安保法案の成立を受けて、共産党が民主党などの野党に向けて「選挙協力」を訴えた。国民連合政府を作るのだと言う。これが実現し、国民の支持を得る事ができれば、日本ではじめて共産党が政権党になることになる。共産党は今でも共産主義の実現を目指しているので、政権が根付けば日本は共産主義の国になるかもしれない。戦後、資本主義の先進国が共産化した事例ははない。
これを受けてTwitter上には様々な声が上がった。安保法案に反対していた人たちの中には期待する声が多い一方で、ジャーナリストの江川紹子さんは「本気でやるなら水面下で交渉していただろう」と指摘している。
安保法案は早くも民主党にとっての鬼門になりつつある。「戦争は良い事ですか、悪い事ですか」と聞かれれば、大抵の国民が「悪い事だ」と言うに決まっている。ところが「地域を活性化します」と約束する政党と「戦争法案を廃止します」という約束する政党が並んだら、有権者はどのような反応を示すだろうか。「有権者の利益を放ったらかしにして、安保法案か」と思うに決まっている。経済でよい政策を出せないから、安保法案を言い続けているのだろうと考える人も多いかもしれない。
加えて自民党寄りの思想信条を持つ議員は動揺し、一部は離反するだろう。Twitter上では既に動揺している議員もいる。
一方で、共産党との共闘を断れば「民主党は、やはり自分たちの支持拡大の為に安保法案を利用していただけだ」という印象を与えるだろう。反対派は「運動に本気を示した」共産党を支持する事になる。選挙区では勝てないだろうが、比例区では躍進できる。
さて、この状況は結果的に自民党を利する事になる。自民党は利益誘導型の選挙活動を続けるだろう。特に地方の有権者は「自民党が地域に利益をもたらしてくれる」と感謝すらするかもしれない。この原資の半分は国債由来で原資の多くは国民の預貯金だ。つまり、国民は「自分の預貯金をばらまいてくれてありがとう」と言っているのである。私有財産を国家が召し上げて(あるいは一時的に借りて)国有化しているのと同じことで、社会主義的な考え方なのだ。
安倍首相の祖父である岸信介は日本を社会主義化した「革新官僚」だった。戦争で資源が逼迫したために、国家総動員態勢を構築する必要があったのだ。革新官僚はソ連の計画経済をモデルとしたので共産主義的だと非難された。その体制は戦後も引き継がれ、現在でも劣化したまま残っている。安倍首相は「給与を上げるように」と企業に指示した。自由主義経済の国ではあり得ないことだが、日本ではこれを批判する人はいない。
また、電波行政でも社会主義的な体制が残っている。携帯電話やテレビなどの電波は国家からの割当制になっているそうだ。外資が参入するのを嫌がっているのだと指摘する人もいる。しかし、競合がなくなり携帯電話料金が高止まりしたので、首相自ら「携帯電話料金を下げるように」と指示し、通信各社の株価は下落した。私企業の経営を妨害するのは、資本主義国ではタブーだが、日本ではこれを非難する人は誰もいなかった。
日本が共産党政権を支持して共産主義国が成立する見込みはほとんどないと言ってよい。利益誘導型の政治に慣れた有権者は、民主党が安保法案にこだわればこだわるほど離れて行くだろう。だから、政権を取るつもりのある野党は早くこの問題から離れるべきだ。一方で、利益誘導型の政治は持続可能性が低いことを有権者に分からせないと、私有財産は国有化されて返って来ないかもしれない。
自由主義を標榜した共産主義国家が憲法改正なしに成立する可能性もある。共産主義を標榜しつつ格差を拡大させて世界第二位の資本主義国になった中国と並ぶという不思議な光景が東アジアに並ぶかもしれない。