「ビッグモーターで不正が起きているらしい」ということはネットニュースで見て知っていた。損保業界全体で水増し請求が見逃されていたとなれば社会的な影響は極めて大きい。にもかかわらず全くワイドショーは積極的には取り上げない。これにはかなりモヤモヤする。昭和の感覚が残っておりテレビで取り上げられないと重大事件になったような気がしないのである。
改めて事件について調べ「これはテレビでは扱わえないだろう」とは思った。ビッグモーターだけでなく損保ジャパンが関係している可能性があるそうだ。どちらもテレビ局にとっては大きな収入源なのだ。さらに最近のテレビはお金のかかる調査報道をやらない。ビッグモータには広報部門がなく取材先がないのもあまり取り上げられない原因のようだ。
テレビが「情弱ビジネス」に加担しジャーナリズムをおろそかにするのは経営上仕方がないのかもしれない。だがこれが繰り返されればテレビは情報収集能力に長けたネット世代からは完全に見放されるだろうと感じた。
ビッグモーターは何かやっているらしいということはネットを中心にかなり知られていたらしい。だが、非上場企業のために株主に対して説明責任を果たす必要がない。できるだけ記者会見などを開かないという「戦略」を取ったため騒ぎにならなかった。そもそも広報部門がなく取材のウラドリができなかったのではないかと指摘する人もいる。
だがテレビで取り上げられないとなんとなく大きな事件になった気がしないという「昭和的な」感覚も残っている。これが個人的に感じるモヤモヤなんだろうなと思った。
ビッグモーターという名前はよく聞く。山口県岩国市で創業されたが積極的な買収戦略により規模を拡大した。テレビの広告が有名だが実際にはFMラジオの比重が大きいという。現在の本社は六本木の高層ビルである。業績の急拡大ぶりがよくわかる。
今回かろうじてテレビでも取り上げられるようになったのは保険の会社が「これは何か変だ」と気がついたからであった。そこでビッグモーターは保険会社が騒いでいる件だけをうっすら説明した。調査報告書が出て初めて「どうやら長い間不正が続いていて多くの従業員が不正に加担していた」ということがわかったようだ。つまり独自取材しなくても「引用」ができるマテリアルが出たことでようやくニュース流通に乗るようになったことになる。調査報告書では約4人に1名が加担していたということになっている。
当初保険会社は被害者であるように思われた。東京海上の担当者は「契約者に対応しビッグモーターに保険金の返還を求める」としている。
ところが次第に「損保ジャパンは被害者ではないかもしれない」という話が出てきた。東洋経済が「黙認していた」可能性を指摘している。板金部門に出向者が5人いて重要な会議にも参加していたのだという。東洋経済だけはなぜか「足で稼ぐ」取材をしている。記者クラブ依存の大手メディアが週刊誌に特ダネを持ってゆかれるのと同じ構造である。
ビッグモーターの営業部門やPR部門にノルマが乗るのはわかる。だが板金部門にノルマが課せられても営業成績を上げることはできない。唯一彼らにできるのは「問題を作り出す」ことだけだ。共同通信の調べでは素人同然の修理工や外国人労働者が作業に携わり1台あたり14万円のノルマが課せられていたという。テレビやラジオが熱心に広告していたのは修理工場ではなく組織的な車破壊工場だったということになるが、今のところ事件化はされていないので「故意」ではないことになっている。警察が摘発するまでニュースにならないという事情もあるのかもしれない。
修理ノルマ、1台当たり14万円 ビッグモーター不正で調査報告書
この異常な状態を東京海上日動火災と三井住友海上は問題視し取り扱いを停止した。結果的に損保ジャパンの独占状態になる。つまり業界第三位の損保ジャパンにとっても営業活動になっていた可能性がある。
ところが話はこれだけでは終わらない。もう一つの利害関係者がある。それはテレビ・ラジオ局である。テレビやラジオに大量に広告を出して顧客を集めてビッグモーターに集客する。そこでありもしない傷を「見つけ」て顧客に課題請求する。つまりテレビ、ラジオ、ビッグモーター、保険会社は「問題を作り出す」ことでWin-Winの関係を築いてきた。損をするのは自動車オーナーだ。こんな「ビジネス」が横行すれば社会的な信頼は大きく損なわれるだろう。
すでに5月の時点でTwitterなどでは度々問題になっていたなどと書かれている。
テレビ局やラジオ局が不正を黙認していたとまではいうつもりはない。だが実は噂はかねてよりあった。仮にどこかの時点で「社会正義を扱っている以上このような会社の広告には問題があるのでは?」というコンプライアンス機能が働いていれば被害者が広がらなかった可能性が高いのだ。
テレビジャーナリズムは社会正義を気取る。だが実際には悪者を作りそれを執拗に攻撃することで視聴者の他罰感情を刺激している。その目標はあたかも問題が解決したかのように錯覚させると同時に広告枠を多く売ることである。今回、仮にこの問題について騒げば自分達も加害者だったと認めることになってしまうという気持ちが働いているのだとすれば考え直した方がいい。
テレビ視聴者は既に「情報リテラシーに弱い人たち」なので、倫理的でないビジネスのターゲットになりやすい。そしてCMに依存しているテレビはこうした情弱ビジネスの不正を追求しにくいという構図ができはじめている。テレビのジャーナリズム機能にとってはネガティブな要因と言える。
ただこのようなことが横行すればおそらくテレビの広告はネット世代からは信頼されなくなるだろう。
損害保険では大手損保4社が価格調整をしていた疑いも持たれている。業界のコンプライアンスはかなり厳しい状態にあるようだ。こちらは金融庁が報告を求めたことで小さくニュースになった。
テレビ局がCM取り扱いのコンプライアンスをおろそかにし調査報道をやらなくなると「情弱ビジネス」をやっている業界がテレビCMを大量に流して簡単に泡銭を稼いでやろうと考えるようになる。だが、結果的に悪行はネットによって暴かれる。するとネットニュースを見ている人はますます「テレビは信頼できない」と考えるようになるだろう。テレビ広告が先細るとテレビ局はコンプライアンス基準を緩めて広告を集めてくる必要が出る。テレビは既にそのようなあまりよくない循環に入っているのかもしれない。