何気なくPEOPLEという雑誌を開く。載っているのは、主に芸能人のゴシップ記事だ。そんな雑誌の終わりの方に決まって手や足のない人の写真がある。顔にやけどのある人を見かける事もある。イラン戦争の復員兵たちだ。日本ではなかなか想像できないことだが、アメリカでは普通の光景らしい。
春頃から始まった集団的自衛権を巡る対立を見るたびに、このことが頭に浮かぶ。日本人はこの光景に耐えられるのだろうか、政府はどう「説明する」のだろうかと思うのだ。
米軍の死者数は4,000名以上だとされるが、日本ではイラク戦争の死傷者は単なる数字として扱われる。この他に、けが人が30,000万人以上いるのだが、この人たちが消えてなくなることはない。そのまま社会が受け入れなければならない。だから、アメリカではこれは単なる数字の問題ではないのだ。
復員兵の中には自殺をする人もいれば、精神的に異常を来して殺人を犯す人もいる。こうした「事件」が新聞に載ることもあるのだが、全てがマスコミで扱われることはない。アフガンとイランの復員兵は1日に22人も自殺しているという話がある。もはや日常なのだ。
今回の法案については、賛成とか反対とかいろいろな意見があるだろう。こんな悲惨な経験をするくらいなら「戦争法案」を絶対に認めたくないという人もいるだろう。だが、アメリカ人の立場に立つと、アメリカ人はそれだけ多くの犠牲を引き受けているのだから、便益を受けている国が知らないふりをするべきではないという意見を持つ人もいるかもしれない。
永田町の周辺では、今日一日混乱が続くだろう。目の前にいる対立に目を奪われて、自分たちが何をしようとしているのか、どこに行こうとしているのかについて考える事は難しいかもしれない。
それでも、と思う。せめて一分間だけでも冷静になって、普通の新聞や雑誌に復員傷兵の記事が載るのを想像してみて欲しい。その記事をみたあなたは納得して彼ら(彼女かもしれない)を受け入れることができるのかを考えてみるべきだ。
一分間目をつぶった後に、もう一度テレビを通じて行われていることを見て欲しい。デモの現場にいるなら目の前で行われていることを見てもらいたい。きっと、その光景を今までとは少し違って見えるはずだ。
できることならば、その気持ちを周囲にいる人と共有してもらいたい。本当の話はそれから始まるのではないかと思う。