マイナカードを使った住民票サービスでまた不具合が起きた。デスマーチが第2フェイズに突入したようだ。実はデスマーチを止めるのは非常に簡単だ。単に落ち着いて全てを止めてしまえばいい。
ただ、実際にデスマーチプロジェクトを経験したことがある人は「その簡単なことができない」と感じるのではないだろうか。このまま歩き続けたら死んでしまうと分かっては歩みが止められない。だからこそデスマーチ(死の行進)と呼ばれるのである。
「住民票誤交付再び 富士通Japan、コンビニ交付システムを再停止 総点検したが修正漏れ」によると、交付システムが再び止まった。富士通Japanはすでに問題を特定しているはずなのだからバグが修正できないはずはない。
原因は意外なものだった。
富士通によりますと、2019年にも住民票のデータの更新中などにこうした不具合が起きていて、当時、全国の自治体でシステムの修正を行いましたが、宗像市では変更されていなかったということです。
今回問題があったシステムはきちんと修正した。だがシステムは別のシステムに依存している。この「2019年に不具合が見つかったシステム」が福岡県宗像市では変更されていなかった。落ち着いてチェックすればおそらくこれを見つけるのはさほど難しくなかっただろう。
岸田政権は秋に総選挙を予定しているといわれている。しかし足元で支持率が下がっておりその原因の一つは「マイナ問題だ」とされる。つまり、これが解決しないと選挙ができない。スケジュールを逆算すると8月までにはなんとかしなければならない。
当然こういうことになる。
そもそも普及を焦って現場に負担をかけたことが今回の問題の根幹だ。だがその反省は行われず、今度は「総点検を急げ」と指示したことで現場に皺寄せが出ている。
富士通Japanもおそらくこうした政治側の空気を感じ取っていたのだろう。急いでシステムを修正した。だがそのシステムが依存しているシステムにまでは気が回らなかった。そのため宗像市のような事案が発生してしまった。
「政府は何をやっているんだ」とか「選挙スケジュールありきで現場を混乱に陥れるとはけしからん」と言いたい気持ちは山々なのだが、もはやそんなことを言っていても仕方がない。とにかく一度落ち着いて対策を話し合うべきだ。そのためには一旦これまで動かしているプロジェクトを一度止めなければならない。
しかし、過去に「ITデスマーチプロジェクト」を経験したことがある人なら「その簡単なことが一番難しい」と感じるだろう。チームメンバーもマネージャーも全容がわからなくなっているため「もう止めないとどうにもならないところまで来ている」のかが判断できない。
どうやら岸田政権もそのような状況に置かれているようだ。
ただし、デスマーチプロジェクトの経験者なら「これは崩壊の次の段階を進んだな」とわかるはずである。リソースの逐次投入をしても出血が止まらず現場の士気が落ちてゆく。客からはクレームの電話が鳴り止まなくなり最終的に誰かが「敗戦宣言」をするまで行進が続くことになる。つまりもうどうにもならないというところまで行進を続けざるを得ない。これが「デスマーチ(死の行進)」の所以だ。「ああこのままでは全員行き倒れだな」と理屈では分かっていても誰も「もう止まりましょうよ」とか「ゆっくりやりましょうよ」が言えない。
ただやはり全体を冷静に捉えると理不尽なものを感じる。
秋に選挙がしたいというのは岸田総理が総裁として再選されるための「自己都合」である。だが現場に極端な負担がかかると問題の解決は難しくなる。結果的に「日本にはどうせIT化など無理なのだ」とか「マイナシステムは元々無理なシステムだったのだ」という極端な評価が広がりかねない。
ここはやはり勇気を持って一時停止ボタンを押すべきではないかと思う。政権の存続よりも問題解決の方が有権者にとっての優先順位は高いはずだ。岸田総理は全体が見えなくなっているようだが、おそらく周りに「これは一度落ち着いてみては」と言える長老格の人もいないのだろう。