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安倍晋三氏の一周忌 後継者候補たちは支持者たちが何を期待していたのかを掴みかねている

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7月8日で一周忌を迎える安倍派だが後継者が決まらない。現在は5人の有力候補がいるそうだが集団指導体制を希望しているという。岸田総理もまた「安倍氏の意志を受け継ぐ」と言っている。「意志を受け継ぎたい」人たちは多いのだが「この人」という人がいない。そんな状態である。原因はどこにあるのか?と考えた。おそらく安倍晋三さんの支持者たちも「自分たちが何を期待していたのか」が言語化できていないのではないかと思う。

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安倍晋三氏が亡くなってから7月8日で一周忌になるそうである。増上寺で一周忌の法要が行われるほか櫻井よしこさんらが呼びかけた追悼集会が行われるそうだ。奈良市は式典を行わず献花台の側面支援にとどめるという。このように死を悼む人よりは安倍氏の支援者を取り込みたいという人や支援を維持したいと目論む人が多い。

これは岸田総理も同じである。盛んに「遺志を引き継ぐ」と言っている。だが保守と言われている人たちが岸田総理を熱心に支援しているという話は聞かない。おそらく何かが違っているのだろう。

多くの人が安倍晋三氏の何かが無党派層を惹きつけているということには気がついている。だが、それが何だったのかは掴みかねているのかもしれない。

生きている時であれば安倍晋三氏におもねり「あなただけに遺産を相続してもらいますよ」と言ってもらえた可能性はある。だが、安倍さんはもういない。それでも「遺産狙い」のアピール合戦は続いている。

特に後継者5人衆はこの1年間様々な情報発信をしてきた。だが、その試みは全て不発に終わった。このため5人の候補者たちは「会長を決めない集団指導体制」を希望し、お互いに睨み合っている。

派閥内部には「福田系と安倍系」という対立構造があるそうだ。

清和会の源流は福田赳夫氏である。もともとは自由放任主義を否定する経済政策がその特徴だった。現在の安倍派として思い浮かぶのは「トリクルダウンセオリー」や「上潮路線」などの積極財政政策だろうが元々の福田氏の思想はそれとは違っている。「計画経済」的な色彩が強かった。

一方で安全保障面ではタカ派的な性格で知られる。憲法が掲げる平和主義を修正して日米同盟を基軸として「戦争ができる普通の国」にしたいという主張が目立つ。

自民党安倍派(清和政策研究会)は15日、憲法改正への提言をまとめた。「戦力不保持」を定める9条2項を削除して自衛隊を「軍隊」と位置づけることが必要だと主張した。

これはもともとの岸信介氏の主張を汲んだものだ。岸氏の構想は日米同盟を双務的なものにしたうえで憲法を対応させるというものだった。だが日米同盟の改訂が国民の反発を生み憲法改正ができないままで下野してしまう。これがいまだに清和会の宿願として残っている。

現在の清和会・安倍派には「福田系2名(高木・松野)」と「安倍系3名(世耕、西村、萩生田)」がいるそうだ。厳密に言えば二つの違ったイデオロギーが共存しているのだ。だがこのどちらも無党派層を惹きつける決め手ではないのだろう。だから決定的な後継者が出てこない。

この「分断」とカリスマの不在は岸田総理にいいように利用された。2012年総裁選では安倍派から二人の総裁候補が出た。それが町村さんと安倍さんだった。この時に松野さんは町村さんを支援したそうである。岸田総理は「その松野さん」を官房長官に起用したのだ。安倍晋三氏はこれが気に入らなかったようだと読売新聞が書いている。読売新聞は断層を「ミシン目」と表現する。

岸田首相が仕掛けた最大派閥の分断 人事と歴史から見えてくる狙いとは(読売)

岸田総理は党内派閥を分断することで宏池会系の政治を有利に進めようとしているのだろう。さらに岸田総理は安倍派を分断しつつ自分がその支持者たちを簒奪する方向に動いている。だから憲法改正を全面に押し出し「遺志を受け継ぐ」などと言っている。

安倍派が一枚岩ではないのだから、岸田総理の手法はうまくゆきそうである。だが、実際には機能していない。党内の安倍派を抑えることができても「安倍晋三さんの遺産」がそこにはないからだ。つまり受け継ぐべき遺産がもうどこにもないということになる。

では、支援者は何を期待して安倍晋三さんを応援していたのか。おそらく安倍さんの一貫したメッセージは「日本は変わらなくてもいい」というものだったのではないか。イデオロギーというより「慰撫」に近い。

バブルが崩壊したあと日本社会は再成長に向けてもがき続けていた。だが、その試みが成功することはなかった。民主党の政権交代も失敗した。どうせ日本は変われない。

そこで安倍晋三氏は「日本は何もしなくても大丈夫だ」とメッセージを変えて問題を引き伸ばす作戦に出た。正確には「あなたたちは何もしなくていい。自分たちに任せてくれれば大丈夫だ」というわけだ。大勢の人たちがこれを救済だと思った。だから安倍政権は長期化した。

岸田総理はこれを誤認している。おそらく安倍晋三氏の支援者たちは「タカ派」だと勘違いしており勇ましいメッセージを利用すれば「様々な改革」がやりやすくなると考えているのだろう。

実際には「変われる自信がない」から表面上勇ましい事を言っているだけなのではないかと思う。だから、変えるために勇ましいメッセージを利用することなどできない。実際の岸田政権は健康保険証すら満足に刷新できない。そもそも有権者は変わりたくないのだから、憲法や国柄の議論などできるはずもないのだ。

おそらく岸田総理だけでなく後継者たちもこの辺りを誤認しているのだろう。自称は「保守」だが「変われない」という無力感を「現状の素晴らしさを守る」と言い換えているだけである。だが彼らも薄々このままではまずいとも思っている。だから「このままで十分だ、あなたたちは十分強いのだ」というメッセージに意味があるということになる。

おそらくこのメッセージは別の政党に利用されるだろう。変革を押し付ける政党は徹底的に忌避される一方で「あなたたちは変わらなくても大丈夫だ」とか「今問題が起きているのは政治家や官僚たちが無能だからだ」と主張する政党が支持を伸ばしている。

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