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なんとも不思議なオランダのルッテ政権崩壊。争点は優しすぎる移民政策の是非。

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またしてもオランダのルッテ連立内閣が崩壊した。11月に総選挙が行われる。崩壊の理由は移民政策だった。現実的な対応を求めるルッテ氏とお花畑的な左派の間で折り合いがつかなかった。

オランダの政治事情は極めて不思議だ。特に争点らしき争点がなく「移民にどの程度優しくしてあげるのか」が唯一の争点になっている。それをめぐって同じような議論が延々と展開され「やっぱり折り合いませんでしたね」として総選挙になる。当人たちにはそれなりの切迫感があるのだろうが、経済的に余裕のある国ならではののんびりとした政治といえるのかもしれない。

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オランダの議会はスターテン・ヘネラールという。二つの議会から成り立つ。第一院は連邦からの代表者が集まり「上院・元老院」にあたる。第二院は比例代表で直接国民が選出する。定数は150だが最大与党である自由民主国民党の議席数は34にすぎない。今回問題になっているのはこの第二院なのだそうだ。

現在の首班はマルク・ルッテ氏だ。生まれは1967年なので50代の比較的若い首相といえる。2010年から首相の座にある。政治家になる前はユニリーバで人事部長などを経験していた。つまり実業界出身の実務的な首相である。この実務家首相がお花畑的な左派と連立政権を組んでいる。

オランダといえば「オランダ病」という言葉が思い浮かぶ。天然ガス田が発見され経済が潤う。経済が強くなりすぎてしまいギルダー高が起きて国民生活を圧迫した。オランダはこの危機を労働改革で乗り切った。パートタイムとフルタイムの均等待遇が整備されて短い時間働いても十分な収入が得られるようになった。現在ユーロ体制の「中央」にいるオランダの貨幣価値は実力の割に低く抑えられる。つまりギルダーの問題は解消されている。

オランダはドイツと違いエネルギーに余裕がある。フローニンゲンガス田の閉鎖は決めたが「いざという時には再開できる」余地を残したという。原発の建設も行うようだ。おそらく真面目な国民性なのだろう。洋上風力発電などをコツコツと積み重ね再生可能エネルギーのシェアが40%にまでなっている。

さらにフランスと違って旧植民地住民に関する不寛容があまり目立たない。フランスでは度々経済格差と差別感情による暴動が起きる。だが、オランダにはそれもない。

堅実で寛容な国民性に支えられている上にユーロ圏の中央に位置し通貨恩恵も受けられる。さらに天然ガス資源も持っている。全く問題がないように見えるオランダでなぜ内閣を組織するのが難しいのか。つまりオランダ人は何が不満なのか。

DWの記事が見つかった。2017年のものなので、第3次内閣を作る前段階の記事である。

経済的な問題の少ないオランダでは経済政策に大きな違いはない。唯一の例外が「移民をどう扱うか」だ。企業出身のルッテ氏は現実的な対応を求める。一方で左派の人たちの中には「北アフリカの国々を豊かにすることで移民の流れを根本的に止めるべきだ」という意見を持っている人たちもいるそうだ。これは日本の左派が「人間がいがみ合うから戦争が起こる」といって憲法9条の改定に反対するのに似ている。今回の協議でも現実的な対応を求める自由民主国民党のルッテ氏に対して民主66とキリスト教連合が「難民と家族に安全な避難先を提供すべきだ」と譲らなかったそうである。

対立が全く解決されていない。

ルッテ首相は単独で政権を担うことができない。選択肢は二つある。一つはお花畑的な左派の人たちと手を組むことでもう1つは極右と協力することだ。

幸せの国オランダにも当然不満を持つ人たちがいる。こうした人たちに人気なのが「自由党」のヘルト・ウィルダース氏である。極右と表現されることが多い。移民排斥を優先テーマに掲げて支持を呼びかけている。

ウィルダース氏は典型的な「ネット右翼」系の政治家であるが元々は最大与党である自由民主国民党の議員だったそうだ。主な選挙運動の舞台はTwitterで従来型の選挙運動はほとんどしないという。2017年の記事には「党員は1名だけ」と書かれている。ハフポストは彼の選挙運動の目的を「差別的な考えを撒き散らすことだ」と断定している。

極右には一定の支持があるが「政権に入れてもいい」という人は少数派だ。つまり総選挙を繰り返しても結局左派と組む可能性が高い。それでもサイレントマジョリティは無視できない。今回の報道では「ヘルト・ウィルダース氏率いる自由党(PVV)など極右政党の台頭により、ルッテ氏は移民問題で圧力を受けている。」などと書かれている。

政権が崩壊したというといかにも国民生活が大混乱しているように見えるのだが、オランダはそうではない。経済が好調なために経済的な争点がなく「移民に対して寛容であるべきか現実的に対処すべきか」が唯一の争点になっている。一定数差別的な意識を持つサイレントマジョリティはいるが爆発的に大きいわけでもない。極右ウィルダース氏の支持は全体の10%程度である。ウィルダース氏は内閣の外から「ワイワイ騒いでいる」印象なのだがこれも言論の自由の一つというわけなのだろう。

おそらく11月に総選挙をやっても選挙結果はそれほど違ったものにならない。そのため同じようなメンツで「誰が連立協議に参加するのか」ということをのんびりと話し合い長い時間をかけて次の内閣を組織することになるのだろう。その間、ルッテ首相は暫定首相として限定的な権限で国家運営を行うことになるようだ。

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