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岸田総理が解散権をおもちゃにした理由をあっさりと自白

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岸田総理が衆議院解散を仄めかした理由を「自白」した。これは結構取り返しのつかない発言だなと感じる。民主主義は建前上「民意によって定められた枠の中で意思決定する」ということになっている。しかし、内閣にどうしてもやりたいことがある場合はそれを説明した上でもう一度民意を問い直すのが解散権の持っている本来の意味あいだ。

岸田総理はそれを悪びれずに「おもちゃにしました」と告白した。おそらくご本人にはそのようなつもりはないのだろう。

ただ「民意」には与党も含まれる。「解散を仄めかさなければ通常国会を乗り切れなかった」と言っているのだから「与党も抑えられなかった」と言っていることになる。秋には増税議論も控えており国民はマイナンバーカードの問題に不安を感じている。総理大臣のリーダーシップについて岸田氏自身が不安を感じていると告白してしまった意味は大きい。

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岸田総理は「防衛財源法」を成立させるために野党を牽制する意味で解散をちらつかせたと言っている。つまり通りそうにない法案を通すためのツールとして「本来は解散するつもりがない」のに解散を仄めかしたことになる。

岸田文雄首相は21日の記者会見で、通常国会中の衆院解散に含みを残した自身の発言について、野党のけん制が目的だったと釈明した。「内閣不信任決議案提出の動きがあり、防衛力強化の財源確保法成立が不透明な状態となっていたことが背景だ」と述べた。

まず所々嘘があると思う。野党となっているが実際には与野党だろう。さらに防衛力強化だけではなくLGBT法案も難航が予想され実際に事実上の造反者が出た。重大な「自白」であるがおそらく言わなかったことのほうが重要だ。

なぜこれが取り返しのつかない告白になるのだろうか。

議会解散権は投票によって得られた民意をすべて内閣総理大臣がなかったことにできるという「ちゃぶ台返し」の権利だ。通説では内閣総理大臣の専権事項と言われているのだが、現行憲法がこのような「専権事項」を容認しているかについては議論がある。先進国で首相にこのような議会解散権が認められているのはイギリスだけだなどと言われる。ちゃぶ台返しはできるだけない方がいいというのが成熟した民主主義の考え方である。

今回の通常国会の後半テレビは盛んに「岸田総理は本当に解散をしようとしているのか」ということを話題にしていた。だが、法案を通すための方便として解散を仄めかしているだけですよ」などと説明した政治評論家はいなかった。実際に解散が選択された場合に「その解散には大義があった」と説明ができなくなってしまうからである。

建前上「民主主義において議会は民意の象徴」ということになっている。だから国権の最高機関なのだ。つまり総理大臣が気に入らないからという理由で民意を度々ひっくり返すのは主権者に対する重大な挑戦行為だ。政治評論家が「戦術的解散論」を展開できないのはそのためだろう。一応彼らは議会解散が何を意味するのかがわかっている。そして岸田総理はそれが理解できていないと自白してしまった。おそらく本人にはその意識さえないのだろう。

もちろん立憲民主党にも問題がある。内閣不信任決議は解散という結果を伴うことがある。つまり彼らは「自分たちが多数でない民意など認められない」と言い続けている。これはただの現実逃避であり民意の否定だ。特に安住国対委員長の「病状」は深刻だろう。内閣不信任案と解散は関係がないなどと再々主張しておりその意見が通ると無邪気にも信じていたようである。彼が本気でそう発言しているならば立憲民主党は「立憲」の文字を二重線で打ち消すべきだろう。

岸田総理の「ご都合解散論」の背景にあるのは不信任案の濫用であることは間違いがない。

今回の問題の最も深刻な点は「誰もこのことに怒っていない」ことなのかもしれない。河野洋平氏が「当初の想定とは違っていた」というように現在の小選挙区比例代表制は民意を反映しているとは言えない。このため「国会が民意を代表している」などと信じている人はもうそれほど多くないのかもしれない。

国会の規範は相対化している。つまり「ダメなものはダメ」と言えなくなっている。

山本太郎氏のダイブ事件は署名を背景に「お咎めなし」になった。当ブログのコメント欄にも「入管法の実態が伝わっていないのだからむしろそれを問題視すべきだ」というコメントがついている。すでに国会には大義などなく従って多少の逸脱行為は認められるべきだということだ。文脈によっては暴力もやむなしというのが相対化の持つ意味だ。

国会に登院する見込みがない国会議員を当選させるために票が集まったのもそのためだろう。どうせ国会議員は居眠りばかりで何もしていない。だったら別に登院しなくてもいいではないかということになる。与野党共に民意の持つ意味をおもちゃにしておりそれは国会の権威低下になって跳ね返っている。

一部の野党だけが問題なのではない。与党議員が「お腹が痛い」と言って議場から逃げ出してもなんのお咎めも受けない。それが現在の国会の現実である。

さて、今回の「ご都合解散戦略」でわかったことがもう一つある。

仮に与党が盤石であれば「防衛財源の問題」がここまで揺らぐことはなかっただろう。どっちみち野党が抵抗しても全ての法案は与党の賛成多数で可決される。つまり、岸田総理が本当に恐れていたのは与党の引き締めだったのではないか。足元では都連や県連が公明党とことを構えようとしており、LGBTでは保守派の反乱も予想されていた。

今回岸田総理は防衛財源の話はしたがLGBT法案の話は持ち出さなかった。LGBT法案では実際に「事実上の造反」が出ているが岸田執行部はこれを抑えられなかった。参議院では一応処分が出ているが衆議院に処分すらできていない。つまり今後もこの問題は尾を引くはずだ。造反を最低限に抑えるためには選挙を仄めかすしかない。こうしないと「公認権」の持つ威光を議員たちに意識させられない。政策や話し合いに興味がある議員はそれほど多くないが、自分の議席にしか興味がない議員が多いということになる。

この延長で防衛財源関係に造反が出れば岸田総裁の面子は丸潰れだ。本来ならそれを裏に回って抑えるのが茂木幹事長の仕事だが彼は表で踊りたい。仮に安倍派からまとまった形で防衛増税反対論が出ればおそらく民意は宏池会ではなく清和会系の自民党を応援するだろう。小さな政府を主張する維新との連合を期待する声も出かねない。仮に今は沈黙している菅氏のグループがこれに乗れば事実上の政権交代になってしまうだろう。増税阻止は国民にとって大義になるが財政均衡派の宏池会にとっては敗北だ。

岸田総理は今回の自白で「与党の結束に不安を持った」と告白している。「私は民意を弄びました」と言っているだけでなく「今の与党はまとまっていない」と脆弱性もひけらかしている。

「ご都合解散論」と呼ぶか「戦術的解散論」と呼ぶかは別にして、これはかなり重大な秘密の告白だったが岸田さんはまだそのことに気がついていないかもしれない。

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