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政策ベースの政権交代が起こらないのは国民に余裕がないから

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別のエントリーで「岸田総理はナメられている」と書いた。これを払拭するためには自民党内部で疑似政権交代が起こる必要があるだろうという筋でまとめた。だがここで当然「なぜ政策ベースでの政権交代ではいけないのか?」という意見が出てくるはずである。あまり人気のあるトピックではないものの「なぜ日本で政策ベースの政権交代が起こらないのか」について議論する。

実は有権者が進んで街づくりに参加している地域がある。それが杉並、世田谷、武蔵野である。だが東京に詳しい人は「あの地域は極めて特殊だ」と感じるだろう。その他の地域では無党派の離反が進んでいる。穏健な多党政治を理想とした細川護煕氏も生活に余裕のある有閑階層の出身だ。

一方で無党派の中には諦めと言葉にならない苛立ちが目立ち始めている。9月か10月ごろに選挙があると言われているのだが投票率はそれほど高くならないかもしれない。無党派層が政治から離れると支持母体を固めている公明党と共産党が有利になる。あらかじめ政党同士がどこと組むかによって選挙結果が決まってしまうためますます無党派の政治離れが進むという構図になっている。

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今回の元々の目標は現在の「政治地図」作りだった。だが政策軸がないため「どこからまとめようか」と悩んだ。単に状況の羅列にしかならないのである。日本の政治はわかりにくいと改めて感じた。

色々な選曲を見ているうちに例外があることに気がついた。それが東京第8区(杉並区中西部)である。これまで石原軍団という漠然としたイメージで選挙に勝ってきた石原伸晃さんが小選挙区で立憲民主党に負けた。比例代表でも復活できず本人は「参議院に回りたい」と言っているそうだ。

この地区は東京でも例外的に「意識の高い」地区である。立憲民主党は世田谷区でも強い。武蔵野市の市長も「外国人に参政権を与えたい」という人が市長になっている。「街づくりに参加したい」という市民が極めて多いのだ。杉並区では市民団体が協力し新しい区長が誕生した。政権を取るといろいろなことができる。つまり一度参加すると政治が楽しくなってくるのである。

ただし、これが成り立つためには生活に余裕が必要だ。意識的にも時間的にも街づくりに参加することができる程度の余裕を持った人がある程度の塊で存在しなければならない。つまり有閑層が必要だ。もちろん地方にも「暇な老人がたくさんいる」地域はある。だが発想が限られ「政府の支援が必要だ」というようなことになってしまう。

関西にも「芦屋市」のような例外がある。やはり生活に余裕のある人が住んでいる例外的な地域だ。芦屋市では若い市長が誕生しこれまでになかった発想で街づくりが進んでいる。

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選挙制度改革についての議論が始まった。調査から分かったのは二大政党制を志向する河野洋平氏と穏健な多党政治を志向する細川護煕氏の間に最初から乖離があったという点だ。イデオロギーの違いとも言えるが見ている世界が違うとも考えられる。

穏健な多党政治を志向する細川さんは政界を引退した後で陶芸家に転身している。細川家の財産があれば暮らして行けるのだから政治も陶芸も趣味のようなものだ。つまり「人々が多様な意見を持ち寄って街づくり・国づくりに参加する」という政治姿勢が成り立つためには「ある程度ヒマで優雅な人がいなければならない」ということになる。

全国レベルではこの「余裕」が消えている。無党派層と呼ばれる人たちの多くは生活に追われ情報収集もままならない。「一ヶ月に一度まちづくり会合に参加してくれ」などと言われても「休みが取れません」ということになってしまうだろう。

これは選挙に出る側も同様である。

立憲民主党は新人(若手と女性)が選挙に出る場合お金を貸し付けると言っている。だがこの制度で当選できなかった場合借金が増えるだけである。女性が選挙に参加できないのは当然である。経済格差があり政治に参加できる余裕がある人が少ないのだ。

選挙はリスクが高く優秀な人は応募しないだろう。逆にこれを利用したのが政治家女子48党だ。政党助成金を使った「スキーム」の疑いがあり党首の地位と預金口座をめぐってトラブルがある。細川家の財産で食べて行ける細川護煕氏には全く理解ができない世界だろうが余裕がない人が選挙に参加するとどうしてもギャンブルのようなものになってしまう。

日本に二大政党制も穏健な多党政治も成り立たない理由はあれこれ考えられるのだが、突き詰めて考えれば「日本人に余裕がない」ことが原因なのかもしれない。

無党派層が選挙から離れると相対的に支持母体を抱えている政党が有利になる。それが公明党と共産党だ。自民党と公明党は強く結びつき立憲民主党と共産党は離れつつある。だから「自民党側が有利」ということになる。

