ワグネルの扱いに苦慮するプーチン大統領と危惧されるロシアの特攻メンタリティ

ワグネルの指導者プリゴジン氏が声明を発表した。彼の主張は終始一貫しているがそれを扱うロシア指導部のメッセージは二転三転しており、ロシアの「脆弱性」が改めて浮き彫りになった。この混乱は問題解決につながらず却ってウクライナ情勢を複雑なものにするかもしれない。懸念されるのがロシア指導者たちが持っている瀬戸際的なメンタリティだ。「特攻気質」といってもよい。終的には世界を巻き込んだ「瀬戸際作戦」ということになるのかもしれないが、瀬戸際作戦を実行するのはプーチン大統領ではなく「もっとヤバい人」なのかもしれないがロシアには核兵器がある。






プリゴジン氏が声明を発表した。消息は未だ不明だが主張は一貫している。SNSで亡霊のように情報を発信し続ければプーチン政権にとっては大ダメージになるだろう。プリゴジン氏はプーチン大統領は軍部に騙されていると主張している。つまり今回の特別軍事作戦には大義がないと言っているのだ。

「政府転覆が目的ではない」 ワグネル創設者、反乱後初コメント(ロイター)

プリゴジン氏のメッセージは極めて大衆迎合的でわかりやすい。合法的にプーチン政権を選んだロシア人は悪くないとした上で悪いのは「私利私欲に走る軍部だ」と言い続けている。ディープステート批判を背景に支持を伸ばしたトランプ前大統領に似ている。つまり自分はロシア国民にとって解放者になれるという主張である。責任を取りたくない市民には受け入れやすい提案だろう。第二次世界大戦が終わった時の日本人に似ている。「我々は騙されていただけ」だとして失敗を反省しなかった。

更迭が噂されていたショイグ国防大臣は軍部から報告を受ける映像をSNSに流した。こちらは報告を受けるだけであり自らが危険に身を晒すことはない。つまり大衆迎合主義者の攻撃材料が温存されたことになる。

さらにこの記事ではワグネルは東部に戻ったと書かれている。つまり全てが国軍に吸収されるわけではないということになる。プリゴジン氏がSNS経由で指令を飛ばすことはまだ可能なのかもしれない。

ロシア国防相が軍視察、ワグネル反乱後で初めて公の場に(ロイター)

プーチン大統領は刑事訴追プロセスを中止させると約束していたがロシア複数のメディアが「プリゴジン氏の刑事訴追プロセスは進行している」と伝えている。プーチン大統領の約束が果たされなかった形になる。強い指導者を求めるロシア人にとってはマイナスイメージだろう。またプーチン大統領が迷っているかあるいはプーチン大統領のいうことを聞かない人たちが検察にいるということになる。今回のモスクワ特攻では死者も出ている。軍部に納得ができない人がいたとしてもなんら不思議はない。

プリゴジン氏、反乱計画で今も捜査対象 ロシア報道(AFP)

一方でワグネルに関する扱いはさらに迷走している。そもそもワグネルは「違法」かあるいは「法的にグレー」な存在である。その「違法なもの」を規制するかについて議会で「議論がある」そうだ。

ワグネルの法的地位は不透明で、ロシアでは雇い兵は厳密には違法。ワグネルはロシアの正規軍とは独立して活動しており、最近は軍との正式な契約を結ばせるロシア当局の要求をはねつけていた。

ロシアのワグネル・グループとは何か、なぜ裏切りだと追及されたのか(Bloomberg)

ワグネルが違法であったとしても、ウクライナの紛争はワグネルの汚れ仕事なしでは継続できなかった。またそれを積極的に利用してきたのはプーチン大統領自身である。

プーチン大統領は一時は「これは裏切りである」と言い、次に「罪には問わない」とした。仮に「ワグネルが違法」だったとすると法を犯したのはプーチン大統領ということになってしまう。さらに汚れ仕事をやってくれる人がいない特別軍事作戦がこのまま続けられるのかと心配する人もいるだろう。結局「ワグネルをどう扱うのが損か得か」という程度のは話なので議論のまとまりようがない。体制を温存するためにワグネルのような影の存在は必要だが、プリゴジン氏を放置すると自分達が国民を騙した側だとして批判されかねない。

ロシア下院がワグネル規制法案を検討 プリゴジン氏の今後も不透明(CNN)

では今回の騒動がロシア政権の脆弱化を招き国際的に違法なウクライナ侵攻を止めることができるのか?ということになる。残念ながら答えはノーである。

第一に政府の説明が一貫しなくてもロシアにはそれを責め立てるメディアはない。市民も諦め顔で単に事態を傍観しているだけだ。おそらく誰かが止めてくれれば「我々は騙されていた」というだろう。単にそれだけのことである。

西側は「この違法な戦争はプーチン大統領の企みである」と考えたい。こう仮設することでプーチンさえ止めれば混乱が収まると考えることができるからだ。ただ、今回の件からもはや誰も全体をコントロールしていないといういうことがわかる。にもかかわらずウクライナとの戦争は継続している。つまりプーチン大統領を止めても戦争が止まらない可能性がある。単にカオスが広がるだけだ。

さらに今回のプリゴジンの乱からロシアは追い詰められると返って瀬戸際的な作戦を選びがちということのわかった。自分を助けるためにチェスのコマのように兵隊を利用したり占領地を焦土化したりする。「刺すか刺されるか」というメンタリティを背景に「生き残りのため」だけの行動が続いている。危機感が背景にあるため全体の不確実性を高め相手を巻き込んでゆき破局的な状況を作る。そもそもロシアのウクライナ侵攻そのものが国際社会に対する「瀬戸際作戦」だが国際社会はそれを止めることができていない。

これまでは西側がロシアを追い詰めれば何をしでかすかわからないという心配だけをしていればよかった。だが今回の件でロシアの中で内紛が起こり追い詰められた指導者が何をしでかすかわからないということがわかった。いうまでもなく特に懸念されるのが核兵器である。プーチン大統領が核兵器をいつまでも自分の管理下に置いておけるかはわからないということだ。

つまり「核兵器を懐に抱き込んで追い詰められる指導者」はプーチン大統領よりももっと「ヤバい」人なのかもしれないということになる。ソ連が崩壊した時に西側が懸念した「核攻撃の悪夢の可能性」が再び持ち上がったと指摘する人もいる。ロイターは「ヤバい人」とは書かず「ならず者たち」と表現している。

現在、米国の政策担当者が心配を募らせているのは、ワグネルの反乱で露呈した対ウクライナ戦争を巡るロシアの内部分裂が再燃すれば、一部の核兵器使用の決定権をロシア軍内部の「ならず者たち」によって掌握されてしまうシナリオだ。

アングル:ロシアの核兵器管理は正常か、ワグネル反乱で懸念浮上(ロイター)

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