おそらく日曜討論なのだろうか。河野太郎大臣がNHKの番組で「マイナンバーカードという名前は変えたほうがいい」と発言したそうだ。共同通信などが伝えているが案の定ヤフーニュースのコメントは荒れていた。マイナカードに関しては何を言ってもいいという空気になっているようだ。河野太郎さんの言動が「逆広報」になっているわけで、マイナンバーカードの名前よりも河野太郎大臣を変えたほうがいいなと感じた。このプロジェクトには広報担当者もいない。つまり、プロマネとPRを分担したほうがいいのではないかと思う。既に「炎上」しているプロジェクトのプロマネがPRも同時にやろうとするから混乱するのだ。
炎上している理由はおそらく感情的なものだ。コロナワクチンの騒ぎなどで「河野太郎大臣はなんとなく口先だけ」という印象が定着しているのかもしれない。これは名前が先行して炎上した小泉進次郎氏に似ている。小泉氏は環境大臣の経験から学び「裏方で政治家としての調整能力をつける」方向に方針を変えたようだ。
さらにこの案件は既に炎上している。炎上を鎮火しつつプロジェクトの広報まで担当するなどエース級の人材でも不可能だし、河野さんはエース級ではない。
そもそも名前を変えても問題は解決しない。もともとマイナンバーは国民総背番号制と言われていた。今では単なる悪口のように聞こえるが、実は最初にこの言葉を使い始めたの制度を普及させたい人たちだった。のちに社会党などが「囚人に番号をつけるのと同じような制度である」という印象づけを行い制度に対してすっかりネガティブな印象がついた。
河野さんはマイナンバーもネガティブな印象がつきつつあるため名前を変えれば騒ぎが収まるのではないかと考えているのだろう。「言霊の国」ならではの発想だが、これが「ごまかしてでも制度を押し付けたいのか?」という反発につながっている。
だがこれらは所詮感情論に過ぎない。したがって河野太郎大臣を罷免するような材料にはならない。
高野さんはなぜマイナンバーカードという名前を変えたいのか。実は健康保険証機能にマイナンバーは使われないから実態を表していないのだという説明になっている。こより詳細に説明している人がいる。色々と書いているが「マイナンバーを使う用途は限られている」という。これは確かにその通りだ。
この人は問題の核心に迫っている。だが「河野太郎氏を援護しなければならない」という結論がありきの文章のために結果を大きく外している。
このシステムが迷走し始めた時、日経新聞が盛んに「住基ネット判決のトラウマ」について書いていた。この最高裁判所の判決を素直に捉えるならば、すべてのシステムにはそれぞれ個別の番号を振らなければならなくなる。これを手作業で行うために「ヒューマンエラー」が起きるのだから日経新聞は「一元管理をしろ」と言っている。つまり健康保険証の番号もマイナンバーで管理しろと言っている。
事務の間違いを減らすためには、むしろマイナンバーカードをマイナンバーを軸にしたカードにしろと言っていることになる。山口さんの言い方に直すと「マイナンバーカードをマイナンバーのカードとして使え」という提案だ。
YouTubeを見ることができる人は「相次ぐ“マイナ”トラブル 複雑怪奇な政府のデータ管理 真のデジタル化は遠く…【日経プラス9】(2023年5月26日)」を見ると良い。この辺りのことがもっとよくわかる。
日経新聞の議論を読んだ後で河野太郎氏や河野氏を応援している山口氏の言い分をもう一度読むと「ああ矛盾しているな」と気がつく人とそうでない人が出てくるはずである。気が付いた人はシステムアナリストとしての適性がある。
実は我々は「巨大なデータベース」の話をしている。矛盾に気がついた人はシステムに着目し、そうでない人はカードという形状にこだわっている。
データベースにはインデックスやキーと呼ばれるものがある。そしてデータベースの運用を円滑にするためにはインデックスやキーの構成はシンプルなものでなけれならない。仮になんらかの政治的な都合でシンプルにできないなら運用でカバーする必要がある。おそらくシステムの普及は遅れるだろうがそれは仕方がない。
クライアントのニーズや制約を開発側が変えることはできないことは多い。クライアントを説得するか要求を聞いてその分費用をチャージするかはプロジェクトマネージャーが決めればいい。
おそらく日経新聞は早くからこのキーの問題に気がついている。日経新聞が気がついているとうことは専門家もだいたいこの辺りは「もう議論が済んだこと」だと思っているはずだ。だが河野氏や山口氏の発言を見ると「まだわかっていない人がいる」ことになる。
河野太郎氏はITが得意な政治家ということになっている。だがその中身を見るとせいぜいTwitterの使い方が上手とかYouTubeで話がうまいと言った程度だ。それでも高齢者が多い自民党の政治家の中では「アルファ・ユーザー」扱いなのだろう。
残念ながら「炎上しかかった(あるいは炎上している)」プロジェクト管理をするためにはユーザーレベルの知識では困る。データベースの運用のやりやすさはキーやインデックスのデザインによって決まるということを理解している必要があるし、制限があるなら制限に合わせて運用を手厚くやらなければならない。現実問題の対処と同時に関係者を説得しなければならない。
おそらくどんな「エース級人材」でも火消しをしながら広報までやるのは無理だ。どうしても「失敗を弁護している」と見られてしまう。
さらに残念ながら「ブロック太郎」というあだ名を持つ河野さんには「最も重要な資質」がない。それが謙虚さだ。
適性のある人は訓練を受けなくてもこの辺りのことを理解できる。だが適性がなくても「自分は学ぶ必要がある」と謙虚に向き合う人であればおそらく学習はそれほど難しくないだろう。だがユーザーレベルで「自分は得意だ」と考えている素人は怖い。
こういう人がデスマーチプロジェクトに入ると思いつきのアイディアを繰り出して現場が混乱する。自分は知っているという自意識があるため問題を整理して理解しようとしない。さらに自分が理解できないことを専門家が指摘すると怒り出したりする。
8月か9月に内閣改造をやるという話がでているようなのだが、政権が延命したいなら早めに大臣を交代させたほうがいいだろう。河野さんにはおそらくもっとふさわしい役割(例えば自民党広報のIT担当など)があるのではないだろうか。広報であれば「ユーザーに伝えるのにここがわからない」などと言える。
実は「広報活動」も足りていない。データベースとカードの区別がついていない人が大勢いる。この人たちはカードを返納すれば情報漏洩が止まると信じており実際に返納運動が起きているそうだ。増えていると言っても「少なくとも318件」程度なのだが「急増」という見出しを見ると既に何万件も返納運動が起きているような印象を持つ。これは早く何とかしたほうがいい。
仮に岸田総理がマイナンバーカードと運命を共にして落ちてゆく覚悟をしたのならこのままでも構わないのだが「マイナンバーカードの健康保険証は中止か延期」と言っている人が73%おり、岸田総理の支持率もじわじわと下がっている。既に遅いとは思うのだが決断するなら早めにしたほうがいい。