ざっくり解説 時々深掘り

バイデン大統領の「アルカイダはもういない」にタリバンが大喜び

Xで投稿をシェア

時事通信がタリバンがバイデン大統領の発言を歓迎していると書いている。記事が短いのでよく意味がわからない。調べてみると「アメリカはもうアフガニスタンに興味はない」ので結果的にタリバンの支配を容認していると解釈できるということのようだ。

どういうことなのか。調べてみた。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






時事通信の記事は「アルカイダ「存在しない」? 米大統領発言、タリバン歓迎―アフガン」というものである。バイデン大統領とタリバンの関係が興味深いが「存在しない?」という疑問符もなぜか意味深である。

経緯を整理してゆこう。

トランプ大統領からアフガニスタンを継承した時点で既にアメリカのアフガニスタン統治は失敗していた。しかし、バイデン大統領の稚拙な撤退作戦のためにアフガニスタンの政権はあっさりと崩壊してしまう。つまりこれまでのアメリカの投資は全てが無駄になった。この時の経緯があり、プーチン大統領が「ウクライナ侵攻は今ならいける」と判断したのではとも言われるほどの外交惨事だった。

撤退後、バイデン政権はアルカイダのザワヒリ容疑者を殺害した。この時バイデン大統領は「正義は果たされた」とコメントしている。

実はこの時にバイデン氏は次のような発言をしている。

アメリカがアフガニスタンに駐留していたのはアルカイダに復讐をするためだった。アルカイダはもういないのだからアメリカは当初の目的を達成した。だから自分は正しかった。

だが「アルカイダはいなくなった」の部分は後にホワイトハウスが訂正しバイデン大統領も発言を修正しているという。CNNがバイデン大統領の発言を検証している。

ここで一つわかることがある。アメリカはこれまでアフガニスタンに駐留しているのは「民主主義をアフガニスタンに根付かせるためだ」と説明してきた。しかしどういうわけかアフガニスタン民主主義は根付かなかった。いずれにせよこれは単なる「建前」であった。バイデン大統領の本音はアルカイダに復讐することだったのである。

本音では国民感情の満足を優先させながらも建前としては「民主主義擁護」を掲げるのはアメリカ合衆国の外交戦術だ。バイデン政権においてはこの本音と建前の使い分けがどういうわけかあまりうまくいっていない。

今回は一度ホワイトハウスによって否定されていた自分の虚偽の主張を蒸し返したことになる。

ではそもそもこの発言はどのような文脈で出てきたものなのか。たまたま読んだFrance24に記述がある。

金曜日に最高裁判所がバイデン大統領の学生ローン減免は無効であるという判決を出した。このところ最高裁判所はさまざまな判決を繰り出しバイデン政権を困惑させている。記者たちは「バイデンさん、あなたの判断は間違っていたんですよね」と盛んに質問する。

この流れで「アフガニスタン」について聞いた人がいた。バイデン氏は「結果的にアルカイダはいなくなったのだから自分の判断は間違っていなかった」と主張したということになっている。つまり「自分がやっていることは正しかった」という最後のコメントを導き出すために過去の発言を繰り返したということになる。France24はこれをリードにしている。

「新聞読めば?俺は正しかった」と主張は結ばれている。

Biden was leaving a press conference on Friday on the US Supreme Court’s decision to block his student debt relief program when a reporter asked if he admitted to mistakes during the withdrawal from Afghanistan in 2021.

“No, no. All the evidence is coming back,” he replied, according to a White House transcript.

“Do you remember what I said about Afghanistan? I said al Qaeda would not be there. I said it wouldn’t be there. I said we’d get help from the Taliban. What’s happening now? What’s going on? Read your press. I was right.

アメリカの「文化戦争」と外交についての関係はよくわからないという人が多いだろう。だが、アメリカではこの2つは結局「バイデン大統領の政策は正しかったのかそうでないのか」という点に集約され1つの問題として語られる。

この問題を語る時に「バイデン大統領は高齢だからボケているのだろう」と説明されることが多い。だが実際にはさまざまな問題が内外に蓄積し複雑さに耐えきれなくなっているとみなした方がわかりやすい。バイデン大統領は問題を単純化したがっており、過去にホワイトハウスが自分の発言を修正したという点については思いが至らなくなっている。

しかしこうした単純化は時に大きな問題を引き起こす。

バイデン大統領は「中国を封じ込めるために日本と韓国が協力しました」という絵を国民に説明したい。そのために自分が一生懸命働きかけたと言いたいのだ。だが日本では「アメリカが防衛費増額を押し付けた」と捉えられかねない。財源の議論はまだ行われておらずマイナンバーカード問題も炎上しかけているのだから日本はこれ以上火種を抱えたくない。

日本政府からクレームが入りバイデン大統領はこれを否定するわけだが、この時に「韓国との修好を働きかけたのだった」といってしまう。そもそも説得した相手が岸田「大統領」なのか尹錫悦大統領なのかをバイデン大統領が理解しているかは不明だし、日本は「韓国が勝手に歩み寄ってきたから応じてあげた」という立場である。日本は諦め気味でこの発言について触れていない。

ウクライナ情勢では「ゼレンスキー大統領はクリミアまで迫った時点で和平交渉を始める」などとCIA長官が勝手に発言した。つまりクリミア問題は「戦後マターだ」というのである。だがこの発言もまたゼレンスキー大統領を苛立たせているようだ。CNNなどで発言を否定していて日本でもニュースになっている。

内政の緊張がアメリカの外交政策に徐々に影を落とし始めているのだが、日本の外交と安全保障はアメリカに依存している。このため日本政府も国民もこの状況に粛々と対応して慣れてゆくしかない。

岸田総理は外務大臣時代の経験から「アメリカの政策に乗っておいた方がいい」と判断し防衛増税に取り組む決意をしたのだろう。だが政治家としての「カン」はあまり鋭くなかったのではないかと思う。とにかく発言の不安定さが増しており、それを周りのスタッフが吸収できなくなっている。日米同盟の不安定さに国民が動揺すればおそらくそれは政権の土台を大きく揺るがすだろう。大きな体制変革を望まない日本人はかなり判断に困ることになるはずである。

少なくとも「日米同盟という大きな安定を優先して防衛増税という小さな変化を受け入れてくれ」というメッセージは成り立たなくなる。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

Xで投稿をシェア


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です