ハンター・バイデン氏の5年にわたる疑惑に決着がついた。BBCが「バイデン米大統領の息子、税金未納と銃所持で罪を認める」という記事を書いている。ハンター・バイデン氏は長い間民主党と共和党の政争の中心課題の一つになっている。だがこの人の経歴を辿ると「これはしんどいだろうなあ」と思える。バイデン氏には2名の息子がいたのだが兄との比較で「出来の悪いほうの息子」と見られている。兄はすでに亡くなっており永遠に勝つことができない。そんな彼の置かれた境遇と「中年の危機」について考えた。
民主党の有力な大統領候補の息子であるハンター・バイデン氏は2つの問題を抱えているとされてきた。「故意に所得税を支払わなかった」という問題と麻薬を常用しているのに拳銃を手に入れたという疑惑だ。今回司法取引に応じたことで銃の保持保持に関しては刑事訴追を免れる。税金の支払い問題に関しては起訴されるが収監はされないのだという。BBCの他も多くのメディアが記事を書いており政局的関心の高さが窺える。
- 米バイデン大統領の次男 “罪を認める” 司法省と合意(NHK)
- バイデン氏息子有罪認める、連邦税巡り 司法取引 大統領選に影響も(ロイター)
- 米司法省、バイデン大統領次男を連邦税の犯罪で訴追-銃所持では猶予(Bloomberg)
バイデン大統領は再選を目指すキャンペーンを始動したばかりだ。ハンター・バイデン氏の疑惑が長引けば選挙戦に影響が出ることは避けられない。今回の司法取引が「偶然」だったのかに関しては意見が分かれるのだがどっちみち彼の処遇は常に政局と結び付けられてきた。
共和党の攻撃材料は二つある。一つは「処分が甘すぎる」というものだ。共和党は「民主党が司法を武器化している」と言っている。身内には甘く敵対勢力には厳しいという主張である。どちらも悪いことをやっているのは間違いがないが「ダメなものはダメ」と言えなくなっているのが現在のアメリカである。規範が相対化しているのである。
もう一つ「大きな罪を隠すために小さな罪だけを認めたのでは?」という指摘がある。ハンター・バイデン氏には「海外企業から多額の報酬をもらったのではないか」という疑惑がある。ウクライナ、中国、カザフスタンなどの企業から不透明な巨額報酬を受け取っていたのではないかと疑われているのだがこれがジョーバイデン氏に流れれば第一級の政治スキャンダルになる。徴税期間の特別検査官が「政治干渉があった」などと告発していたことから「全く何もやましいところがなかった」とは言い切れないようだ。
一方でCNNの記事を読むと別の感想を持つ。それがハンター・バイデン氏個人の問題だ。ハンター・バイデン氏の生活は「何か」をきっかけに破綻寸前だったようである。だがその「何か」について語るメディアはない。
ハンター氏の24年間の結婚は2017年の離婚で終わっている。なんらかの強いストレスがあり酒とストリップクラブに溺れていたようだ。同じ年に亡くなった兄の未亡人と関係を持っていたともされる。ハンター・バイデン氏の人生にはこの「兄」の影が強くチラつく。
ハンター・バイデン氏の兄のボー・バイデン氏はデラウエア州の司法長官を務めジョー・バイデン氏の後継として上院議員になるという話やデラウエア州の州知事になるという話も出ていた。つまり兄は父親の後を受け継ぐべき「表の存在」だ。だが若くして脳腫瘍で亡くなってしまう。
ボーとハンターはバイデン氏の最初の妻との間にできた子供だ。幼い頃に交通事故に遭い母と妹が亡くなっている。兄妹も事故の後で入院生活を送っており普通の兄弟よりは家族の結びつきが強かったかもしれない。表で輝く兄弟と比べて「では自分はどうなのか」ということになるだろう。しかも兄は亡くなっているのだからもう永遠に勝つことは出来ない。
兄は順調に「表」のキャリアを伸ばしてゆく。だが、ハンター氏は政治に極めて近いところでロビイストとして活動を始めた。この活動についてはいくつかの異なる見方ができる。
- ハンター・バイデン氏が父親の威光を利用してきた。
- 周囲がジョー・バイデン氏に近づきたくてハンター・バイデン氏に近寄ってきた。
- 父親のジョー・バイデン氏が息子二人を利用していた。兄は表の存在としてそして弟は裏の存在としてだ。
ハンター・バイデン氏と外国企業の関係は結局は明らかになっておらず従ってジョー・バイデン大統領と息子の真の関係がどんなものだったのかはよくわからないままである。「周囲の期待」についてはおそらくハンター氏にもよくわからないだろう。
ではハンター・バイデン氏がそんな境遇を是認していたかということになる。どうもそうではなく自分の人生から脱却しようとしていたようだ。つまり「本当の自分の価値」について考えてようとしていた。
だが、これも挫折の連続だった。
2013年に海軍予備役に応募するるがコカインの尿検査に引っかかり失格になっている。軍隊ならば政治と距離を置き実力で自分なりの活躍ができるかもしれないと期待した可能性があるがこれはコカインのために断念せざるを得なかった。この時ハンター氏は43才だったそうだ。
さらに2020年には政治と全く違った「絵画」の世界に活路を見出そうとした。それでも父親の勢力圏を逃れることはできなかった。「未発見の芸術家」として絵絵を描いており画商に高く買い取ってもらっている。無名の画家の絵にそれほどの価値がつくとは思えない。共和党は「バイデン大統領に取り入ろうとしている人」が購入しているのだろうと問題視している。
ユングは40歳以降の自分探しを「中年の危機」と呼んでいる。なかには中年の危機をうまく利用して自分自身を見つけるのに成功する人もいる。これを「個性化」という。ハンター・バイデン氏の40歳以降の人生はまさに中年の危機そのものである。
これまでの報道では比較的若い頃の写真が使われておりいかにも「苦労していない放蕩息子」という印象だった。だがCNNの画像を見るとシワが深く刻まれた疲れ切った中年に見える。
今回の「有罪を認めた」という報道はとかくアメリカの政局として捉えられがちだ。ハンター・バイデン氏の内面的な苦闘に目を向ける人はあまり多くないのだが、今回の報道で出てくる写真をいくつも見せられると、彼の辛くて長かったであろう中年期の歴史に思いを馳せざるを得ない。
危機を脱却して「個性化」ができるのか、あるいは今までのように何かに溺れる道を選ぶのか。「変化と成長」のプロセスは一生続くが、なんとなくやり過ごしてしまう人もいればかなり強い変化に晒される人もいる。ハンターバイデン氏のそれはかなり強烈なものであったようだし、今でもそれは続いている。
Comments
“アメリカの不肖の息子ハンター・バイデン氏の中年の危機” への2件のフィードバック
まだ内容は読んでいませんが「不肖」ではないですか。
ありがとうございました。修正しました。