唱「集団指導体制」の不評が背景」というタイトルだ。
集団指導体制は森喜朗元首相の提案だと断じている。神奈川新聞はあまり森元首相を好ましく思っていないようである。小泉さんが出てきて状況を整理すればいいのにという論調だ。神奈川新聞は「小泉元総理が派閥なんかやめちまえ!」と一喝すればみんな目が覚めるのではないかと言っている。
一方で神奈川新聞は面白い指摘もしている。結局今の状態は岸田総理に白紙委任状を出しているのと同じだというのである。これはどういうことか。
五人組の一人である松野官房長官は清和会・福田系である。一方で政調会長の萩生田さんは清和会・安倍派である。つまり岸田総理が5人組の誰を重用し誰を切るかによってこの5人の力関係が変わってしまうのだ。つまり、岸田総理は党と政府の人事を通じて安倍派に介入することができる。現在は「お金を握る幹事長に萩生田さんが有力」などという噂も飛び交っているそうだ。
岸田総理は党内最大派閥である安倍派が結束しないように人事で介入を図りたい。ところが安倍派の力が相対的に落ちるとこれまで安倍晋三氏が個人的に引きつけてきた無党派の支持が安倍派から離れることになる。宏池会は増税などを通じて財政を健全化したいという派閥である。また現在の終身雇用的な雇用慣行を見直したいという姿勢も明確にしている。こうした改革は現役世代の反発を招きかねない。これを連立与党内から牽制してくれるのが公明党と安倍派清和会だった。
清和会を分断することによって結果的に無党派層や現役世代の離反を招きかねないという状態を自ら作り出している。一方で「安倍派」の幹事長を採用すると今度は宏池会系の議員たちから離反されかねない。
難しいことはさておき、これまで自民党を熱心に支えてきた無党派・現役世代は岸田総理になって何か見放されたという感覚を持っているのではないかと思う。彼らは新しい安倍派のリーダー候補から「自分達はあなたたちのことを忘れているわけではない」という声を聞きたがっているのではないかと思う。だが、現実にはそのようなメッセージが派閥から聞かれることはない。支持者の気持ちによりそった積極的な情報発信が待たれる。