近年、様々場所で「民主主義の危機」が叫ばれるようになった。その議論の根本を探って行くと、合意形成に関する知識が明文化されていないことに原因があるのではないかと思う。言い換えれば、日本人がかつて持っていた暗黙知に基づく合意形成の秘密が失われたにも関わらず、それに代わる新しい合意形成の方法が見つかっていないことが問題になっているのだと思う。つまり、先に進むことも戻ることもできなくなっているのだ。
合意形成型の意思決定には多くのメリットがある。そのメリットとデメリットについて知ると、民主主義がどうあるべきかということが議論できるようになる。
合意形成のメリット
合意形成型の意思決定は面倒なプロセスだがメリットも多い。まず、多様な知恵が集められるのでより良い判断が下せるようになる。また、グループ内の人間関係も円滑になるだろう。さらに、実行段階では関係者の協力が得やすくなるというのも優れた点だ。
アジェンダの明確化
合意形成を目指すためには、まず「何を決めるべきか」を明確にする必要がある。次に利害関係のある関係者(ステークスホルダ)をできるだけ多く集める。さらに、関係者にできるだけ多くの正確な情報を渡して考えてもらう必要がある。いつまでに何を決めるべきかというゴールを設定するのも大切だ。さらに、議論や意思決定のプロセスに信頼がなければせっかくの合意も無駄になってしまうかもしれない。
意見と対立点の可視化
人の意見は多様なので、できるだけ多くの人から意見を聞くのが大切だ。賛成か反対かを尋ねるのではなく、その裏にある理由(個人的な好み、心配事、利害や関心)などを聞き出すべきだ。問題点はできるだけ明瞭に言語化する必要があるが、全ての人が本心を明確に言語化できるわけではない。聞き手(ファシリテータ)の手腕が問われる。また、透明性を高めるためにも、意見はみんなが見ている前で表明すべきだ。裏で一部のグループがこそこそと話しあうのはルール違反だろう。
次に、対立点を明確に提示しよう。最初にA案とB案があるとして、その案が全ての人を満足させるとは限らない。歩み寄ったり、新しい案(C案)を作る必要があるかもしれない。議論をしているうちに、最初とは違った考えを持つ人もいるだろう。
感情的な議論を避けるには
意見の相違は人と人との対立になることがあるがこれは避けるべきだ。個人攻撃も避けるべきだ。また、相手の立場になって考えることも重要だ。切迫した議論が続くと興奮して感情的な議論に発展することがあるので、小休止を入れる必要もあるだろう。中立な調停者(メディエータ)を立てると対立が激化するのを防ぐことができる。
合意形成は全員一致とは違う
合意形成は「全員が完全に納得する」のとは違う。賛成とまではいかなくても全ての参加者が受け入れ可能な案を作る事が需要だ。また全てのメンバーが採決に参加すべきだというわけでもない。情報提供だけで十分な人もいれば、議論にコミットするべき人もいる。また、できるだけ多くの人が満足する案を作らなければならない人もいるだろう。重要なのはできるだけ多くのメンバーが平等に意見を述べられるようにすることだ。
合意形成型意思決定のデメリット
合意形成型の民主主義には少数派の意見を聞き、よりよい解決策を模索できるというメリットがある。しかし、合意形成型意思決定は万能というわけではない。まず、合意形成型の意思決定は現状維持に陥りやすい。次にいつまでも合意が得られないと反対派メンバーへの敵意が造成され、グループが仲間割れする危険性もある。さらに安易な解決策に流れるグループシンキング(集団思考)も陥りやすいわなの一つだ。
つまり、民主主義は必ずしも合意形成型であるべきとは言えない。多数決で結論を出すタイプの民主主義もあれば、多数派のリーダーが意思決定を行うタイプの民主主義もある。ただし、多数決で物事を決めた場合、うまくいかなれけば、形勢が変わって合意形成がひっくり返ってしまうことも覚悟しなければならない。変革には向いているが失敗する可能性もあるのが多数決型の民主主義なのだ。