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第三次世界大戦よりもキツい「浸潤する戦争」シナリオ

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ウクライナの戦争が次第に周囲に拡散しつつある。「このままでは第三次世界大戦になるのでは?:と考える人も多いだろう。だが、そうはならないかもしれない。代わりに考えられるのが「構造化されていないの戦争」のシナリオだ。どちらかといえば「癌細胞」のように周囲の組織に染み込んでゆくという混乱モデルである。これがSNSを通じて個人の価値観のレベルまで浸潤する。浸潤は既に始まっており、その範囲は結構広い。

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ワグネルがモスクワに進軍して一週間が経った。実にさまざまな分析が出ている。つまり、ワグネルの狙いなんだったのかがよくわかっていない。

ただ一つわかっていることがある。国家反乱を企てたプリゴジン氏は今も自由であり違法な存在だとされてきたワグネルはその存在が公認されてしまった。

いずれにせよロシアでは「善悪」によって人々が処遇されなくなり「メリット・デメリット」で測られるようになっている。中央権威が善悪を統治できなくなっていることから「プーチン時代の終わりの始まり」などとも評価される。

ではプーチン時代の終わりは戦争の終わりを意味するのか。TBS報道特集は「ソ連崩壊時の故事にならい集団指導体制」に移るのではないか?との観測を伝える。当初「プーチンがいなくなればこの戦争は終わるのでは?」と言われてきたが、誰が責任を取っているのかよくわからない体制に移行し戦争そのものはダラダラと続くということになる。

“終わりの始まり”か…ロシア国内で語られる“ポスト・プーチン”のシナリオとは【報道特集】

プーチン大統領体制を弱体化した体に例えるとわかりやすい。

必要悪とされたワグネルをプーチン体制は潰すことができなかった。結果的にアフリカの活動が公認されベラルーシにも広がっている。免疫をすり抜けたワグネルとプリゴジン氏は「法律の上にある存在」ということになり癌細胞のように広がる。ベラルーシのルカシェンコ大統領は「ワグネルを利用している」つもりなのだろうが取り憑かれてしまったと言って良いのかもしれない。プーチン大統領にも駆逐できなかった相手なのだ。

熱に浮かされたベラルーシのルカシェンコ大統領は「核兵器は自分達が管理する」と言い出した。協定ではロシアが管理することになっているため、今時点ではこれはたんなる「嘘」である。だが、ロシア体制が流動化しロシア国内の核を誰が管理するかが曖昧になった時におそらくこれは嘘ではなくなるだろう。プリゴジン氏に「ベラルーシの兵士をトレーニングしてほしい」という依頼もしている。核と民間軍事会社が隣の組織に「転移した」ことになる。

周辺国は当然警戒感を露わにする。ポーランドが「自分達にも核をよこせ」と言い出している。アメリカ合衆国と交渉するようだが今後どのようなカードを切ってくるのかに注目が集まる。既にアメリカは韓国に核シェアを認めているがアメリカと韓国の言い分が異なっている。今回のニュースで驚いたのだが、調べてみると「ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、トルコ」には既に配備されているそうだ。覇権維持に同盟国の協力が必要なアメリカは自前の核が独占できなくなっている。

配備されると今度は「自分達が自由に使いたい」と言い出すものなのだ。

バイデン大統領は選挙キャンペーンで頭がいっぱいになっており広島サミット近辺に誰に何を言ったのかよくわからなくなっているようだ。サミットでは「岸田大統領」と言い間違え「私が防衛費増額を岸田氏に働きかけた」とか「韓国と仲良くするように言った」などとの不安定な発言を繰り返している。

アメリカ合衆国ではトランプ大統領が仕込んだ爆弾が爆発し始めた。最高裁判所の判事が次々とバイデン大統領の政策を潰している。司法と行政府が国の価値観と正義を巡って対立するという状態を「文化戦争」と呼ぶ人もいる。おそらく大統領選挙が終わるまでアメリカ合衆国はいかなる戦争や和平交渉に当事国として関与できないだろう。この文化戦争ですら選挙キャンペーンの一部に組み込まれようしている。暴力さえ付随しなければ全て「合法」なのである。

一方で文化戦争が暴力に転移した国もある。フランスではアラブ系の市民が暴動を起こしている。もともとはテロ対策のために警察の権限を強化したのだがフランスの警察には人種差別的な考え方を持った人が大勢いて「暴徒は社会の害虫」などと嘯(うそぶ)く。マクロン政権も暴徒にはなす術がなく「子供たちを抑えるのは(警察ではなく)親の務めだ」とか「暴力的なテレビゲームが悪い」などと言っている。拘束者は2300人を超えた。

この動きはおそらく「移民嫌い」の人々の気持ちを刺激し極右政党の躍進につながるはずである。彼らは移民は「フランスらしくない」と感じている。フランスの警察当局が公然と極右的な表現を使うようになったのはその表れの一つと言って良いだろう。

文化戦争の根本には「群れ」同士の価値観の相違がある。1990年代から顕在化した動きで2015年に「暴力につながる」という懸念があった。2015年の文章では「司法は文化戦争には踏み込まない」とされていた。だが2023年はむしろ司法こそが文化戦争の最前線でバイデン政権に挑戦状を叩きつけている。また2015年には「暴力の恐れ」だったがこれも2023年には2300人の拘束者になった・

今回の動きを見ていると「次に起こる戦争」は第一次世界大戦や第二世界大戦のように構造化されたものではないかもしれないと感じる。

「構造化されていない」には三つの意味がある。まず「国どうしの陣営」が必ずしも明確にならない。次に国の中にも争いがあり責任者が誰だかよくわからない。現在の戦争はロシアとウクライナの間で行われていると思われてきたが、実はロシア(正規軍)とロシア(ワグネル)が対立していたり、ベラルーシが関与していたりする。この地域だけでも構造がはっきりしない。これにアメリカやフランスなどの文化戦争が加わる。

こうした様々な事象がリンクすることで我々の世界は既に10年前とはずいぶんと違う状況になっている。例えばこれに米中摩擦などを加えれば状況はさらに複雑なものになるだろう。そしてそうした状況が五月雨式にSNSを通じて我々の意識の中に浸潤する。

さまざまな事象を単に並べたため漠然と「何が起こるか不安だ」と感じる人もいるだろう。情報が五月雨(さみだれ)式に入ってくると不安ばかりが積もることになる。できるだけ背景にある構造を分析し不安を取り除かなければならない。

浸潤を防ぐためには免疫力を高めることが必要だ。

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