政権交代を成立させようと、立憲民主党執行部は母体である連合に泣きついた。連合は国民民主党に対して「応援しにくいのでまとまってくれないか」と要請したが国民民主党から色良い返事はもらえなかったようだ。

国民民主党は既に政権交代を諦めている。だが諦めたとも言えないので「細川さんのいうことが確かならこの制度では政権交代はできない」と制度のせいにしはじめた。玉木雄一郎氏は椅子から転がり落ちたなどと言っているが、冷静に文章を読むと連合と立憲民主党に対して「政権交代などあり得ない」から協力はせずにやりたいようにやらせてもらうと言っていることになる。国民民主党が自民党政権に参加した方がおそらく疑似政権交代は簡単に起こせるだろう。

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立憲民主党は連合に期待し共産党からは距離を置こうとしている。一部に共産党に対する差別感情が残っておりこれが払拭できなかったからだろう。共産党はしんぶん赤旗の購読者が減り内部では内紛が起きている。だが、立憲民主党に対する態度はかなり強気だ。立憲民主党に対して門戸は閉ざしていないが選挙協力しないなら候補者を立てるという方針である。

一方で当初の想定通り選挙による政権交代を目指している人もいる。「壊し屋いっちゃん」こと小沢一郎氏は一清会(いっせいかい)という団体を作り野党共闘を実現すると言っている。一清会設立のニュースは報道された。だが、その後小沢一郎氏の元に人々が集まったというニュースはない。無党派層からの支持はなく従って立憲民主との内部にも大きな期待はない。

現役議員の中にも離反する人が出てきた。大田区と品川区を地盤とする松原仁氏が「自分が希望する選挙区から出ることが出来ない」として離反した。これに続き関西の比例区から徳永さんという人が離反している。

一方で自民党はもっと現実的な路線を進んでいる。公明党に平謝りし東京を除く46の道府県連での支持を文書で確約してもらった。

埼玉と愛知で県連を説得し「東京以外では協力する」ということになった。都連の幹事長が土下座してくるまで自民党を許さないというような強気の発言も聞こえてくる。「原則相互推薦」ということは「例外もあり得る」ということになる。つまり「我々が選ばせてもらいますよ」ということである。

もう一つの軸は「維新」である。「政権交代を目指せる」全国政党になるためには自民党との対立姿勢を鮮明にしたほうがいう結論になったようだ。関西での公明党との協力関係を打ち切った。維新は関西の中間階層に支持されている政党なのだが、こうした基盤は関西にしかない。与党との協力関係を破棄してしまうと今まで実現できていた政策が実現できずに「立憲民主党化」する可能性もある。

自民党都連と公明党の対立(石井歌舞伎)の時に「公明党はこっそり大阪で維新と組むのではないか?」などと言われていたがその線は消えたようだ。維新が「政権政党」を志向し始めた。松井前代表も「安易に自民党と組んで連立政権入りを目指せば有権者に見透かされる」というようなことを言っている。

政権に不満を持っている無党派層が「起き上がってくれれば」維新は躍進する。だが自民党からの利益誘導を望む人も多いだろう。今後の展開は未知数であるが「前を向いて進んでゆく」しかない。

では自民党内部ではどんな変化が起きているのか。有権者が派閥の勢力争いに介在できない選挙制度のため「内部抗争の構造」がわかりにくくなっている。中選挙区の元では「では一度有権者に聞いてみましょう」として複数の候補者を立てることができていたのだが今の制度ではそれができない。

二階幹事長の影響力が落ちて番頭格の河村建夫さんは政界引退を余儀なくされた。息子も山口から追放となり北関東の比例に回された。結局この息子は維新から出ることにしたそうだ。立憲民主党から離反した松原仁さんがいなくなった東京3区(品川、大田区の一部、東京島嶼部)から出馬する。

福岡県では麻生太郎氏の「次」が問題になっている。麻生太郎氏は息子に地盤を継がせたいが息子は政治にはほとんどタッチしていないという。福岡では麻生系の候補者がいなくなっており次回の選挙では保守分裂の選挙区がいくつか出そうだ。派閥同士の力関係は地元の市議や県議たちの人間関係で決まる。おそらくこうした地域は福岡だけではないだろう。山口県も同様の「抗争」が起きている。

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現在の選挙は有権者の知らないところで「当選すべき」候補者が決まってしまう。諦めた有権者は選挙に参加しなくなる。選挙に参加しないと衰退しているはずの組織票の存在感がさらに増してしまいさらに有権者が離反するという悪い循環が生まれている。

生活に余裕がある地域では市民の街づくりに参画できているのだから「日本人が政策ベースの政治議論が苦手」ということにはならない。単に政策論争を引っ張って行くべき人たちが忙しすぎて政治に参加できないから無党派層の離反が進んでいるということになる。

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