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「現在の小選挙区比例代表並立制はなんか考えていたのと違うっぽいんだよね」と河野洋平氏

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かつて自民党の総裁だった河野洋平氏が「今の小選挙区比例代表制は当初考えていたものと違う」と言う認識を示した上で「驚いている」といっている。以前から「民意が反映されない」ことを指摘する人の多い制度なので「言われたこっちがびっくりする」ような感想だ。そもそもなぜ河野氏がこのような発言をするに至ったのかについて調べてみた。

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NHKはこう書いている。

  • 河野氏は「政治とカネの問題などによる政治不信の高まりを打破するために、今の制度の導入を決めた。
  • 小選挙区制は、有権者が政策本意で政党中心に投票することを想定していたが、現在そうなっているかギャップを感じる。
  • 小選挙区と比例代表の重複立候補を認めていることについて「国民に支持されているのか、世論とよく向き合う必要がある」と指摘した。

つまり、政策ベースの政権選択が行われていないという現状を示した上で、そもそも小選挙区で落ちても比例で救われるなら選挙になんか行かなくてもいいではないかという制度になっていると批判している。

日経新聞は「(小選挙区制に関して)当時の見方、想定と今とはだいぶ差があって正直私も驚いている」と述べたと書いている。「当初設計通りに行っていない」と痛感していた人たちは多いのではないかと思う。つまり「今更驚いた」などといわれてもこっちがびっくりしてしまう。

少なくとも報道される範囲では河野洋平さんは「何がいけなかったのか」については総括していない。単に30年もの長い時間をかけて「なんだかわからないけど理想が実現できなかったよね、おかしいよね」と驚いているだけになってしまう。河野さんは詳細な分析をしているのかもしれないが、少なくとも今回の報道からはそれが見えてこない。

そもそも河野洋平さんと言うのはどんな人なのか。

内閣官房長官時代に慰安婦問題で旧日本軍の強制があったと認める「河野談話」を出しており今でもこれが保守界隈の人たちから反発されることがある。つまりかなり「リベラルで理想主義的な」思想の持ち主だ。

だがその「血筋」はリベラルではない。

河野洋平氏は吉田茂氏と激しく対立した河野一郎氏の息子で河野太郎大臣のお父さんである。現在の麻生派には吉田茂の孫と吉田茂に激しく対立した河野一郎の孫がいるということになる。なぜそうなったのか。

河野洋平氏は河野一郎氏の息子だが父親の政治的な血統は受け継がなかった。党内改革ではダメだと考えた上で「新自由クラブ」を作り外に出た。しかし新自由クラブは政権政党にまでは育たなかった。結局自民党に復党するのだが「元いた中曽根派のタカ派体質」に馴染めず宏池会に入り直している。その後に下野した自民党で総理大臣にならないままで総裁になった。自民党は社会党と連立政権を組むのだが河野氏は総理大臣になることを諦めて村山内閣が成立している。

その後、宏池会で「跡目争い」が起きる。派閥内構想に負けてしまい麻生太郎氏などを引き連れて河野派を結成した。これが現在「麻生派」と呼ばれる派閥だ。吉田茂氏と激しく対立した人の孫である河野太郎氏が麻生派に所属しているのは父親の時代に転換があったからなのだ。

では、なぜ今の時期にわざわざ河野さんの発言が取り上げられたのか。

与野党の委員会がわざわざ話を聞きに行っている。「現在の選挙制度は変えなければならない」と言う認識が与野党にあるためだろう。つまり制度を作った人に「どうも想定とは違うようだから変えてみてはいかがか?」といってもらうために議論の空気を作っているのだ。

そもそもなぜ今の選挙制度は「思っていたのと違う」のか。

小選挙区導入の思惑には「社会党排除」の狙いがあった。つまり自民党だけで政治がしたかったのである。

予期せぬ造反で解散に追い込まれた大平政権時代から宮沢政権にかけて自民党の派閥抗争が極めて熾烈になっていた。中選挙区制で「たいてい三番目に当選する」社会党を排除した上で、自民党の派閥がそれぞれAチームとBチームに分かれて政策で競いあえば現代的でアメリカのような政党政治が誕生するのではないかという思惑があったのだろう。党内で内輪揉めをやるくらいなら政策で競い合ってはどうか?という気運があったのだ。

