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板門店から北朝鮮に逃亡したトラビス・キング二等兵はどのような人物なのか

韓国と北朝鮮の境界にある板門店はソウルからも程近く見学ツアーも実施されている。民間ツアーに参加していた一人の参加者が「ハハハハ」と笑いながら走っていった。当初、周りの人たちは冗談だと思っていたそうだがやがてそうではないことがわかった。

金正恩総書記は二等兵を外交カードとして使う可能性がある。金正恩総書記は新しいカードを手に入れ、バイデン政権は頭痛の種を抱え込んだことになる。

その後、北朝鮮は彼を反米宣伝の材料に使うことにしたようだ。アメリカは人種差別が横行する酷い国だと主張するつもりなのだろう。だがこれはフェイクニュースとは言い切れない。キング二等兵の家族が「兵役中に人種差別を経験したようだ」と証言している。アフリカ系だからバイデン政権は真剣に返還交渉をしていないのではないかという疑念に火がつけば政権への批判は避けられないだろう。

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キング二等兵は軍功による受賞歴もあるが親戚の不幸をきっかけにメンタルヘルスに問題を抱える

ロイターの英語版が事件のあらましを書いている。キング二等兵にはいくつかの軍功による受賞歴がある。キング二等兵は偵察兵だ。そして、7歳のいとことが遺伝子疾患で亡くなった後「精神的におかしくなったようだ」と親族が語っている。

キング二等兵は10月に暴行と公共物破壊の罪で500万ウォンの罰金刑を受けていた。口論をきっかけに警察が介入した。この時に警官を侮蔑しながら車のドアを蹴るなどしたようだ。車は58.4万ウォンの被害を受けたがキング二等兵は100万ウォンを支払っているため罰金刑で済んだ。

その後、米韓の取り決めに従い韓国で50日間軍事勾留された釈放された。本筋とは関係がないが曖昧なままでアメリカに送還されることが多い駐日米軍とは違った取り決めである。

CNNの情報などを合わせると、途中までは護送官がついていたようだ。だが護送官は税関をくぐることはできなかった。キング二等兵が一人で出国検査を受けた際に「パスポートがない」などと言いその場から逃走した。偵察兵である点を考えると警備を掻い潜って逃走するスキルを持っていたのではないかと思えるが断定した記述はない。

DMZ(非武装地帯)ツアーの参加は72時間前までに申し込まなければならない。だからキング二等兵は事前に逃走を計画したのではないかと言われている。ツアーは民間のものだった。

CNNはキング二等兵の逃走が外交上のカードになることを心配している。

今後キング二等兵は対米交渉のカードとして使われるだろう。アメリカに振り向いてもらうためなら核兵器さえ開発しかねない国である。飛び込んできたカードを使わないはずはない。

北朝鮮が外交的な交渉カードにキング二等兵を利用する可能性もあるがアメリカから逃げてきたキング二等兵が北朝鮮のプロパガンダに利用される可能性もある。BBCは今回の事件はバイデン政権にとって頭痛の種になるだろうと指摘している。

「アメリカは人種差別のある酷い国」と北朝鮮は主張

北朝鮮から初の公式報道

この指摘は予想外の形で成就しつつある。8月15日になって北朝鮮はキング二等兵の越境を認めた。

北朝鮮は、南北軍事境界線を越え北朝鮮に渡ったトラビス・キング二等兵が「米軍内での非人道的な処遇と人種差別」を理由に越境したと説明したことを明らかにした。国営の朝鮮中央通信(KCNA)が16日報じた。北朝鮮がこの事案について公式に認めたのは初めて。

親戚の証言から人種差別が裏打ち

仮にこれが嘘ならば問題はない。単なる北朝鮮のプロパガンダだろうで済んでしまう。だがそうとも言い切れないようだ。ロイターがABCの報道に言及している。証言しているのは母親のクロディヌ・ゲイツさんだ「この事件の前に人種差別を経験していたようだ」と言っている。

さらにおじのマイロン・ゲイツさんは兵役中にキング二等兵は人種差別にあっており正気ではなくなっていたと証言する。錯乱して電話をかけてきたので「大丈夫か?」と聞いたところ「全然大丈夫じゃない、彼らは俺を殺そうとしている」と主張したという。キング二等兵は錯乱した様子で意味がよくわからないことを叫び、その後、病院に連れて行かれたようだ。

アフリカ系だからまともに返還交渉をしてくれないのではないかという疑念が生じかねない

外交的にさまざまな難題を抱えるバイデン政権にとって北朝鮮問題の優先順位は高くなかった。トランプ政権下ではそれなりに交渉が行われていたが、バイデン政権が問題を放置した結果としてミサイル開発が進んだというのは紛れもない事実である。

マスコミが今回の件について騒げばこれまでアメリカ合衆国の国民が忘れていた北朝鮮問題にスポットライトが当たることになる。金正恩政権は新しく手に入った外交カードをひらひらとちらつかせてバイデン政権に「もっと自分達の方を見るように」要求しかねない。

このため、バイデン大統領としてはできればこの問題は「なかったこと」にしたいだろう。AFPは次のように書いている。

KCNAは「同氏は「米軍内の非人道的な扱いと人種差別に反感を抱き、朝鮮人民共和国への越境を決めたと告白した」「不平等な米社会に幻滅したと話しており、共和国もしくは第三国に亡命する意思を示している」と報じている。また、兵士に対する調査は続けられているとしている。」と主張している。

国連軍司令部は北朝鮮に接触しているようだが、ブリンケン国務長官はこの問題にきちんと対応しているように思えない。

一方、米国のアントニー・ブリンケン(Antony Blinken)国務長官は、北朝鮮に接触したが、キング2等兵の所在や状態などについて一切把握していないと話していた。

やはり「軍の中に人種差別がありアフリカ系ゆえにきちんと処遇してもらえていない」という印象を持つ人が出てきそうだ。

現在バイデン政権はキング二等兵を捕虜にするか検討している。厳密にはアメリカと北朝鮮は戦争中なので捕虜として扱う要件を満たすそうだ。だがキング二等兵が「自発的に国境を越えた」とすれば単なる亡命ということとなり捕虜とは言えなくなる。人種差別がいやで逃げたとすればそれは政治亡命だ。議論は終わっておらずキング二等兵のステータスは依然「AWOL」つまり無休暇欠勤になっているという。バイデン政権がなんとしてでもキング二等兵を救出しようという気持ちを持っていないことがわかる。

キング二等兵が逃げたことがわかった時も「アメリカ合衆国は返還交渉を行っていない」と報道されていた。意図的に越境したと強調されていることから積極的に返還交渉をしなくても大丈夫なのだという世論を作りたいのではないかと感じた。

米国務省のマット・ミラー報道官は18日、同省はまだ北朝鮮にも中国などにも接触していないと述べ、この問題は同省が主導すると説明。「我々は引き続き彼らと緊密に連携する。もしも国務省が講じられる措置があれば、当然ながらそうした措置を講じることをいとわない」とした。

今回新しい情報が出たことでバイデン政権がどう動くのか。対応に注目が集まる。

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