ざっくり解説 時々深掘り

共産党支配の深い闇 秦剛外務大臣が失踪するが中国外交には影響なし

カテゴリー:

中国の秦剛外務大臣兼国務委員が突然失踪した。3週間動静がわからないそうだ。この件について聞かれた毛寧報道官は「状況を把握していない」と述べた。外務大臣が失踪しても報道官が何も知らないと説明するというのも驚くべき話なのだがもっと驚くことがある。外交に支障が全く出ていない。外交のトップである王毅政治局員が張り切って表舞台に出てきて何事もなかったかのように外交を取り仕切っているからである。おそらくこれが今回の事件の最大の「闇」なのかもしれない。政府の要人が突然いなくなっても外交が回ってしまうのだ。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






国務委員は首相(国務院総理)を補佐する立場であり外務大臣などの役職を兼務することがあるという。つまり副総理兼外務大臣が突然消えたことになる。ただし副総理格は複数いる。

秦剛氏はもともと外務省で儀典担当の局長をしていた。習近平氏の外国訪問にも随行し目に留まったようだ。駐米大使に起用され「戦狼的な」言動が期待されたようである。その後、外務大臣に就任し三ヶ月後に国務委員にスピード出世していた。外務大臣よりも国務委員の方が格が高いことがわかる。

そんなスピード出世の秦氏だが、外務大臣は中国の外交トップではない。共産党が政府を指導する中国では共産党の政治局員である王毅氏の方が格がずっと上である。そしてこの王毅氏のニュースが増えてきた。

秦氏の不在が初めて表面化したのはASEANの外務大臣会合だった。体調不良と説明された。代わりに出席を決めたのが王毅氏だ。王毅氏はASEANの外務大臣会合でさまざまな会合をこなしている。例えばEUに関しては「戦略的パートナーシップについて立場を明確にしろ」と要求する。

林外務大臣と会合して日本の処理水に反対を表明したというニュースでは日本の処理水放出について強い姿勢で糾弾している。日本は処理水について中国に説明したいと再三申し入れているそうだが中国はこの要請を聞き入れていない。米中対立が激化しており処理水問題を外交カードとして日本に揺さぶりをかけたいのだろう。ロシアも中国とタッグを組み日本批判を強めている。

皮肉なことだが格上の代表が参加したことにより「王毅氏はASEANで精力的に外交をこなしている」などと報道されていた。確かに立場が上なので色々なことを調整なしで言えるのだろう。だが逆に「自分が直接外交をやった方が早い」と考えた可能性もある。こうなると外務大臣は単に邪魔な存在だ。

北京に戻った王毅氏はケリー特使との会談もこなしている。バイデン政権と習近平国家主席の関係は冷え切っているが、ケリー特使と王毅氏は個人的に仲がいいようだ。米中が共に環境問題に取り組むという姿勢を強調した。現在は共和党との対立という関係上中国に対して厳しい姿勢を強調するバイデン政権だが民主党は実は親中色が強い。

CNNはこの件に関して「最高指導者が全てを決める習近平国家主席の全体主義が作り出した問題である」と政治体制の問題を指摘している。つまり、習近平国家主席の関与なしにはこのようなことはできないという立場だ。だが現実に起きていることを見ると政治局員という雲の上の存在がなぜか地上に降りてきて張り切って外交を取り仕切っている様子がわかる。

一方で、日本のメディアでは「女性問題のために失脚したのではないか?」などと扱われている。台湾のメディアの引用報道のようだ。だが、中国では「要人が女性を囲うことはそれほど珍しくない」と解説している媒体もある。誰でもやっていることではあるが何か問題が起きると粛清の理由として使われる。

中国の外交に何かが起きていることは間違いがない。おそらく揉め事は政府ではなく共産党のレベルで起きている。だが詳細は何も伝わってこない。後になってうっすらと「ああ何かあったんだろうな」ということがわかる程度だ。

当初外国のプレスからこの問題について聞かれた報道官は「目を落として気まずい沈黙が流れた」と言われている。つまり政府には報告がなかったのだろう。仮に政府が準備したのであればASEAN会合の直前に突然失踪というようなことはなかったはずだ。さすがに二回目は聞かれることはわかっていた。毛寧報道官は「提供できる情報がない」とか「外務省のウェブサイトで最新情報を調べてくれ」と述べるにとどまった。政府のレベルでは説明も対処もできないと事実上認めてしまったようなものである。

この件を主導したのが習近平国家主席なのか王毅政治局員なのかはわからない。だが少なくとも限られた人たちの間で意思決定が行われているということがわかる。ロシアのウクライナ侵攻もある日突然起きたのだが専制主義の国では誰も何も予測していないのに事態が突然動くということが起こり得る。中国もそういう体制の国ということになる。意思決定は早いが判断を間違えると大混乱に陥るという体制だ。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です