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ギリシャでNDが政権を維持 経済に弱い左派は「政府批判ばかり」として支持を失う

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ギリシャで再選挙が行われND(ニューデモクラシー)が大勝した。直前に移民を大勢乗せた船が転覆していたがギリシャ国民はこの事件にさほど関心を寄せなかったようだ。SYRIZAのチプラス氏は焦りを募らせ政権攻撃に転じたがこれが返って「消極的である」とみなされたようだ。自民党や政権批判ばかりが目立ち「建設的な提案がない」という批判のある日本の立憲民主党にどこか似ている。ギリシャと日本が似ているのかそもそも左派というものがそういうものなのかはわからないのだが、とにかく共通点が多い。

今回はアルジャジーラの記事をもとに構成した。

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ギリシャ危機の後に政権を担当したSYRIZAは問題の収拾に失敗しEU主導での経済再建が進んだ。失敗によって躍進したのがND(ニューデモクラシー)だった。「ニュー」とは言ってもギリシャの二大政党制の一翼を担い続けてきた政党なのだそうだ。ギリシャは1967年に国王が追放されてから軍政化にあり民主主義が回復したのが1970年代なのである。

ギリシャは比例代表によって選挙が行われる。

少数が乱立し政権が得られる政党が出にくいため「トップの政党にボーナスを与える」というボーナス制度が存在する。SYRIZAはこれに不服を唱えボーナス制度は一時廃止された。ND側はボーナス制度の復活を訴えたが過半数の承認は得られず「一旦様子を見ましょう」ということになった。このため第一回目の選挙は「ボーナス」なしで行われた。

結局NDは僅差で過半数を取れなかった。こうなると「連立」ということになるのだが、次の選挙からはボーナス制度が使える。NDは迷うことなく再選挙を選択した。

SYRIZAが政権を取れないことがわかり支持者たちはさらに離反したのだろう。SYRIZAの得票率は5月よりも悪いものとなったそうだ。

日本では政権批判は飽きられ「提案する野党」が求められていると言われる。また人権問題に興味を持つ人も少ない。ギリシャでも同じ構図が見られる。人権の代わりに「移民に安全を与えましょう」というリベラルな政策があまり有権者たちに響いていないようである。

直前にギリシャ沖で移民戦が沈没した。母親たちは子供を守るために子供と一緒に海に沈んでしまい助かったのは男たちだけだったそうだ。事前に船が動けなくなっていた可能性があるがギリシャ当局が見逃したという疑惑がもたれている。

移民がかわいそうだとして政権批判の対象になってもよさそうなのだがそうはならなかった。ギリシャ国内でも批判があり3日間選挙運動を自粛したそうだ。何も感じなかったわけではなく罪悪感は感じていたということになる。ただこれが選挙結果に影響を与えることはなかった。結果的にギリシャ人はこの問題を「スルー」した。

この惨事をめぐる当局の対応は批判の的になり、選挙運動は中断されて、ギリシャ暫定政府は3日間の服喪を発表した。

ギリシャの有権者が期待を寄せているのが経済だ。アルジャジーラが指摘するのはギリシャのソブリン債である。投資的確資格の回復に近づき政府の借入コストが大幅に低下するだろうと期待されているそうだ。経済政策運営能力に疑問のあるSYRIZAよりもNDの方が「まだマシだ」ということになる。ND政権下でギリシャ経済は成長しつつある。

長く欧州の問題児扱いされてきたギリシャだが、経済成長率は急伸している。2021年の国内総生産(GDP)成長率は8.4%……

NDは1974年に作られ二大政党制の一翼を担ってきた。ギリシャ危機(ギリシャ危機はND政権の元で起きている)でライバル政党PASOKに敗れ下野した後PASOKと連立しなんとか命脈を繋いだ。その後、SYRIZAに敗れ再び下野するのだが2019年に息を吹き返している。一方で急進左派のPASOKはNDの政権運営の失敗によりなんどか政権を担当するのだがまとまりにかけるためそのたびに政権運営に失敗している。結局ギリシャ危機の後に空中分解しSYRIZAに取って代わられた。

政権担当に失敗しても左派のまとまりのなさに助けられてきたという点は日本と非常によく似ている。理想を追求したい人たちが集まる「左派」とはもともとそういうものなのかもしれない。

政権を維持したキリアコス・ミツォタキス首相は1990年に首相を務めたコンスタンティン・ミツォタキス氏の息子なのだそうだ。自身はハーバード大学を卒業しているという。つまり世襲の政治家一家である。これもなんとなく日本を彷彿とさせる点である。

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