細川政権の当事者は小沢一郎氏と羽田孜氏である。彼らももともと自民党にいた人たちだが「前の世代と違って自分達は政策本位の政治がやれるのだ」という自負があったのかもしれない。

しかし政党シンクタンクがなく実質的な政策を官僚に依存してきた日本で政党政治が根付くことはなかった。狭いムラの人間関係に縛られて「あの人が好きだから」とか「嫌いだから」という人間関係をもとに離合集散を繰り返すばかりだ。

これが「結実」したのが2009年の民主党のマニフェストだ。パンフレットとしての体裁は立派だったが「財源についてはどうにでもなるし見つからなければゴメンナサイでも構わない」という認識だった。結局野田政権で「結局消費税で行きます、みなさんゴメンナサイ」ということになってしまった。

結局、政策ベースの政治どころか「政権交代すらしんどい」というような事態になっている。

現在の選挙制度を否定してしまうと「その選挙で選ばれた政権には正当性があるのだろうか?」という話になりかねない。にもかかわらず自民党も入った上で「選挙制度の見直し」が求められているのはどうしてだろうか。

建前は産経新聞の記事に書かれている。自己否定とも取れる発言だ。今の政権ではバランス良く未来が切り拓けないといっていることになる。

会合後、協議会座長の逢沢一郎衆院議員(自民党)は記者団に「現行の制度では日本のこれからをバランスよく切り開けないのではないかと強い危機感を共有している。大きな議論をせざるを得ない」と説明し、衆院選挙制度の抜本改革も検討する考えを示した。

自民党の中には現在二つの不都合がある。地方が衰退し合区が求められているのだがこの合区を解消して県連の利権を確保したい。また国勢調査のたびに選挙区の区割りが変わってしまうとその度に選挙区調整が必要になる。これをなんとかしたいというのが本音なのだろう。

一方で維新と公明党は「全国をいくつかのブロックに分けた選挙区」に改変したい。共産党は比例代表を増やしたいと考えている。その方が候補者が増やせるからである。維新は「定数も削減しろ」といっているようだ。

現在、維新が躍進している。つまりここで自民党と立憲民主党が自分達に都合のいい選挙区制度をゴリ押しすれば、おそらく維新が反発するだろう。だが維新のいうことを聞いてしまうとそもそもの利権である選挙区の数が減ってしまう。

サッカーや野球に例えて言えばプレイヤーがルールについてあれこれと語り合っているというような状態だ。とてもまとまりそうにない。

今回の河野洋平氏や今後聴取を予定されている細川護煕氏には理想主義者的なところがある。おそらく現役の議員たちは「今の制度は理想的ではない」という言葉だけを切り取り「だから今の制度は変更しないといけない」と言い出すだろうが、それぞれの政党規模によって「トクになる制度」は違っておりおそらく制度がまとまることはなさそうだ。

さらに今回は触れなかったが「憲法改正を絡めるかどうか」という話もある。憲法改正の機運を埋没させたくない安倍派の一部が選挙制度についても憲法で話し合うべきだといっている。だが、立憲民主党は憲法について話し合うなら総理大臣の解散権を制限せよといっている。囲碁、将棋、オセロに例えると「形成が不利になりそうだな」という時に与党だけが盤面をひっくり返し「もっとフェアなゲームを最初からやろうじゃないか」と宣言できるような状態だ。

見ていて楽しいはずがない。

有権者の中にも「高齢者が多いからいつまで経っても若者の意見が反映されない」から選挙に行かないという人がいる。つまり誰にとっても理想的な選挙制度とは程遠い。だが「みんな薄々これはまずい」と思いつつも各論でまとまらないということになりそうだ。

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