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おそらく岸田総理はバイデン大統領にかなりナメられている

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バイデン大統領が発言を修正した。自分が岸田総理に働きかけたのは防衛費の増額ではなく韓国との関係修復だというのである。日本は「韓国が勝手に歩み寄ってきた」という説明をしており政府の説明とは食い違う。だが、これ以上バイデン大統領に発言の修正を求めても意味はなさそうだ。日本のメディアはこれをスルーする方向である。バイデン大統領はロシアはイラクと戦っているという言い間違いもしており認知に問題を抱えている。日本が国益を守るためにはバイデン大統領の意識の中で日本の優先順位を上げてもらう必要があるが岸田総理にはそれができていない。性格的に温和な岸田総理が日本の国益を強く打ち出せないのであれば総理大臣を別の人に代わってもらう必要があるのだが、日本の有権者は自民党の総裁を選べない。

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「ナメられている」という言い方には嫌悪感を覚える人もいるだろう。より穏当な言い方をするならば「優先順位を上げていただく必要があるがそれができていない」ということになる。「優先順位を上げていただく」ためには交渉術(手練手管)が必要だ。

高齢不安のあるバイデン大統領は発言が二転三転することで知られている。台湾に関しても「介入の用意がある」と発言し騒ぎになった。周りは「あれは戦略的な言い方だったのだ」などと取り繕ったが、おそらく完全に意図したものではなかっただろう。

今回は支援者集会で「自分が広島を含めて3回岸田総理に防衛費増額をやらせた」と自慢した。周りは特にこれを失言だとは思わなかった。しかし日本ではまだ財源の手当ができていないので「アメリカ大統領に増額を押し付けられた」では困る。そこで松野官房長官が発言を否定したことで初めてニュースになった。

抗議の結果バイデン大統領は発言を変えた。松野官房長官も一安心いったところだが一言余計なフレーズが入った「自分が主張したのは韓国と仲良くすることだった」というのだ。これも日本側にとっては都合が悪い。今回の修好は「韓国が勝手に歩み寄ってきた」ことになっている。

TBSの記者は優秀だ。バイデン大統領を批判するでもなく日本政府の対応を批判するでもなく「しれっと」このフレーズを最後に差し込んでいる。

「誤解を招く発言だった」「説得したのは韓国との関係改善だった」などと説明しました。

日本側は一旦修正を求めている。これに対応してバイデン大統領は発言を修正した。だからこれ以上の修正は望めない。このため松野官房長官はコメントは差し控えると言っている。共同通信は「余計な一言」を削除して報道した。誰もが韓国との修好はアメリカの圧力であると知っているのだからこれ以上議論しても仕方ない。

バイデン大統領は「ウクライナをイラクと言い間違える」発言を連発している。高齢不安を抱えており経済政策にも議会の運営にも行き詰まっている。やることが多すぎてとても日本にまでは気が回らない。ウクライナの戦争でも「ロシアを追い詰めること」にフォーカスしすぎている。ロシアが自壊でもしないかぎり、バイデン大統領のうちにこの紛争が終わることはないのかもしれない。彼にとっては全てが選挙キャンペーンの道具なのだ。

受け答えは短いものだったが、バイデン氏は誤って、ロシアは「イラクでの戦争に負けている」と発言した。バイデン氏は前夜にも、次期大統領選に向けた支援者との会合で、自身はロシアによる「イラクへの猛攻撃」に立ち向かうことで西側諸国を結束させた、と失言していた。

バイデン大統領「プーチン氏は戦争に負けている」 イラクと言い間違えも

世界のトップリーダーたちは自分の国を高く売りたがっている。フランスのマクロン大統領はNATOが東方に拡大するのをやめさせたい。フランスの世界に対する影響力が薄まってしまうからである。トルコのエルドアン大統領に至ってはスウェーデンのNATO加盟を認めない。アメリカはF16戦闘機の輸出を許可すればトルコが折れるだろうと思ったようだが、エルドアン大統領は最後まで粘っている。

ではなぜ世界のトップリーダーは「波風を立ててでも」自分達の国益を主張するのか。それは他の人たちもそうしているからだろう。アメリカ合衆国の優位性が際立っていた時代にはアメリカとの協力関係を強調した方が良かったが現在の世界は多極化と混沌に向かっている。状況が変化したのならそれに合わせて積極的にマインドセットと行動も変えなければならない。

特にバイデン大統領が扱える「認知」には明らかな限界がある。だが、アメリカの大統領が別の人になっても基本的な状況は同じである。現在の最有力候補は国益を剥き出しにして向かってくるトランプ大統領である。

マクロン大統領やエルドアン大統領が自分達の国を高く売りたいのには別の理由もある。彼らは国民から選ばれて大統領になっている。つまり常に国民の支援が必要だ。

一方で日本の総理大臣は国民からの支援ではなく仲間内の評価で決まる。評価軸は家柄だ。例えば次の幹事長として噂されているのが小渕優子さんだ。目立った業績はないが小渕恵三総理大臣の後継者であり故青木幹雄元参院幹事長が後見人だった。有権者は「自分達が何を言っても結果には反映されないから」という理由で容認している。諦めていると言っても良い。

さらにシステム上の問題もある。自民党の歴史は派閥抗争と簒奪に彩られている。派閥構想が激化すると経済政策が乱暴なものになる。自由放任主義が採用されやすい。池田勇人と田中角栄が代表的だ。これが加熱すると財務に詳しい財政均衡派の人が出てきて混乱を収めるという形になっている。福田赳夫がそれにあたるが自民党が政権を失う前の竹下登や宮澤喜一なども均衡派である。官僚上がりの宮沢は財政には強いかったが派閥抗争にはそれほど強くなかった。中選挙区時代の日本の政権交代は政策ではなく「強みと弱み」で起きていた。

自民党の疑似政権交代の歴史は実は中選挙区制に支えられてきたということがわかる。これを壊してできたのが小選挙区比例代表並列制だった。おそらく「喧嘩に強い総理大臣」が時々出ていたのはこうした派閥競争を「実践」で経験した人たちがいたからだろう。「30年」という期間はちょうど世代交代が完了したということを意味している。おそらく今の制度では「喧嘩に強い」「ナメられない」総理大臣は排出できないということなのかもしれない。

もちろん「日本には政策ベースの政権交代は必要だ」という意見はあるだろう。これについては別のエントリーで議論する。結論だけをいうとおそらくある程度時間と気持ちに余裕がある市民階層がなければ日本では政策ベースの政権交代は起こらない。

おそらく多くの日本人は日米同盟の破棄のような大胆な方針転換は望んでいないだろう。無党派は政治に興味もなくしており「政権交代で面倒が起こるなら今のままでも構わない」と思っているはずだ。つまり政策を検討した上で政権を時々変えてやろうという余裕もない。となると自民党内部で適度な交代が起こるか、パートナー政党の変化によって疑似政権交代が起きるような制度を作らなければならない。

これらの諸条件条件がしばらく変わらないと考えると、日本の議会与党は「あの手この手」を使ってできるだけ日本を高く売ってくれる人を代表者に選ばなければならない。いずれにせよ、岸田総理ではいかにも打ち出しが弱すぎる。アメリカ一強の時代ならば波風を立てない調和的で温和な総理大臣といえたのだろうが多極化した現在ではやや心もとない印象だ。

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