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選挙とデモのどちらが民主的なのか

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安保法制に関する議論が過熱するに従って各地で反対デモの動きが広がっている。デモ推進派はデモこそが民主主義だと言っている。一方で、法案賛成派は「選挙に行かないお前たちが悪いんだろう」と主張する。経済学者の池田信夫は選挙を無視してデモが民意だという朝日新聞はナチスを思わせるとまで論評した。さて、どちらの言い分が正しいのだろうか。
デモに参加している人の方が「守旧的」な考え方を持っている、というのは確かだ。
民主主義にはいろいろな物事の決め方がある。多数決とコンセンサス合意型の意思決定だ。このうち根回しを重要視するコンセンサス型の方が日本的だ。根回しを怠ると「俺は聞いていない」と文句をいう人が出てくる。今回のデモは「戦争するなんて俺は聞いてないよ」というものだから「根回しの失敗」だと言える。
これを変えようとしているのが、安倍晋三や橋下徹といった「西洋型」のリーダーだ。「決める政治」を行おうとしている。一度従ってみて、ダメなら選挙で交代させればいいというのが多数決型の政治だ。実は「決める政治」への指向は随分前から高まっていた。それがマニフェストによる政権選択選挙だった。政党が予めマニフェストを決めて、国民に選んでもらおうという仕組みである。
ところがマニフェスト型政治は3年で行き詰った。国民が変わらなかったからだ。
日本人はコンセンサス型なので、マニフェストには既に合意の形成された(つまり当たり障りのない都合の良い)事しか書けなかった。また、党内の幅のある(言い換えればバラバラな)意見の集約が十分にできず議論を呼ぶような政策は書けなかったのだろう。有権者にも原因はある。重要なことは前もって相談してもらえるはずだという思い込みがあり、事前に「契約書」であるマニフェストを読まなかった。コンセンサスが重視されるはずだという思い込みはかなり根強いのだ。
次に、今回デモをしなければならない「やむにやまれない事情」があったかを考えてみたい。
通常、デモが用いられるのは、議会に十分にアクセスができない時だ。例えばアメリカの公民権運動ではデモが多用された。黒人にも選挙権は与えられていたのだが、難しいテストを受けさせられて、理由もなく登録ができないことが多かったのだそうだ。意見表明するためにはデモをするしかなかったのだ。最近ではカタルーニャ州の独立を求めるデモが行われ、140万にが参加した。カタルーニャ人はスペインでは多数派になれないので、自主決定権の拡大を訴えてデモをしている。
つまり、大規模なデモは「民主主義が失敗して、代表者を議会に送れない」時に起こるのだ。イギリスの機関が調査した民主主義指数では、日本は「完全な民主主義国」に分類される。完全な民主主義国は2014年の調査では24か国しかない。だから、民主主義が失敗しているとは言い切れない。
しかし、現実的に日本でもデモが起きている。一体何が失敗しているというのだろうか。
小選挙区の元では限られた選択肢の中から1つしか政策を選ぶ事はできない。加えて、どの政党も当たり障りのないことしか言わない。さらに、いざ選挙で選ばれても党首の意思で政策の幅が制限されてしまうのだが、国民は党首を選べない。つまり、現在の選挙制度は国民の意思をほぼ反映しない制度になっている。
つまり、もしデモをするなら「選挙制度改革」こそが重要なターゲットだと言えるだろう。できるだけ多様な意見を国会に送り込むことこそが民主主義を成功させる秘訣だといえる。一方でこれは「コンセンサス型」政治の復活を意味するだろう。
これまでの議論で分かるとおり、コンセンサス型の政治は「決められない」「現状維持の」政治に陥る危険がある。だから、日本では長い間「強力なリーダーが状況を打開してくれればいいのに」という待望論があった。橋下徹のような「決められる政治家」が期待されるのはこのためだ。もし、決められる政治を指向するのであれば、アメリカで行われているように、1年くらいかけて政治家のマニフェストをじっくりと精査するべきだ。ただし、この場合は後で「聞いていなかった」というのはナシだろう。
いずれにせよ、次の「聞いていなかった」はかなり致命的なことになるはずだ。自民党の新しい憲法草案は、内閣の一存で集会の自由を制限ができるようになる規定がある。内閣が「公の秩序を乱すから集会は禁止だ」と言うだけで良く、かっこうよくラップなんかできなくなってしまうだろう。争乱に関する規定もあり、内閣に強力な権限が付与されるようにもなっている。
「気に入らないならデモをすればいい」は通用しないのだ。
一方で、中国の脅威から身を守るために憲法第九条を変えたいと思っている人たちにとっても都合の悪い内容だといえる。自民党の憲法修正案は革新的な(あるいは過激な)内容なので、憲法改正への国民のコンセンサスは容易には得られないだろう。