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岸田政権は「自衛隊も台湾有事にぜひ参加してほしい」とのアメリカ政府の強すぎるお誘いに態度を決めかねている

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なぜか中央日報に「米紙「日本、中国が台湾を侵攻しても自衛隊投入しない」」という記事がでている。日本人は「そんなの当たり前だろう」と思うのだが、実はアメリカはかなり苛立っているようだ。これまで積極的に関与する姿勢を見せていた日本だが具体的な行動計画になると「ダンマリ」を決め込んでしまったように見えるからである。つまり日米同盟にフリーライドする狡猾な日本という風評に繋がりかねない。一方でアメリカの参戦圧力が高まれば日本の巻き込まれ不安は増大し却ってアメリカの望まない結果が生まれるだろう。安倍政権の遺産といえるが、岸田政権はまた厄介な問題を抱え込んでしまった。

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ウォール・ストリートジャーナルは購読に登録が必要だ。このため原文は読まなかった。ダイヤモンドオンラインで冒頭だけを読むことができる。「台湾有事、日本は慎重 自衛隊の参加明言せず」となっている。一年以上も計画を策定しているが、自衛隊が戦闘に加わるかについての言質が得られていないという内容だ。つまり中央日報のタイトルは少し踏み込みすぎである。

だが、現在この件について引用報道しているのは中央日報だけである。日本のメディアの引用報道は見つからなかった。普段はニューヨークタイムズ、ウォール・ストリートジャーナル、CNNなどをありがたがって引用する日本のメディアだがこの件にはあまり触れたくないようである。

むしろ、どちらかと言えば「なかったことにしたい」という気持ちの社が多いのではないかと思う。日米同盟には依存したいが台湾有事には巻き込まれたくないという読者が多いからである。また「アメリカの誘いを政権は断りきれないのではないか」という不安を持つ読者もいるだろう。いずれにせよ「もうここまで話が進んでいるのか」という驚きはある。

日本の台湾有事への巻き込まれ不安は中央日報も指摘するところだ。これがよく表れているのが新聞のアンケート調査だ。そもそも「介入すべきか」という選択肢は最初から用意されておらず「有事の際に巻き込まれる不安があるか」という聞き方になっている。そして多くの国民はなんとなく巻き込まれるのではないかと不安を感じている。

そもそも日本の現在の憲法制約では台湾有事に日本が積極参加する選択肢はない。さらに国民にも巻き込まれ不安が強く世論の支持は得られそうにない。おそらく参加するにしても国民に考える隙を与えないうちに「どさくさ紛れに」参戦にしなければならないだろう。よく引用される2023年初頭のCSISの台湾有事シミュレーションではこのシナリオが採用されている。

現在アンケートをとると「台湾有事が起こるかどうかはわからない」とする人が多い。日中で行った調査によると日本側の「わからない」は46.3%だ。だがこれを「将来日本が巻き込まれる不安があるか」と聞くと80%が不安だと答える。つまりよくわからないが漠然と不安を感じている人が多い。つまり、今の岸田政権がアメリカに対して自衛隊の参加を明言してしまうと反対する人の方が多くなってしまうのは明白だ。さらにそれがアメリカのリークで分かったとなれば世論は騒然としていただろう。

そもそも、アメリカがマスコミを通じて世論に圧力をかけてくるのはなぜなのだろう。

安倍総理はアメリカに対して積極的な協力を約束してきた。アメリカの威光を背景にして中国を牽制したいという気持ちが強かったのだろう。アメリカはこれで「日本は積極的に関与してくれる」と考えるようになった可能性が高い。あるいは「一押しすればなんとか協力してくれるのではないか」と期待をするようになったものと思われる。

ところが具体的に「何を協力してくれるのですか?」と聞くと途端に反応が鈍くなる。おそらくアメリカは「日本はやるやると言いながらも実際には行動に移さない狡猾な国だ」と考えているに違いない。これは日米同盟に日本がフリーライドしているという印象につながり日本にとっては好ましくない。アメリカの国民はただでさえ政府の高すぎる負担に怒っている。タダノリ日本は彼らの標的になりかねない。

では、岸田政権は日米同盟を維持し信頼を獲得するために積極的に関与すべきなのだろうか。仮にその答えがYesだったとしてもおそらく岸田総理にはその余力はないものと思われる。なぜかマイナカード健康保険証という問題を自ら作り出してしまい支持率は底辺である。この結果バイデン大統領に約束していた防衛費強化のための増税議論ができなくなってしまった。さらに一般のサラリーマンを増税によっていじめているという風評も立ち始めている。

現在、岸田総理は保守の気持ちをつなぎとめるために憲法改正に意欲的だ。日米同盟が絶対に勝てる同盟であればおそらく「勝ち組に乗りたい」という人が増える。だが「自衛隊を軍隊にしたら断る理由がなくなる」となればおそらく憲法改正にはかなりネガティブな印象がつくだろう。保守の憲法改正意欲は減退するだろう。

日本の保守がどれくらい改憲を支持するかは結局アメリカがどれくらい強いかにかかっている。アメリカが強ければそれに乗りたいという人が増える。逆にアメリカがそれほど強くないということになればそっとその場を離れる人が多いだろう。結局彼らは勝ち組に乗りたいだけなのである。

では実際のアメリカはどのような見込みを持っているのか。実は勝てたとしてもかなり損害が出そうなのだ。

CSISによるシミュレーションによると、日本、台湾、中国、アメリカに甚大な被害が出ることが想定されている。CNNの分析によるとアメリカは結果的に勝利する、だが、得るものが少ない(単に台湾を防衛しているだけなので)わりに被害が大きくなりそうだ。同じシミュレーションを紹介するNHKは在日米軍基地が攻撃されるとして日本の巻き込まれ不安を強調する内容になっている。

このシミュレーションでは日本は最初中立の立場を取るとしているが、やがて参戦するだろうということになっている。アメリカは被害が甚大になることがわかっているのだから、その被害を最低限にしたいと考えるだろう。つまり合衆国はシミュレーションを前提にして最初から日本が参加しているという言質をとっておきたいのだ。前もって想定を共有しその想定を満たすために行動するというのはいかにもアメリカ的である。

だがそれが日本人の巻き込まれ不安を刺激するところまでは頭が回っていない。おそらく台湾有事の現実性が増せばこのシミュレーションは至る所で引用されるようになる。その際に現状維持バイアスの強い高齢の自民党支持者は「今までのやり方でうまく機能してきたのになぜ今変えなければならないのだろう?」と考え意思決定を先延ばしにしようとするはずだ。

岸田政権には政治的余力がなくなっていて、これ以上国内的な問題を抱えたくない。そこで思い切った約束ができないのかもしれない。今回は「言質を与えていない」というリークだったからまだよかった。仮にこれが「現地を与えてしまった」という報道であれば、おそらく日本のメディアは大騒ぎになっていたであろう。国民になんの相談もなく巻き込まれリスクを増大させてしまったことになるからである。

自民党・公明党政権の戦略は権限だけを増やした上で態度を曖昧にしどう行動するのが得なのかをその場その場で決めてゆくというものなのだろう。この戦略が徐々に行き詰まりを見せているのかもしれない。アメリカは具体的なシミュレーションをもとに「態度を早く決めてくれ」と要求しているからだ。

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