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陸自射場乱射事件で新潮がフライング実名報道 動機も次第に明らかに

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陸自乱射事件でフライングの実名報道がでた。新潮を確認するとネットでは実名が出ていないようだ。つまり結果的にこれらの報道は雑誌の宣伝になってしまっている。動機も明らかになっている。どうやら「短期的動機」の組み合わせで動いていたようだ。ゲーム的感覚だったと考えると容易に説明がつくが当局の理解は追いついておらず、精神鑑定が行われることになっている。一旦実名報道が出ると国民はおそらく過剰な安心安全を求めるようになるだろう。自衛隊はそれまでの間にこうした若者に対する理解を深めた上で、それをどう「扱うのか」についての答えを出さなければならない。時間はあまり残されていない。

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陸自乱射事件でフライング実名報道が出たようだ。法的には特定少年として法的に保護されており起訴されるまでは実名報道しないのが決まりである。しかし「おそらくいずれ報道されるだろう」という目算で先に情報を出すと雑誌の広告ができる。名前は雑誌を買わないと知ることができない。

岐阜市の陸上自衛隊射撃場で3人が死傷した小銃発砲事件で、週刊新潮が殺人容疑で送検された自衛官候補生の男(18)の実名と顔写真を掲載したことを受け、日本弁護士連合会は22日、「違法で到底許容できない」と抗議する会長声明を発表した。

日弁連、週刊新潮に抗議 陸自小銃発射の実名報道

日本弁護士連合会は起訴後も推知報道は控えるべきという立場だがYahoo!ニュースのコメント欄などをみると「弁護士はいつも加害者の肩ばかり持ちたがる」というようなコメントが溢れている。「普通の日本人」の根強い他罰的感情が伺える。つまり他人に石を投げたいという人が多い。

新潮側は

残忍性や結果の重大性に鑑み、実名・顔写真を含めて実像に迫り、事件に至るまでの背景を探る報道を行うことが常識的に妥当だと判断した。

と説明しているが大衆が持っている「知りたい・罰したい」という気持ちを見越して実名報道に踏み切ったのではないか。議論になればなるほど週刊誌は売れる。

動機も明らかになってきた。地元中京のテレビ局が熱心に報道している。週刊誌報道などを合わせると普段から一人でゲームをやることが多く「本物の銃」を撃てることに興奮していたようだ。いよいよ「本番」ということになり気分が高揚したようである。メーテレは何を「今日やる」かは報道していない。産経新聞は「外に出る」のが目的だったと書いている。だが産経新聞も「じゃあ外に出て何をやりたかったのか」については書いていない。

ただ「目の前にある障壁をどうやったら攻略できるか」に頭が向いていたと考えれば合理的に説明は可能である。問題はむしろこうした「ゲーム思考」に大人たちが追いついていないという点にあるのかもしれない。

組織で動くことが前提になっている自衛隊は「3ヶ月かけて服従訓練をやる」のが基本になっている。だが服従させられる側は「どうやったらそれを切り抜けられるのか」を考えている。自衛隊当事者の側からは「軟弱になった最近の若者がキレたのではないか」という分析も出ているようだが、これでは判断を見誤ることになりそうだ。

Web上に出ている新潮の記事ではまだ「A」として扱われている。リアリティのある「戦争」が想起できていたかはわからない。また、将来に対して明るい展望も持てていなかったようだ。つまりそもそも「自衛隊でスキルを身につけて一生困らないようにしたい」というような長期的な目標設定はできていなかったのかもしれない。こうしたマインドセットのある人に「中長期的展望を持って地道に日々の訓練に打ち込んでください」などといってもあまり効果はないだろう。別のモチベーションを与え続ける必要がある。

「戦争についてもよく学んでいました。アマゾンプライムでモノクロの戦争ドキュメンタリーのような映画を観ては“お前も観ろよ”と僕に薦めてくることがありました。高校の終盤になるとウクライナで戦争が始まって、“あそこ(ウクライナ)に派遣されて死んでくるわ”と冗談も口にしていましたよ」

今回の事件ではむしろ大人の側が戸惑っているようだ。「動機がつながらない」といっている。産経新聞にも「外に出て何をしたかったのか」は書かれていない。そもそも採用した自衛隊が「理解に苦しんでいる」のが現状だ。

銃弾を得るのが目的だったとしても、「奪って何がしたかったのか」という疑問が残る。供述だけでは経緯が説明しきれないことから、警務隊などは鑑定で事件に至る詳しい精神状態を明らかにする方針だ。

つながらぬ動機、鑑定留置検討 性格「素直でない」「一言多い」―逮捕の陸自候補生・小銃発射1週間

普通の大人の常識で考えると「銃を持ち出す」のは「何かをやるためだ」と考えるだろう。だがそれは見つからない。しかしながらゲームの世界では「その場その場の問題解決をすること」が重要であって、ゴールや長期的な目標設定は必ずしも重要ではない。それはゲームデザイナーがきっとうまくやっているだろうという前提だ。

今回の分析で繰り返し「ゲームの世界では」と書いている。中には「ゲームをバカにしている」「ゲームを理解していない」という反発を持つ人が出てくるだろう。そうではない。

自衛隊の任期付き自衛官の数は充足できていない。すでにいくつか分析が出ており「若手が足りないから制度を変えた」とか「中高年を追い出すことで自衛隊員の経費を浮かせようとしている」というような実に様々な分析が出ている。比較的穏健なものは自衛隊の採用担当者に取材もしているが最も極端な分析では「予算を絞った財務省がいけない」というような組み立てになっている。今後実名報道に切り替わり報道が活発化すればこのような議論はさらに出てくるだろう。

つまり今後は「長期的目標設定ができず展望がない若者が入ってくる」という前提で訓練カリキュラムの組み直しをしなければならないということになる。

その時々のコマンドで動くことはできてもそれが中長期的な行動に組み立てられない人を前提にした訓練を行わなければならない。だから大人たちがまずゲームの本質を学ばなければならないとのだ。鉄条網で囲われた駐屯地の訓練ではマニュアルの精緻化ができる。だが実戦配備となれば詳細なマニュアルは作れない。管理する人たちの特性を知った上で指導方針を切り替えていかなければならない。

ここで障壁になるのが国民の「防衛に対する他人事感」だ。

以前、韓国の同僚に対する銃乱射事件についてご紹介した。韓国には徴兵制度があり国民はいじめによって銃乱射に追い詰められた兵長に同情的だった。

だが日本の自衛隊は「憲法の枠外」の存在だ。つまり一度何か不祥事が起きればすぐに「もっと管理を徹底させろ」という要求が出ることになるだろう。関連のテレビ報道を見ると自衛隊の関係者はすでにこれを恐れているようである。盛んに「自衛隊は信頼関係で成り立っており何かしでかすのではないかという前提で訓練カリキュラムは組めない」といっている。

すでに、特定少年の名前が知りたい、知ってSNSで社会的に処罰をしたいという欲求が高まっている。これは日本人にとって防衛や自衛隊は他人事に過ぎない。不安や処罰感情が先行した会レベルでの「安心・安全」を求めている。おそらく「何故こうなったのか」とか「何が原因だったのか」ということはあまり議論されず「とにかく防衛省や自衛隊がなんとかすべきだ」という議論が展開されるだろう。

実名報道が出ればいずれ自衛隊や政府は「説明」を求められる。それまでに新しいタイプの若者についての理解を深める必要がある。時間はあまり残されていない。

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